コミックナタリー PowerPush - 映画「アップルシード アルファ」

日本版「アップルシード アルファ」公開記念 荒牧伸志監督×中田ヤスタカ(CAPSULE)対談 SF映画に対する思いとは

現役のクリエイターとして、その先にあるものも提示したい

──ハリウッドのSF映画の作り手にも影響を与えてきた「アップルシード」ですが、ハリウッドのSF大作では、アニメやCGでしか表現できなかった世界を100億も200億も予算をかけて、最新の技術を投入して、実写化してしまうじゃないですか。今また第何次かのSF映画ブームでもあるわけですが、そういう時代に荒牧さんはどのような思いで作品を作り続けているんでしょうか?

荒牧伸志

荒牧 確かにハリウッドで活躍している監督の中には「アップルシード」の大ファンだと公言してくれている人もいるし、僕らもまたそうした作品から影響を受けてきたわけです。ただ、たとえば「パシフィック・リム」や「GODZILLA ゴジラ」のような作品を観て、確かに彼らは日本のオリジナルに対してリスペクトをしてくれていて、それは作品を観ていてもひしひしと感じるんですけど、それってつまり、「あなたたち日本人は過去に素晴らしい作品を作ってきた」と言われているのと同じだと思うんです。それはそれでありがたいけど、現役のクリエイターである自分としては、やっぱりちゃんとその先にあるものも提示したいと思ってこの仕事をやっていて。ハリウッドと競うつもりはないんですけど、それでもやっぱり彼らに対しても刺激的なものを世に出し続けていかなきゃいけないと思っています。まあ、結局はやりたいことをやっているだけではあるんですけど(笑)。

中田 完成した作品を世の中に広める時の宣伝の力とかは、もちろん海外の大きなプロジェクトと日本では違うと思うんですけど、僕はデジタルの時代になって、本質的に現場で作り手がやることは海外も日本もまったく同じだと思っていて。音楽ではもう完全にそうなっているから、もし映画で世界との差があるとしても、それが埋まるのは時間の問題なのかなって思うんですよね。

荒牧 それは細野晴臣さんも言ってました。まずミュージシャンがコンピューターで音楽を作るようになって、そこから時代を経て、映画監督もコンピューターで映画を作るようになったって。

中田 もちろん、音楽でもライブとかの規模は違いますけどね。ただ、スタジオでやっていることはもう同じだから。そこは海外と日本の差がないというだけじゃなくて、プロとアマチュアの差もなくなってきていると思います。昔は絶対にプロじゃなきゃ買えない機材を使っていることにプロの優位性があったけど、もうそんなのないですからね。

荒牧 CGの世界もそうなりつつあります。ただ、まだ物量の問題があって、作業量という点ではプロの集団とアマチュアの1人では大きな差がありますけどね。そこも、これからだんだん埋まっていくと思います。

未来に対して無条件にワクワクする

──おふたりが話しているのは、テクノロジーの進化が現代にもたらした創作におけるポジティブな変化の話ですが、一方、「アップルシード」が描いてきたのは、一貫してディストピア的な未来の世界ですよね。

映画「アップルシード アルファ」より。

中田 僕にとってSF作品というのは、そこで描かれている内容が暗くても明るくても、それが未来というだけでワクワクする気持ちが強いんですよ。「アップルシード アルファ」の舞台は未来のニューヨークですが、それがどんなに荒廃した世界であっても、今のニューヨークをある程度知っているので、「あの場所がこうなっちゃうんだ!」っていうワクワクだけで(笑)。

──その未来に対して無条件にワクワクする感じというのは、中田さんがこれまで作ってきた音楽の世界にも深く通じていますよね。

中田 僕が小さい頃って、まだ「科学万歳」みたいな世の中でしたから。エコとかそんなの関係なく、どれだけ無駄なエネルギーを使ったとしても、そこでやれるものがカッコよければやってしまおうという。自分の中で、あの時代の感覚がまだ鮮明に残っているんですよ。科学は元をとらなくてもいいものっていう(笑)。

──まだ人類が反省する前の時代ですね。

中田 そう。でも、実際にそれはもう現実の世界では無理かもしれないから、せめて映像の世界の中だけでも、そういう世界を見せてほしい。だからSF映画が好きなんでしょうね。

荒牧 子供の頃に「マッド・マックス2」を観た時も、未来の世界はものすごく荒廃していて、あそこに放り込まれたら自分はサバイブできないかもしれないけど、それがメチャクチャ魅力的に映った。それと、自分は小さい時からサイボーグになりたかったんですよ。サイボーグになったら、運動会のかけっこでも1位になれるのにって(笑)。

左から中田ヤスタカ、荒牧伸志。

──まさにブリアレオス(「アップルシード」シリーズに登場するサイボーグ)ですね。

荒牧 そうです。だから、作品ではディストピア的な世界を描いているように見えるかもしれませんが、やっぱり自分も、その根っこにあるのは未来の世界に対してワクワクする気持ちなんですよね。

日本版「アップルシード アルファ」2015年1月17日(土)全国ロードショー
「アップルシード アルファ」

世界大戦後の荒廃したニューヨークで戦火を生き抜いた元SWATの敏腕女性隊員デュナンと、その相棒・サイボーグとなったかつての恋人ブリアレオスは未だ戦いの日々を送っていた。終わりの見えない戦いの中、人類が生み出した理想都市オリュンポスでの安息を夢見る2人の前に突如現れた1人の少女。オリュンポスから来たという彼女は謎の追手に追われていた。少女と行動を共にする中で、2人は彼女の身体に秘められた秘密を知ることになる。それは世界を、地球を破壊し尽くすほどの巨大な力の鍵だった。迫り来る更なる最強の追手、今、人類の未来は2人に託された。

キャスト

デュナン:小松由佳
ブリアレオス:諏訪部順一
アイリス:悠木碧
オルソン:高橋広樹
ニュクス:名塚佳織
タロス:東地宏樹
双角:玄田哲章
マシューズ:堀勝之祐

荒牧伸志(アラマキシンジ)

メカニックデザイナーとしてアニメーション界で頭角を現しその後、監督デビューを果たす。2004年には「APPLESEED」を発表。フル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャーという手法を用いた、画期的作品で日本のファンは元より海外でも称賛の声を集めた。2007年にはその続編「EX MACHINA」を監督し、高評価を獲得。2012年7月公開のハリウッド映画「スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン」の監督を務めている。2013年には映画「キャプテンハーロック」の監督も務め、日本のみならず世界でも支持されている。

中田ヤスタカ(ナカタヤスタカ)

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍中。昨今は日本人初のカイリー・ミノーグへのリミックス提供をはじめ、映画 「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルな活動が目覚ましい。その自由奔放かつ刺激的な楽曲群は音楽界のみならず、服飾や美容、映像などクリエイティビティを共有するシーンからも熱い支持を得ている。また自身のレギュラーパーティの主宰・メインアクトを務め、大型フェスやファッションショーイベントなどにも出演している。