流れに沿って、自然に演じて
──劇場版のアフレコ時に、シリーズと芝居の仕方を変えたりはしたのでしょうか?
瀬戸 特別何かを変えるということはなかったですが、物語が大きく動いたから、それに伴っていつもより感情が動く場面があったように思います。
石川 改めて思い返してみると、TVシリーズで咲太が一番感情をあらわにしているのは、最初のエピソードなんです。
──麻衣さんへの告白のシーンですね。
石川 そうなんです。あそこが一番叫んでいるんです。それもあって、じゃあ劇場になるにあたって「よし、いっぱい叫んでやるぞ!」ということは考えなかったです。今までの延長線上でキャラに準拠していれば自然と心が動いてきて、芝居の仕方も変わるのではないかという気持ちではいました。あまり意識することなく、増井(壮一)監督や原作の鴨志田(一)先生が望んだ形になっていればいいなと思っています。
瀬戸 麻衣さんは、今回とても感情が高ぶって、必死に咲太を引き止めるためにあがくシーンがあるんですけど、そこは大きな感情の動きがあったので……。普段冷静な麻衣さんからすると、どこまで彼女が乱れて、大きな表現をしていいのかを家で考えていたんです。で、テストで現場に持っていったものだと、やっぱり必死さが少し足りなかったので、本線(アフレコ本番)に行くにあたって、もうちょっと必死さをプラスして、とディレクションは受けました。
──水瀬さんは劇場版で中学生、高校生、さらにそのほかの翔子も演じ分けなければいけなかったと思うのですが、その辺り難しさもあったのではないですか?
水瀬 今回はどの翔子も全部同じ(アフレコの)流れで録ったんです。つまり、先に中学生翔子を全部録ろう、みたいなことには一切ならなかったんですよ。
──物語の流れを1回止めて、別の翔子を録り直すみたいなことはなかったと。
水瀬 そうです。それは個人的にすごくやりやすかったです。特に翔子が咲太と絡むシーンは、どこも流れどおり、実際に会話をして、それでこそ意味のあるセリフだったと思うので、そこはすごくよかったなと思います。正直、家で練習していてもいまいち答えが見つからなかったんですよ。
──流れを止めず一緒に録ることで、その答えが見つかった部分があった?
水瀬 はい。アフレコ現場で演技をしていて、ふっと思ったんです。「みんなで一緒に同じ方向を向いてお芝居するというのは、自分にとって合っているんだな」って。今さらなんですけど、アフレコってすごいところだなと思ったというか……。おのずと掛け合いで、ちゃんとそれぞれの年齢の翔子が、それぞれパスを受け取って、自然と演じることができました。声を変えるみたいなことはあまり意識せずに、場面場面でしっかりその時々の翔子を演じることができたかなと思います。
──ちなみに、現段階ではあまりお話できませんが、咲太もそれに近いご苦労があったのではないかと……。
石川 マジで大変だったんです(笑)。僕も水瀬さんと同様に、気持ちの流れをみんなとの掛け合いで作っておこうと思っていたのに……勘弁してくれって。楽しかったですけどね。
──そのシーンも、そのままの流れで演じられたんですね。
石川 ただ、急にカチっとは切り替えられないんで。1回止めて録り直したりはしました。
水瀬 私と比べても、これはなかなか大変そうだなって思っていました(笑)。
芝居がしにくい麻衣と、しやすい翔子
──今回、お芝居の掛け合いで、新たな発見はありましたか?
石川 麻衣さんとの掛け合いは、TVアニメシリーズのとき、ひたすらにやりやすかったんです。ずっと「ああ、会話してる。しかも尺もピッタリだ」みたいなことが多かったんですけど、今回は会話をしてみたら全然噛み合わなくて……。「あれ?」っていう感じがあったんです。逆に翔子さんとの掛け合いがすごくやりやすくて。「ごめん、瀬戸さん!」みたいな。
瀬戸 なんで私!?(笑)
石川 「ごめん! 水瀬さんとすごく芝居がしやすい!」みたいな。微妙な気持ちになりましたね。それは気持ちがすれ違っちゃうシーンが多いからで、そういったことでこうもやりやすさが違うのかと感じました。
水瀬 確かTVシリーズのときも、(東山)奈央ちゃんと同じような会話をしていた気がします。奈央ちゃんの演じている朋絵が咲太にわあっと言うのに、なんか届いてない感じがするって。
──そのシーンにおける咲太と朋絵の関係性がギクシャクしていたから、それに芝居も寄っていたということですね。
瀬戸 ええ。言霊というか……言葉をかける対象で、嘘がつけないんだなと思って。
──瀬戸さんは、今回掛け合いで新しい発見がありましたか?
瀬戸 ありました! 翔子さんが最初に家に訪ねて来たときですね。普段、麻衣さんは戸惑ったり、相手に気圧されたりしないんですけど、今回の状況において準備万端な翔子さんがやってきたことで、言い返せないシーンで言葉に詰まるところがあったんです。麻衣さんの新しい面の発見だったかなと思います。
──劇場版では普段あまり見られない麻衣さんの姿も見られるんですね。
瀬戸 芸能の仕事を若いときからしているのもあって、どんな人とでもうまくしゃべれそうなものですけど、今回のことはすごく衝撃で、きっと戸惑いもあったんだろうなと思いました。
──ちなみに、麻衣さんは翔子さんに対して、どんな思いを抱いていたと思いますか?
瀬戸 うーん。自分の恋人の、初恋の相手が急に目の前に現れて……。動揺? やっぱり相手がすごく落ち着いているし、ちょっと彼を……。
石川 たぶらかす?(笑)
瀬戸 (笑)。まあ、そういうことを笑顔でさらっとしてのける大人の女性がやってきたので、「私だって」という気持ちはちょっとあったのかなと。だから朝起こすシーンで、翔子さんが咲太におはようのキスをしようとするところがあって。それも「だめです!」みたいな。その辺りの必死さは、かわいらしかったです。
──その一方で、翔子さんは2人に対してどういう思いでいたのでしょう。
水瀬 翔子には目的があったので、2人との会話は、そこに向かう道中でのやり取りなのかなとは思っていました。でも本当に大事だったし、好きだったし、守りたいしという気持ちは、ただの無味乾燥な道というよりは、1つひとつ刻まれていく思い出だったんじゃないかなと思っていて。だから翔子と麻衣とのやり取りも演じられてうれしかったです。この時代を一緒に生きているんだ、こういう1つの未来があったんだということで、すごく考えさせられました。
──先ほど石川さんが、水瀬さんとの掛け合いは、うまく噛み合ったとおっしゃっていましたけど……。
石川 ……頼む……。
水瀬 まあ、記事では「そうですね」と言いますけど……。
石川 (笑)。
水瀬 一番嫌な答え方をしてみる(笑)。でも、本当にお芝居がしやすかったです。TVシリーズの最終話でもたくさん会話をしていたので、その延長線でもあったのかなと。咲太の長いセリフや、麻衣さんとのやり取りって、(アフレコブースの)後ろから見ていることが多かったので、そこに一緒に混ざるのは新鮮でした。この会話のリズムに、自分が翔子として入れている。そんな中で翔子さんは咲太の昔を知っている立ち位置でもあって。でも、知っているからといって、嫌なマウントを取るような感じじゃないところが、翔子さんの優しさだなと思っていました。会話をするシーンでは、彼女が思う咲太の優しさと、咲太が思う翔子への優しさが、ものすごくシンクロしている感じがして、どこか似た者同士感を感じていましたね。
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優しい選択
- 「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」
- 2019年6月15日(土)全国公開
- あらすじ
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空と海が輝く街・藤沢に暮らす高校2年生の梓川咲太は、先輩で恋人の桜島麻衣との心躍る日常を過ごしていた。しかしその日々は初恋の相手である牧ノ原翔子の出現により一変する。なぜか翔子は「中学生」と「大人」が2人存在しているのだ。やむなく翔子と一緒に住むことになった咲太は「大人翔子」に翻弄され、麻衣との関係がぎくしゃくしてしまう。そんな中、「中学生翔子」が重い病気を患っていることが判明し、咲太の胸の傷跡が疼き始める……。
- スタッフ
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原作:鴨志田一(電撃文庫刊「青春ブタ野郎」シリーズ)
原作イラスト:溝口ケージ
監督:増井壮一
脚本:横谷昌宏
キャラクターデザイン・総作画監督:田村里美
音楽:fox capture plan
制作:CloverWorks
製作:青ブタ Project
- キャスト
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梓川咲太:石川界人
桜島麻衣:瀬戸麻沙美
牧之原翔子:水瀬いのり
古賀朋絵:東山奈央
双葉理央:種﨑敦美
豊浜のどか:内田真礼
梓川花楓:久保ユリカ
- 「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」 | 青春ブタ野郎シリーズ
- アニメ「青春ブタ野郎」シリーズ公式 (@aobuta_anime) | Twitter
- 「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」作品情報
©2018 鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
- 石川界人(イシカワカイト)
- 1993年10月13日生まれ、プロ・フィット所属。主な出演作に「翠星のガルガンティア」(レド役)、「ハイキュー!!」(影山飛雄役)、「境界のRINNE」(六道りんね役)、「盾の勇者の成り上がり」(岩谷尚文役)など。
- 瀬戸麻沙美(セトアサミ)
- 1993年4月2日生まれ、シグマ・セブン所属。主な出演作に「放浪息子」(高槻よしの役)、「ちはやふる」(綾瀬千早役)、「マクロスΔ」(ミラージュ・ファリーナ・ジーナス役)、「盾の勇者の成り上がり」(ラフタリア役)など。
- 水瀬いのり(ミナセイノリ)
- 1995年12月2日生まれ、アクセルワン所属。主な出演作に「ご注文はうさぎですか?」(チノ役)、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(ヘスティア役)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(レム役)、「五等分の花嫁」(中野五月役)など。