「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」石川界人(梓川咲太役) 瀬戸麻沙美(桜島麻衣役)水瀬いのり(牧之原翔子役)インタビュー|選ぶことの大切さに気付かされる物語。3人の考える“優しい選択”とは?

思春期症候群という不思議な現象に悩まされる少年少女を描いた青春アニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」。キャラクターのキャッチーなかわいらしさ、繊細な心情表現とそれに対するキャストの芝居などで話題となった本作が、ついに劇場作品「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」として銀幕デビューする。

TVシリーズの純然たる続編であり、シリーズの「その後」が気になる方はもちろん、1本の青春物語としても観られる本作。コミックナタリーでは、主人公である梓川咲太役の石川界人、シリーズのヒロインである桜島麻衣役の瀬戸麻沙美、そして劇場版でスポットが当てられる牧之原翔子役の水瀬いのりに、本作への熱い思いを語ってもらった。

取材・文 / 武井風太 撮影 / 星野耕作

TVシリーズが繋いだバトン

──「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」公開まで、もう間もなくとなります。本作は「青春ブタ野郎」シリーズの最新作でもあるわけですが、シリーズの魅力からお伺いしてもよろしいでしょうか。

本作の主人公・梓川咲太。高校の先輩で人気女優の桜島麻衣に起きた思春期症候群をきっかけに、彼女と交際をしている。

石川界人 TVシリーズだけの話をしますと、各ヒロインの悩みにきちんとフォーカスして1つひとつ丁寧に解決していく部分。それと、オムニバス形式になっているのではなく、ひとつなぎの物語として成立しているというのが、大きな魅力だと思います。劇場版は、そのTVシリーズの中でちりばめられていた伏線のすべてが回収されていく。そこが魅力かなと思います。

──シリーズ中、お芝居の面でご苦労なさった点はありますか?

左から瀬戸麻沙美、石川界人、水瀬いのり。

石川 各ヒロインごとに(咲太の)対応が違うので、そこの芝居づくりが大変でした。原作を読んで、セリフの方向性を考えて、きっとこういうニュアンスだろうと。そういったことを考えながら演じていました。

瀬戸麻沙美 私は役に向き合ったうえで、麻衣さんだったらどう考えるだろうか、どういう行動するだろうかということを、いったん考えるんです。そのうえで、行動自体は台本に準拠しているものなので、「この行動をしたときに、どのくらいの感情の幅を出すだろうか」とイメージしますね。そこのさじ加減が難しかったです。

──具体的にはどういった芝居の作り方をするのですか?

咲太と同じ高校に通う人気女優の桜島麻衣。周囲の人間に認識されなくなるという思春期症候群を発症したが、咲太によって救われた。

瀬戸 例えば彼女はとてもウブで繊細な部分があって。にもかかわらず、大人の多い環境で育ってきたからか、周りに気を遣ったり、自分の気持ちを大きく出したりはしないのだと。でも、咲太や、心を許せる人との会話だと、意外と本音や強気な発言がパッて出たりするので、そういうときの軽口を強く言い過ぎちゃうきらいがあるのかな、と。そこのさじ加減ですよね。私は最初の収録のテストで、セリフの語気をかなり強めにしてしまっていたんです。でも、「もう少し優しく」とディレクションがあったりして……。特に第1話の彼女の感情に合わせた声のお芝居は、探り探りでした。

──水瀬さんは、TVシリーズで高校生の翔子と中学生の翔子を演じています。芝居面でのご苦労というと?

水瀬いのり TVシリーズでは、彼女の本心や、存在意義が描かれるシーンは特になく、基本的には台本にあるセリフを翔子ちゃんとして読むことで、彼女らしさみたいなものをシリーズに残すことに気を遣っていました。それを踏まえての劇場版だったので、謎が多ければ多いほど、彼女がこのTVシリーズに出た意味に繋がるのだろうなと思っていました。

──TVシリーズで演じている最中は、劇場版を見据えてお芝居をされていたのですか?

咲太の初恋の女性である牧之原翔子。咲太が中学生のころに会ったきり姿を現していなかったが、傷心した咲太の前に再び登場した。

水瀬 そうですね。「なぜ咲太の前に翔子が現れたのか」だったり、「翔子さんっていったいなんなのか」といったものは、劇場版で表現されることがわかったうえでのお芝居でした。それもあって、個人的には「最終回だ!」という開放感より、TVシリーズがすごくハイクオリティのまま最終話を迎えて、「繋げてくれたバトンを、劇場版で受け取らないといけないんだ」というプレッシャーが大きかったです。そのときからドキドキしていました。

クオリティの高さと劇場版へのモチベーション

──咲太と麻衣の関係が、シリーズ初期と今ではだいぶ変わったと思うのですが。

左から瀬戸麻沙美、石川界人。

石川 タメ口が増えてきているとか、麻衣さんのちょっと天然なところが見えると、ツッコミを入れるみたいなことをするので、そこの掛け合いは、どんどん洗練されていってるのかなと思います。

瀬戸 確かに咲太と麻衣さんとの距離が近くなってきている気がします。最初は麻衣さんがリードしている関係性に見えていましたが、麻衣さんの器の大きさに咲太が気付きはじめてからは、「このくらいだったら言っても大丈夫」と茶化しはじめたり。そういう掛け合いが増えてくるからこそ、より関係性が近くなったり、親しくなったように描かれているのかなと。

──劇中で、「あなたの好きより、私のほうがもっと好き」みたいな話を麻衣がしていますが、そういう気持ちは、演じられている瀬戸さんも感じますか?

瀬戸 あ、そのシーンを見たとき、思うことがありました。「2人でやってろ(笑)」って。

──(笑)。

瀬戸 いやまあ実際2人でやってるんですけどね(笑)、そう言いたくなるくらいバカップルっぽいなって。だって、完全にイチャイチャじゃないですか。かわいらしいなって思いました。

──アフレコ時ではなく、TVシリーズの放送を観て感じた魅力があれば教えていただきたいのですが。

左から瀬戸麻沙美、石川界人、水瀬いのり。

石川 やっぱり作画のクオリティが高いです。アニメって動きの速いシーンにおいては中抜きと呼ばれるやり方(注:原画をあえて抜くことで、動きと動きの間に躍動感を生むテクニック)が存在するのですが、それを上手に使いつつキャラの動きが繊細に描かれているなと思いました。あとアップになったときの表情の崩れなさも見事でした。さすがCloverWorks!でした(笑)。

瀬戸 アフレコ時には完成していなかった映像や、さらに音が付いてのアニメを観て感じたのは、今作の舞台が藤沢ということもあり、海や光の表現がとても美しいなと思って。彼ら彼女らの心情が、天候さえも動かしているのではないかと思うくらい、背景とマッチしているなと思えたんです。きっとそこも(アニメスタッフが)考えたうえで、仕上がっているのだろうなと。ですから、朝昼夜のどの時間帯なのか、天気はどうなのか、といったところを大事にして台本を読んでいました。

水瀬いのり

水瀬 私は純粋に出番があった回が少なめだったので、皆さんの生き生きとしたお芝居を素晴らしいなと思いながら、テレビを観ていました。ヒロインそれぞれ違う悩みではあるのですが、それがなんとなく自分もわかるというか……。自分も通りかけたなとか、そういうものを重ねながら見ていたんです。

──それぞれの思春期症候群を引き起こした悩みと、かつての自身の悩みを重ねられていた?

水瀬 そうですね。加えて原作で読んでいたものがアニメーションとして、このクオリティで再現してもらえるなんてすごくうれしかったですし、ファンの方と同じような気持ちを持ちました。だからこそ、劇場版では「この波にちゃんと乗らなきゃ」という思いを持ちました。

「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」
2019年6月15日(土)全国公開
あらすじ

空と海が輝く街・藤沢に暮らす高校2年生の梓川咲太は、先輩で恋人の桜島麻衣との心躍る日常を過ごしていた。しかしその日々は初恋の相手である牧ノ原翔子の出現により一変する。なぜか翔子は「中学生」と「大人」が2人存在しているのだ。やむなく翔子と一緒に住むことになった咲太は「大人翔子」に翻弄され、麻衣との関係がぎくしゃくしてしまう。そんな中、「中学生翔子」が重い病気を患っていることが判明し、咲太の胸の傷跡が疼き始める……。

スタッフ

原作:鴨志田一(電撃文庫刊「青春ブタ野郎」シリーズ)

原作イラスト:溝口ケージ

監督:増井壮一

脚本:横谷昌宏

キャラクターデザイン・総作画監督:田村里美

音楽:fox capture plan

制作:CloverWorks

製作:青ブタ Project

キャスト

梓川咲太:石川界人

桜島麻衣:瀬戸麻沙美

牧之原翔子:水瀬いのり

古賀朋絵:東山奈央

双葉理央:種﨑敦美

豊浜のどか:内田真礼

梓川花楓:久保ユリカ

石川界人(イシカワカイト)
1993年10月13日生まれ、プロ・フィット所属。主な出演作に「翠星のガルガンティア」(レド役)、「ハイキュー!!」(影山飛雄役)、「境界のRINNE」(六道りんね役)、「盾の勇者の成り上がり」(岩谷尚文役)など。
瀬戸麻沙美(セトアサミ)
1993年4月2日生まれ、シグマ・セブン所属。主な出演作に「放浪息子」(高槻よしの役)、「ちはやふる」(綾瀬千早役)、「マクロスΔ」(ミラージュ・ファリーナ・ジーナス役)、「盾の勇者の成り上がり」(ラフタリア役)など。
水瀬いのり(ミナセイノリ)
1995年12月2日生まれ、アクセルワン所属。主な出演作に「ご注文はうさぎですか?」(チノ役)、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(ヘスティア役)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(レム役)、「五等分の花嫁」(中野五月役)など。