コミックナタリー Power Push - 「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」

戦争嫌いで怠け者の女好き“昼行灯”は主役の鉄板? 小説、マンガ、アニメと広がるファンタジー戦記

この子になら殺されてもいいと思える……そういうヒロイン

──ヒロインのヤトリは身体能力がずば抜けていて、誰よりも強いという設定が女性としては意外性があります。

宇野 ただ「強い」というだけの設定だったら、ほかの強いキャラクターと戦わせて倒せば表現できるので簡単なんです。でもヤトリがヤトリたる所以は、ほかの武人や、あるいはこれから倒していく相手であっても敬意を忘れないところ。共感と理解を持っている「武人としての徳の高さ」が、その魅力だと思います。いざ戦場で出会っても、この子になら殺されてもいいと思える……そういうヒロインです。

川上 私はヤトリって、微笑んでいるときでも、かわいいだけではなく頼もしいキャラだと思うんです。正直、マンガで描くのが一番難しいキャラです。

亡骸を横たえるヤトリ。敵に対しても敬意を払う、彼女らしい行動だ。

宇野 でもマンガ版の4巻でシナーク族の襲撃があったときに、ヤトリが銃声を聞いて駆けつけるじゃないですか。そこで刺し殺した敵をそのまま打ち棄てるのではなく、横たえるシーンがあるんですよ。ここは、とてもヤトリのことをわかってくださっているなあと思いました。

川上 よかったです(笑)。彼女ならそうするかなと自然に思いついたんです。

中山 人に対する本質的な優しさを備えている子なんですね。

──キーキャラクターとしては、ほかに先ほど名前があがった皇女・シャミーユがいます。彼女は初登場時12歳という幼いキャラですが。

アニメ版のシャミーユの設定画。

宇野 精神的に完成しているヤトリに対して、シャミーユは等身大の子供らしさを持っているんです。頼りになるお兄さんお姉さんの中で、かわいがられている小さい女の子という立ち位置は、キャラとして鉄板。イクタたちが騎士団の仲間としての空気を構成する欠かせない要素なんですよね。

川上 シャミーユっていい子だと思うんですよ。船が沈没してしまい漂着したときもみんなに迷惑かけてないかなと、気にしているみたいですし。お姫様なのにわがままじゃない。自分もシャミーユはちゃんとかわいい子に思ってもらえるように描きたいなと。だからこそ抱えているものの大きさを浮き彫りにして、「助けてあげたい」と、読者に思われてほしいなと。

──イクタがほかの女の子を見ているとシャミーユがムッとするようなところが、絵として表現されるマンガ版だとわかりやすいですね。

川上 そういうところは普通の女の子なんですよね。ヤトリだったら、イクタくんが朝起きて、誰か知らない女の人と一緒に寝てても動じなさそうですよね(笑)。「早く起きなさい」みたいな。そのへんはうまく対比して描けたらいいなと思っていますね。

アニメのキャラはマンガ版も大いに参考にしている

マンガ版のカラーカット。

──コミカライズの話がでましたが、マンガ版はやはり宇野先生と川上先生が綿密な打ち合わせの上で構成されているのでしょうか。

宇野 そう……でもないです(笑)。キャラデザの段階ではある程度意見はさせていただきましたが、出てくる絵とフィーリングが最初から合っていたので、安心してお任せしています。マンガ版はマシューがいい味を出してますよね(笑)。

川上 マシューは私も一番好きで、モノローグを勝手に追加したりしています(笑)。イクタやヤトリのような天才型に比べて、凡人で三枚目っぽい立ち位置のマシューは一番多くの読者から共感を得られるキャラなんじゃないかなと。

マンガ版のマシュー初登場シーン。 アニメ版のマシューの設定画。

──マシューだけでなく、原作にはない各キャラの思いが描かれているシーンも多いですよね。キャラの特徴が助長されているというか……。

川上 やっぱりマンガになると文字数が減ってしまうので、今この場に同席しているキャラなら原作の地の文で書いてあることを、こういうセリフで思うかもと取り入れるんです。それでキャラ性が膨らんでくれたらいいなと。

宇野 でも、セリフ回しは尊重してくれているイメージがあるんですよ。

川上 原作のセリフ回しが絶妙なんですよ! フキダシの大きさやページ数の関係で一連のやり取りをマンガでは短くしないと……とは思うのですが、なかなかできないんです(笑)。

宇野 小説の内容をマンガに落としこむのは、大変じゃないですか。

川上 小説のセリフをそのまま言わせると、かなり量があるので、どうしても「ページを開いたらフキダシばかり」になってしまうんです。マンガは小説と違って流し見する人も多いので、それでもわかるよう工夫しないといけない。できるだけ絵で見せたいのですが、アクションがあるキャラと違って、イクタくんの知略シーンは「どう表現すればいいんだ」と悩むこともあります(笑)。

──実際はどう対処されているのでしょう。

川上 作戦がうまくいって、周りのモブや副官のスーヤが驚愕しているシーンをちゃんと作ることで「あ、なんかスゴいことをやったんだ」と彼を持ち上げてるつもりです。最悪イクタくんの説明は全部読み飛ばされても(笑)、絵的には映えるようにしようと毎回頭をひねっています。

中山 イクタの知略を絵でどう見せるのかという話は、アニメにも出てくる問題で。結構、マンガの描き方は参考にしました。特に影響があったのはキャラクターの頭身ですね。原作イラストの等身は割と低めですが、マンガ版くらい頭身が高いほうがアクションを真面目にやろうとするなら引き立つんです。プロモーションビデオの中で先行して見せていますが、ヤトリが人を斬っているところとか、そういったシーンはあのぐらいリアルな頭身でないと映えないんですよ。

──ではビジュアルの面も含め、マンガ版はアニメスタッフの手がかりに……?

高等士官学校にて、騎士団のみんなが食事をしているシーン。マシューが手に取っているのが、話題にあがっているナン。

中山 指針のひとつだったのは確かです。例えばマンガでは、騎士団のみんなが食事をしているシーンでナンを食べています。でも原作で、具体的な表記はなかったですよね?

宇野 薄焼きパンを食べている、程度の表現しかないですね。

中山 それがマンガではナンとして具体化されているんですよね。こういったところも参考にさせてもらっています。

川上 世界観的にはインドのほうらしいということだったので、それらしさを出していこうかなと。

中山 アニメ版も、美術や小物はインドやトルコの雰囲気を出していますね。

宇野 中世ヨーロッパとはズラしたところに背景設定を持ってくることで世界観に独自性を出しているつもりなんです。そういう雰囲気はマンガ、アニメになるとより出てくるので、原作者としてはうれしい限りです。

東域鎮台司令長官であるハザーフ・リカン。国民の人気も高く、部下からも慕われている英雄。

──マンガのお話に戻りますが、宇野先生としては、魅力はどんなところにあると思われますか?

宇野 なによりうれしかったのは、原作の挿絵には登場しなかったキャラクターにビジュアルがついて立ち現われること。ハザーフ・リカン中将なんかがそうですね。ゴツい英雄ではなく、柔らかい感じになっていて、それがすごくいいと思ったんです。バダ・サンクレイという主人公の父親の系譜としてリカン中将はいるので、普通の軍人さんとは肌が違う感じがうまく出ていて。

川上 ありがとうございます……! リカン中将は大好きなのでうれしいです!

テレビアニメ「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」

隣接するキオカ共和国と戦争状態にある大国・カトヴァーナ帝国。その一角に、とある事情で嫌々ながら高等士官試験を受験しようとしている1人の少年がいた。彼の名はイクタ。戦争嫌いで怠け者で女好き、そんなイクタがのちに名将とまで呼ばれる軍人になろうとは、誰も予想していなかった……。小説、マンガ、アニメの3メディアで展開される壮大なファンタジー戦記!

原作小説10巻、マンガ版5巻は2016年7月9日に発売。同時リリース記念の書き下ろし&描き下ろしの短編が、特設サイトにて公開中!

特設サイトはこちら

放送情報
  • TOKYO MX:金曜25:05~
  • サンテレビ:日曜24:30~
  • KBS京都:日曜23:00~
  • テレビ愛知:日曜26:05~
  • BSフジ:日曜25:30~
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原作小説はこちら

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宇野朴人(ウノボクト)

小説家。在学中より「神と奴隷の誕生構文」にてデビュー。現在は「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」を執筆中。同作は自身初のアニメ化タイトルとなる。そのほかの代表作に「スメラギガタリ」がある。

川上泰樹(カワカミタイキ)

マンガ家。代表作は「まおゆう外伝 まどろみの女魔法使い」。現在は「転生したらスライムだった件」「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」のコミカライズを担当している。

中山信宏(ナカヤマノブヒロ)

プロデューサー。ワーナー・ブラザーズ・ホームエンターテイメント所属。代表作に「とある魔術の禁書目録」「ロウきゅーぶ!」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり などがある。