押山清高ロングインタビュー|作品と向き合うことは、自分と向き合うこと──創作の軸を育てた景色と最新作「赤のキヲク」

次はマンガに挑戦したい、その意図は

──去年「ルックバック」を公開して、国内の映画賞をいくつも受賞されました。周りからの視線や取り巻く環境もずいぶん変わったんじゃないかと思いますが。

国内の映画賞をたくさんいただいたので、「じゃあ次は海外の大きい賞だね」っていうふうにすごく期待されるんですけど、正直それはノイズだな、と思っていて。もちろん賞はもらえたらうれしいんですけど、それを目標にしたら賞を獲るための作品づくりになってしまうし、獲れなかったらガッカリしちゃうじゃないですか。それは嫌だなと。今、押山は担ぎやすいタイプかどうかというのを皆さん判断してる時期だと思うんですけど(笑)。そういうふうに期待されているうちが華だと思いながら、担がれすぎないようにしたいですね。マイペースに淡々と作品を作れたらいいなって。

「赤のキヲク」より。

「赤のキヲク」より。

──「次はマンガを描きたい」とおっしゃっているのを見ましたが、それも一旦自分のペースに戻したいというような意識で?

そうです、そうです。次にアニメを作るとなると、僕が何も言わなければ、やっぱり「一発大きく作りましょう」という座組を組まれると思うんですよね。そのための箸休めじゃないですけど、そういうことです。僕は制作会社の代表をやっているので、クリエイターだけじゃなくて、企業の方にたくさんお会いするんですけど、皆さん僕に対する対応がすごい丁寧になって(笑)。気を使われすぎて逆に困るというか、僕自身が天狗になりかねないので、一旦1人になって、マイペースにやれるところに場所を変えたほうが、リセットしやすいなっていうのがあります。

──もう1つ「ルックバック」以前以降の話で言うと、「ルックバック」と「赤のキヲク」はどちらも、ご自身の経験がある種ドキュメンタリー的に重ねられていて、舞台設定も日本の現代なので、かなりリアル寄りの作品だと思うんです。ただ「ルックバック」以前の押山さんの仕事だと、むしろメカとかエフェクトとかアクションとか、“ザ・フィクション”的なものが得意なイメージを持っていた人も多いと思うんですね。ご自身ではどちらが好きとか得意とかっていう志向はあるんでしょうか?

どちらということはなくて、僕は飽きっぽいので、前回やった仕事と違うことをするのが好きですね。やったことないことをやる、描いたことない絵柄を描くのが面白い。例えば悪魔デザインばっかりやっていても飽きちゃうじゃないですか(笑)。“メカ描き”みたいな得意分野を突き詰めるアニメーターの方もいらっしゃるけど、僕は割となんでも注文があれば描きますよ、というタイプです。商業アニメの世界にいると、その立ち回り方が一番の最適解だから。でもおそらく「ルックバック」以前は、描きたい絵を描きたいように描いてる、“押山に任せたら原作通りには描かないだろう”っていう見られ方をするアニメーターだったんじゃないかと思っていて、「原作通りに描こうと思えば描けますよ」というのを「ルックバック」ではやりました。もちろん詳しい人が見れば“押山っぽさ”みたいなものはにじみ出ちゃってると思いますが、そういうものを打ち出してきたわけではないんですよね。

──見ただけで「これは押山さんの絵だ」ってわかってもらえるような絵を描きたいという欲はあまりない?

それは全然あります。マンガを描くというのもそっちでの戦いになると思うので、今度はそういう面白さが楽しめるといいなと思ってます。最近は描く絵にも僕の味わいみたいなのが出てきてるようなので、そういう感じにちょっとずつシフトしてますかね。

──そのマンガは近いうちに見れると期待していていいのでしょうか。

どんなマンガを描くかは実はまだ全然決めてないんですけど、あまり遠くないうちにと思っています。アニメと違って、読み切りだったら1カ月でも作れるようなスピードで描けるのがマンガの魅力だと思っているので、「ちゃんとしたものを描かなければ」っていうプレッシャーでなかなか描けません、とはならないようにしようと思ってます。あまり考えすぎずに作りたいですね。

押山清高

押山清高

押山清高略歴・これまでの主な仕事

1982
福島県本宮町(現本宮市)に生まれる
2004
アニメ制作会社・ジーベックにて、「蒼穹のファフナー」で原画デビュー
2007
「電脳コイル」(磯光雄監督 / マッドハウス):初の作画監督を担当
2010
「借りぐらしのアリエッティ」(米林宏昌監督 / スタジオジブリ):原画
スタジオジブリ作品に初参加
2011
「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」(村田和也監督 / ボンズ):アニメーションディレクター
2013
「風立ちぬ」(宮崎駿監督 / スタジオジブリ):原画
2014
「スペース☆ダンディ」(渡辺信一郎総監督 / ボンズ):宇宙人デザイン、原画、作画監督ほか
シーズン2・第18話では、脚本・美術設定・ゲストキャラデザイン・絵コンテ・演出・作画監督・原画・動画のほぼ全工程を手がけた。
2016
「フリップフラッパーズ」(押山清高監督 / Studio 3Hz)
TVシリーズ初監督を務める。
2018
DEVILMAN crybaby(湯浅政明監督 / サイエンスSARU):デビルデザイン、絵コンテ・演出・作画監督ほか
2019
短編アニメーション「SHISHIGARI」公開
押山のオリジナル作品。原作・脚本・監督・作画をすべて1人で手がけた。
2020
「ドラえもん のび太の新恐竜」(今井一暁監督 / シンエイ動画):演出、作画監督、原画
2022
「チェンソーマン」(中山竜監督 / MAPPA):悪魔デザインほか
2023
「君たちはどう生きるか」(宮﨑駿監督 / スタジオジブリ):原画
2024
劇場アニメ初監督作「ルックバック」公開
監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督・原画を担当。ごく少人数の制作スタイルでも注目され、メインスタッフの1人・井上俊之により「最後の1週で、押山さんが1000枚描いた」という逸話も語られている。
第48回日本アカデミー賞、東京アニメアワード2025作品賞(劇場映画部門)および個人賞(監督・演出部門)、第16回TAMA映画賞特別賞、第49回報知映画賞作品賞・アニメ部門、第3回新潟国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門グランプリ、第34回日本映画批評家大賞アニメーション作品賞、第44回藤本賞特別賞、芸術選奨新人賞メディア芸術部門、第34回日本映画批評家大賞アニメーション作品賞、クランチロール・アニメアワードのフィルム・オブ・ザ・イヤーなど多数のアワードに輝く。
2025
ふくしままっぷブランドムービー「赤のキヲク」公開
監督・脚本・絵コンテ・キャラクターデザイン・作画・背景美術を担当。NHKで放送されたドキュメンタリー番組「グローバルヒットメーカー ジャパンアニメの革新者たち」に出演した際に、「赤のキヲク」の制作の様子が映されている。

キャンペーン情報

押山清高監督 イラスト&サイン入り「赤のキヲク」特製ポスターが当たる!
ふくしままっぷ 応援キャンペーン

「赤のキヲク」キャンペーンビジュアル
応募期間
2025年9月1日(月)~10月5日(日)
賞品

「赤のキヲク」特製ポスター + ベコ太郎キーホルダー(合計100名)

※うち5名は押山清高監督直筆イラスト&サイン入り

応募方法

以下の①、②の手順でご応募ください。

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  2. 「ふくしままっぷ友の会」に登録(金友 or 銀友)※すでに登録済みの方も応募可能
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プロフィール

押山清高(オシヤマキヨタカ)

1982年1月3日生まれ、福島県出身。2004年にジーベックでアニメーターとしての活動を開始し、2006年には「電脳コイル」で作画監督を務める。その後、さまざまな作品で監督・脚本・デザイナーなど幅広い役割を担う。2017年、アニメーション制作会社スタジオドリアンを設立。2024年、監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督・原画を務めた劇場アニメ「ルックバック」公開。同作は第48回日本アカデミー賞、第49回報知映画賞、第16回TAMA映画賞をはじめ、多くの賞を受賞した。