ナタリー PowerPush - ゆよゆっぺ×城崎勇太(小説「ぼかろほりっく」作者)対談

小説×バンド×ボカロの“生身”の関係

ゆよゆっぺのニューアルバム「ぼかろほりっく」がリリースされた。本作は、CDと同日に刊行された小説「ぼかろほりっく」(城崎勇太著)と完全連動しており、各章のテーマソングとして書き下ろされた7曲+ボーナストラックを収録。ボーカロイドというテクノロジーと共存しながらも、生身の人間こそが持っている温かみを伝えたいという真摯なテーマが根底に息づく内容となっている。

アルバムの中から「ぼかろほりっく」「遥か彼方へ」の2曲がハイクオリティのアニメーションを用いた映像とともにニコニコ動画で先行公開され大きな話題を呼んでいる中、小説とCDが同時リリースされたことを記念して、ナタリーではゆよゆっぺと原作者・城崎勇太による対談を企画。「ぼかろほりっく」プロジェクトの全貌に迫った。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 佐藤類

「ぼかろほりっく」誕生の経緯

──まずは小説「ぼかろほりっく」が生まれた経緯から聞かせていただけますか?

ゆよゆっぺ

城崎勇太 はい。まず僕の中で「ぼかろほりっく」というタイトルが浮かんできたのがそもそもの始まりで。それが1年半くらい前でしたね。で、そのタイトルに紐付けてプロットみたいなものを書き進めていたんですけど、その中で知り合いの編集者の方に「こんなタイトルでこんな内容のものがあるんだけど」っていう話をしたらすごく気に入ってくださったんです。そこから1年くらいかけて小説を仕上げていき、ようやく今に至ったという感じなんですけど。

──小説の世界観を音楽でも表現しようという企みは当初からあったんですか?

城崎 それも込みで構想していました。一般的に世に出ているボカロ系の小説は、基本的にはボカロ楽曲にインスパイアされて表現されたものが多いなと感じていました。

ユータ(城崎勇太)

──アプローチ的には今回の作品とは逆ですよね。

城崎 そう。そういうボカロ楽曲から派生した小説というのは、なんとなくSF色が強くなる傾向があるなと思っていたんです。でも「ぼかろほりっく」に関しては、もうちょっと生々しいニオイのする、等身大の高校生が主人公のお話がいいなと。そこで、小説内で主人公が鳴らしている音、バンドが演奏している音がリアルに伝わるように、実際の楽曲が同時に存在しているのは面白いんじゃないかなと思ったんです。小説内の言葉と、楽曲の歌詞が連動することで臨場感も出ると思いましたし。

──そこで白羽の矢を立てたのがゆよゆっぺさんだったと。

城崎 ですね。

ゆよゆっぺ (白羽の矢を)立てられちゃいました(笑)。

適任、だがしかし……

城崎 ゆっぺさんはボーカロイドPと言われる立場にはあるんですけど、もともとがバンドマンでもあるので、あくまでボカロをツールとしてとらえている印象がすごく強くて。そこがいいなと思ったんですよね。小説の主人公である城崎勇太はもともと、どちらかと言えばボカロが嫌いではあったけど、それをツールとして使い始めたらバンド活動がよりアクティブになっていく感じなので、その気持ちがわかってもらえるんじゃないかなと。

「ぼかろほりっく」キービジュアル

ゆよゆっぺ うん。お話をいただいたとき純粋に面白そうだなって思ったし、感情移入もできました。「ぼかろほりっく」って、ボカロがすごく好きな人にとっては若干、抵抗があるタイトルだと思うんですよ。“ボカロ中毒”って意味ですからね。ちょっとネガティブに受け取る人もいるかもしれない。でも僕はバンドをやっていた身なので、そこに対してはまったく抵抗がなかったんです。小説自体、ボカロの要素が入ってはいるけど基本はバンドマンのお話ですし。そういう意味では、適任……って自分で言うのもアレですけど(笑)、すごく自然な形で関わらせてもらえそうだなって最初に思えて。だがしかし……。

──だがしかし?

ゆよゆっぺ 小説を読み進めてみると、勇太くんをはじめとする登場人物たちがみんなものすごくアクティブなんですよ。学生生活をエンジョイしつつ「バンドもがんばるぜ!」みたいな感じで、ものすごく突っ走ってる。お話としてはそれがすごくいいんですよ。いいんですけど、個人的にはそこにどうしても賛同できなくて(笑)。

城崎 あははは(笑)。

ゆよゆっぺ 実際にバンドを経験した上で、「いやー、こんなに熱くなることってあんまないよなあ」って思ってしまうんですよね。バンドマンってチャラチャラしてるように見えるけど、実際は影の部分が多かったりすると思うんです。でも、このお話の登場人物はみんな、言うたらリアルが充実してるじゃないですか(笑)。

城崎 主人公の勇太はパッとしないキャラクターで、クラスにも友達があんまりいないですけど、他のバンドメンバー3人は確かに相当リア充ですからね(笑)。

ゆよゆっぺ

ゆよゆっぺ そう。だから僕は「うらやましいなあ」と思いながら小説を読み、「なにくそ!」と思いながら曲を書いたんですよね(笑)。なので、「俺がもしこういう立場だったらすげえ楽しかったんだろうな」「くそー、俺もこうなりたかったよ!」みたいな思いは、それぞれの曲にかなり反映されてると思います。

──「うらやましいなあ」という感情も含め、小説の内容から受け取ったものを音に落とし込む作業はどうでしたか?

ゆよゆっぺ 文章から音を読み取るっていうのは、すごくいい経験になりましたね。4曲目の「Our possibility」は、登場人物たちがスタジオで合わせてる様を文章から汲み取って、ドラムからスタートする構成にしたんですよ。そういう作り方は自分の曲だとまずしないので、ほんとに新鮮で。

──以前、SuGの武瑠さんとの対談(参照:浮気者「I 狂 U」特集)で、武瑠さんが書いたストーリーに合わせて曲を作る作業がいい経験になったと発言されていましたが、今回はそれをより突き詰めた感じですよね。

ゆよゆっぺ まさにそうですね。言った側から、さらにガッツリそういうことをやることになったみたいな(笑)。面白かったです。

ゆよゆっぺ

ラウドロックを軸にさまざまなジャンルを盛り込んだボーカロイド楽曲をニコニコ動画に発表し、何度も“殿堂入り”を果たしている人気ボカロP。2012年9月にアルバム「Story of Hope」でメジャーデビューを果たしたあとも、自身のバンドや「DJ'TEKINA//SOMETHING」としての活動、BABYMETALをはじめとするさまざまなアーティストへの楽曲提供など活躍の幅を広げている。2014年7月には同名の小説と完全連動したアルバム「ぼかろほりっく」をリリース。