YUKI|自分の居場所に“フラッグを立てろ”

YUKIが11月22日にソロデビュー15周年イヤーの第2弾シングル「フラッグを立てろ」をリリースした。

本作の表題曲は、前シングル「さよならバイスタンダー」に続いてテレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマ。現在放送中のアニメ第2シリーズでは主人公・桐山零の成長や、川本ひなたが学校で直面するいじめ問題を軸にストーリーが展開している。音楽ナタリーではこの曲を作るにあたり、自身の少女時代を思い出したというYUKI本人に話を聞いた。

取材・文 / 松浦靖恵

自分の居場所や逃げ場を作ってフラッグを立てていたあの頃

──YUKIさんがテレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマを手がけるのは「さよならバイスタンダー」に続き、2度目になりますね。

再度お話をいただけると思っていなかったので、とても驚きました。なかなかこのような機会はないことだと思うので、光栄に思います。

──「さよならバイスタンダー」は、まず「3月のライオン」の原作を読んでから歌詞を書き始めたそうですが、今回は?

第2シリーズは川本家のひなちゃんが巻き込まれていく、いわゆるいじめ問題を基軸にストーリーが展開されていくというお話を前もって制作サイドから聞いていました。歌詞を書き進めていくうちに、そういう問題は私自身の人生にも少なからずあったということを思い出したんです。

──と言うと?

どこまでがいじめと言うのかわからないけれど、何か些細な出来事をきっかけにして友達同士の行き違いが生まれて、急に交換日記が自分のところにだけ回ってこなくなったり、いつの間にか給食を1人で食べる日が続いたりというような経験が私にもあったんですね。そのときの自分の気持ちを思い起こしたときに、私は絵を描いたり、レコードを聴いたりして自分だけの逃げ場を作り、自分の世界に没頭することで、長い1日をなんとか終えることができていたことを思い出したんです。

──そうすることで、自分と学校生活のバランスをどうにかうまく取ろうとしていたのかもしれませんね。

あのとき、私は“私の世界の王様”になることに決めたんだと思います。学生の頃って、学校で過ごす時間が生活の大半を占めているし、まだほかに逃げ場になるような場所を持っていないですよね? あの頃の私は自分で自分の居場所、自分だけの逃げ場を作って「ここが私の世界なんだ!」という場所を見つけるたびに、頭の中でその印になるフラッグを立てていたんです。1人で踏ん張っていたあの頃の自分を思い出したことで、「次は君の番だよ」や「スケープゴート」のような言葉が自然と出てきたので、今回再びお話をいただかなければ、このような歌詞にはならなかっただろうなと思いました。

「フラッグを立てろ」に副題を付けるなら、“責任を持て”

──ニューシングルが「フラッグを立てろ」というタイトルになると初めて知ったときに、ジャンヌ・ダルクのように大きなフラッグを持ったYUKIさんが、みんなを先導していくイメージが広がりました。

今年開催したツアー「Blink Blink」の中で、バスガイド姿の私が旗を持っていた映像があったからなのか、この曲を聴いてくださったファンの方の中にも、私がフラッグを持って先導していくイメージを持った方がいらっしゃいました。でも、この曲でのフラッグは私の中では自分の居場所に印を付けていくイメージですね。私は毎日10行ほどの日記を書いているんですけど、あるときのページの裏に「今あらためて自由を問う」とか「私の自由は誰にも邪魔できない」とか、自由についてなぐり書きをしていたんです(笑)。

──一体YUKIさんに何が起こったんでしょう?

何があったのかは思い出せないけれど、きっとその時期はそういうモードだったんでしょうね(笑)。で、それを読み返したときに、私の頭の中や私の気持ちは誰にも管理できないし、どこまでできるかは自分次第なんだと改めて思いました。私が何を歌おうがどう歌おうが、私の自由なんです。そして自由には、常に責任も一緒に付いて回るものですよね。もし「フラッグを立てろ」に副題を付けるなら、“責任を持て”ですね(笑)。

──以前からYUKIさんは「悲しみは自分の思いもよらないところから一方的にやって来るけれど、幸せは勝手にやって来ない。だから幸せは自分からつかみにいかないと人は幸せにはなれない」と言っています。

自分を幸せにするのは自分です。何が起きようと、自分が決めたことならばどんな結果になっても大丈夫なんです。私は自分がなりたい自分になるために、一歩ずつでもいいからそこに近付くために前に進み、自分で自分の責任を取るところから逃げないんだ、正面から立ち向かって進んで行くんだ! と決めました。

──YUKIさん自身の決意が「フラッグを立てろ」には込められていたんですね。

はい。「さよならバイスタンダー」にもとことん自分を信じて、自分で責任を負うんだという覚悟を書くことができたけれど「フラッグを立てろ」が書けたことで、その覚悟はより強くなっています。この歌は「3月のライオン」第2シリーズの零くんとひなちゃんを応援する歌であり、私自身の歌でもありますね。

お別れが来るとわかっているうえで、人と付き合っていきたい

──「フラッグを立てろ」のレコーディングの様子も教えてください。

レコーディングでは最新アルバム「まばたき」で勉強できたことが、この曲に生かせたと思います。これは打ち込みのほうがいい、こっちは生音がいいという細かい振り分けを、それぞれのよさと面白さを理解しながら、自分の中でしっかり選択できるようになったことがこの「フラッグを立てろ」につながりました。だからこの曲は全部打ち込みで構築されているとは思えないほど、生バンドのような鳴りを響かせることができましたね。

──歌入れはツアー中に行ったそうですね。

ツアーをやっていたので、歌うことに慣れていたとは思うんですけど、自分が歌いたいようにできたことがうれしかったです。「私はこうやって歌いたいんだ」という思い通りの歌が歌えたので、最高に気に入っています。声の伸びも引きも思い通りにできたので「私、乗ってるなー」って(笑)。歌い終わると汗だくで、ぜえぜえ言ってましたけど(笑)。

──カップリング曲「yes」は、メインボーカル以外にもYUKIさんの声がたくさん入っています。

ここのところ高いキーで歌う曲が多かったので、とても低い声やコーラスで遊んだりして、声で遊んでいます。ガラガラの声もサンプリングで入れているんですけど、そのガラガラ声ですら愛おしかったですね(笑)。自分で自分の声を好きにならないと、本当にいい歌は歌えないんだと思います。

──歌詞には「フラッグ」というワードが出てきますね。

このフラッグの意味合いも「フラッグを立てろ」とつながっています。歌詞に関しては、曲を聴きながら歌っていたときに「誰もがyesと叫びたいわ」というフレーズが出てきたことがきっかけとなって、すべてをOKとする全肯定の歌になっていきました。人と人との関係は時として面倒くさいことが多いけれど、それすらも私は面白がれるようになりたい。お別れが来るのは悲しいけれど、お別れが来るとわかっているうえで、人と付き合っていきたいんです。これから先は楽しいことしかないんだと信じて、コミュニケーションを取って付き合っていく。その思いはさらに強くなりましたね。

──あなたはここにいていいんだよ、生きていていいんだよというような思いが、「yes」の中にはすごく出ていると思いました。

それは自分自身にも言いたいことです。この歌は「You can stay right here」(「さよならバイスタンダー」のカップリング曲)と近い距離にある曲かもしれないですね。この歌詞を書くことができたこと、歌ったことで「yes」は私の中でいつでも歌っていける曲になったと思いました。ずっと歌っていきたいと思えたので、きっとこれも1つのYUKIのスタンダードになっていくと思います。

YUKI「フラッグを立てろ」
2017年11月22日発売 / EPICレコードジャパン
YUKI「フラッグを立てろ」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
1728円 / ESCL-4931~2

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YUKI「フラッグを立てろ」通常盤

通常盤 [CD]
1080円 / ESCL-4933

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CD収録曲
  1. フラッグを立てろ
  2. yes
初回限定盤DVD収録内容
  • 「3月のライオン」第2シリーズ ノンクレジットオープニングムービー
YUKI(ユキ)
1993年にJUDY AND MARYのボーカリストとしてデビュー。2001年のバンド解散後、2002年にシングル「the end of shite」でソロ活動を開始した。2012年5月にはソロ活動10周年を記念して東京・東京ドーム公演「YUKI LIVE "SOUNDS OF TEN"」を開催し、約5万人を動員。JUDY AND MARY時代にも東京ドームでライブを行っていることから、バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った初の女性ボーカリストとなる。2017年2月にソロデビュー15周年を迎え、3月には約2年半ぶりのオリジナルアルバム「まばたき」をリリース。11月にはテレビアニメ「3月のライオン」第2シリーズのオープニングテーマを表題曲としたニューシングル「フラッグを立てろ」を発売した。