ロシア出身のアーティストLizaのミニアルバム「PARAPARA MIXTAPE」が3月19日に配信リリースされた。
Lizaは2022年7月にアルバム「Who Am I?(DELUXE)」をリリースし、Apple Musicのオルタナティブチャートで3位を獲得。2024年10月リリースの楽曲「PARALLEL feat. 7」は、TikTokで総合視聴数7億回を突破し、数々のチャートにランクインした。
「PARAPARA MIXTAPE」にはsheidAをフィーチャリングアーティストに迎えた新曲「PARADISE feat. sheidA」、既発曲「PARALLEL feat. 7」「PARAGRAPH」など全9曲を収録。Chaki Zuluが全曲のプロデュースを手がけた。
音楽ナタリーではアルバムリリースに合わせてLizaにインタビュー。活動初期からバイラルヒットを飛ばした彼女が人知れず抱えていた苦悩、迷走期、そこからの脱出について赤裸々に語ってもらった。
取材・文 / 高木“JET”晋一郎
とにかく私の言葉を聴いてほしい
──Lizaさんが音楽を始めたきっかけは?
ママがロシア人で、その関係で私もロシアに住んでいたことがあったので、ロシアのポップスも含めた洋楽はよく聴いていましたね。私自身、表現にはずっと興味があり、子供の頃は演技のスクールにも通っていて。あと、中学校の授業で作文を書いたら、担任だった国語の先生に褒められて、コンクールに応募したらそれがすごい賞をいただいて新聞に載ったり。だから、自分は文章を書くことに向いてると思ったし、それで小説や文章を書くようになりました。
──ご自身で何かをクリエイトすることがお好きだったんですね。
そうですね。ただ、いろんな表現の中でも音楽は一番向いてないと思ってたんですよ。シンプルに今よりも全然うまく歌えなかったし、中学の通知表でもほかはオール5なのに、音楽だけ3や2だったり。
──今では考えられないですね。
あんまり音楽の先生と折り合いがよくなかったのもあると思うんですけど、そこで音楽に対する苦手意識が生まれてしまって。だけど、16歳ぐらいのときに知り合いが曲だけじゃなくミュージックビデオも自分で作っているのを知って、「こうやって制作ができるんだ」と興味を持ったのが本格的に音楽を始めたきっかけですね。
──Lizaさんの表現は、ボーカルとラップをシームレスにつなぐものだと思うんですが、ラップを選択の1つに入れた理由は?
現状では自分のことを「ラッパー」だとは思っていないんですね。でも、例えば自分の家庭環境であったり、自分の過ごしてきた環境は、普通の人とは全然違うし。そういう、世間一般からするとマイナスに感じられるような生い立ちが、ヒップホップだったら武器になると思ったんです。
──ネガティブをポジティブに変換させるという、ヒップホップ的なマインドですね。
自分のやってることがヒップホップですか?と言われたら、100%そうとは言い切れないだろうし、別に自分でも「私はヒップホップをやってる」とは思っていなくて。でも、マインドの部分ではヒップホップが強くあるし、それが自分にとってもラップの入り口でした。それが5年前。当時はMCバトルがブームだったのもあって、私自身もラップ=バトルみたいなイメージがあったから、最初はサイファーに参加して。
──どんなサイファーに参加していたんですか?
池袋や新橋、和光など、行けるサイファーがあればとにかく参加して、週5、6ぐらいでサイファーに通ってる時期が半年ぐらいありましたね。そこで「声がいいから自分で作品も作ったら?」と言われて、制作したのが「Planet」。
──2020年の作品ですが、その意味では、初作からバズが起きたわけですね。
今聴くとけっこうひどいですけどね、自分からすると。ただ、「一歩目で何を作るか」というのは、すごく大事だったと思います。私は「Planet」を本当に純粋に表現欲求や自分の感情だけで作ったんです。本当にしんどい時期で、「とにかく私の言葉を聴いてほしい」という願いしかなかったし、だからこそ、それに共感してくれる人が多かったのかなって。「この曲をバズらせたい」「儲けたい」みたいな雑念があったら、あんなに広がらなかったんじゃないかな。TikTokやSNSでの広げ方も、バズりたいというよりは、もっとたくさんの人に自分の音楽を聴いてほしいという気持ちしかなかったし。
──そして2021年には「Lonely東京」「Who Are You ?」「нож」などがリリースされ、すべてがバイラルチャートに登場します。その状況についてはどう感じていましたか?
その時期の曲は、リアルタイムな自分の感情をすべて曲に落とし込み、友達にミックスをお願いして、完成したらすぐにリリースする、という感じでした。本当に自分の感情に従って作っていたし、ビジネス的なこととか「こうすればバズる」みたいなことはまったく考えてなくて。だから、連続でチャートに入ったことには自分でも驚きました。
──「音楽はチョロい」などとは考えなかった?
音楽がチョロいと思ったことは一度もないですね。基本的に自分は、人よりも上手にできることがたくさんあると思っているんですが、それは長所でもあるし、短所だとも思っていて。
──小器用にできるけど……というか。
何をやってもある程度はうまくできる自信はあるんですけど、表現に関しては突出した何かをちゃんと見つけて、それを作品に込めないといけないと思っているので、その努力は緩めちゃいけないなって。だから、バズったらそこで満足してしまう人もいると思うんですが、自分はそうなりたくない。むしろ、自分はバズったら焦るほうなので、そこで生まれたお金を次の制作やミュージックビデオ、ボイストレーニングみたいな、もっとクオリティを上げるための自己投資にしてますね。
「陰」の要素をずっと持っていたい
──その後、アルバム「WHO AM I?」のリリースなどの展開がありました。
正直、その時期には「ヒップホップとかヒップホップじゃないってなんなんだろう」「ラップってどういう概念なんだろう」「自分自身は何をやりたいんだろう」と悩む時期に入っていましたね。やっぱり4曲連続でバズると、いろいろな人が声をかけてくれるようになるんです。そこでお会いした人たちの意見を聞き、スキルアップするための環境や必要な知識を教えていただいたのですが、同時に、音楽を続けていくうえで、ビジネス的な側面も考えないといけなくなって。
──商業的な音楽を作る必要が出てきたと。
そうですね。だから「こうやらなきゃいけないんだろうな」「こうやっていく必要があるんだろうな」と考えるようになって、音楽が自分の感情を表現する場ではなく、商業的なものになってしまった。音楽産業のことを何も知らないまま音楽を始めたから、皆さんの意見をどこまで受け入れて、どこから受け入れないようにすればいいのかみたいな、ジャッジのラインもわからなくて。それで正解を考えているうちに、自分の音楽の姿がわからなくなってしまったんですよね。
──アイデンティティを見失ってしまったんですね。
自分は自分の表現をするために自由に音楽を作っていたはずなのに、売れる音楽を作らなくちゃいけないんだ、というプレッシャーも感じるようになって。大人の人が介入したことで、「費用を出してもらってるから、それをペイするぐらい売れないといけない」みたいな雑念が、表現をしたいという気持ちよりも勝ってしまった。そういう時期が、1年半とか2年ぐらいあったんですよね。完全に迷走してました。
──その中で「ラップスタア誕生 2023」に出たきっかけは?
友達もエントリーしてたので、ちょっと出てみようかなと思ったんです。当時、自分の感情の行き場がなかったから、人間関係を断ち切ったり、友達とも距離を置いていて、感情を昇華させるところが音楽しかなかったし、それを「ラップスタア」でぶつけたというか。でも、自分をよく知ってる人には「『ラップスタア』はLizaのよさが1mmも出てなかったね」って言われます。もちろん7ちゃんに出会えたり、SEEDAさんと楽曲を制作できたり、経験としてすごく大きかったけど、途中敗退だったことも含めて、やり切った感じではなかったです。
──SEEDAさんとはその後、EP「愛」の収録曲「愛 feat. SEEDA」を制作されましたね。
「ラップスタア」の中で話せなかったこと、形にできなかった言葉をあの曲に集約しました。
──「愛」ではLizaさんの生い立ちが表現されていますが、ほかの曲ではあまりそういったテーマを明確に歌詞にはしませんよね。言い方はよくないと思いますが、Lizaさんの生い立ちやライフに関わる「刺激的な部分」「スキャンダラスな言葉」を求めるリスナーもいると思いますが、Lizaさんはあまりそういったライフヒストリーをテーマにはしない。
自分の環境や生い立ち、家庭状況は確かに過酷だったと思います。でも、それによって自分の感受性や、人の気持ちを理解できる範囲、社会的な経験値、人間としての深みが生まれたと思うんですね。
──Lizaさんの根本的な部分を形成したと。
だから、自分の生い立ちに感謝はしています。「自分だったら子供にこういうことはしないよな」と思うことをたくさんされたけど、私は誰のことも恨んでない。むしろ、そういう経験をしたおかげで、感受性と表現力が備わって、こうやってLizaの音楽が生まれているんだと、ある意味達観してるんですよね。
──でも、環境は自分で選べるものではないし、その環境に対する怒りを形にするのも、1つの表現方法ではあるのかなって。
私は自分の環境すらも受け入れちゃってるんですよね。“もっとこういう人生を送りたかった”という気持ちもないし、今の自分の状況には感謝しかしてない。「私はこういう人生を送ってきた」みたいな音楽を、私自身がそこまで聴きたいと思わないのもありますね。機会があれば「愛」のときみたいにそういう一面を出したいけど、それを前面に打ち出そうとは思わない。出すとしたら、めちゃくちゃ売れたあと、勝ち上がったあとでいいかなって。そこでぶちまけたほうが、もっと説得力があると思うし。自分のバックグラウンドよりも、表現者としての側面で勝負したい。ただ“陰”な感じはずっと持っていきたいです。ビジュアルもそうだけど、発信やスタンスとしても。
──“陽”の方向性には進めない?
自分がいくらがんばってもそっち側の人間になれないというのもあるし、ベースからして“陰”だと思うんですよね(笑)。小学校低学年の頃から山田悠介さんのグロい小説を読んでたし、家庭環境の影響か、ベースとして人間の汚い部分に興味があるんです。だから、ポジティブな映画を観てもあまり感情が動かず、「結局きれいごとだよね」と思ってしまう。
──なるほど。
自分自身、ポジティブなことをずっと言ってる人よりも、しんどい気持ちやネガティブをわかってくれる人に惹かれる。本当の意味で自分のことを深く好きになってくれたり、共感してくれたりするのは、“陰”の要素を持っている人だと思いますね。
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「Lizaって何?」