音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ

「20世紀の逆襲」から読み解く 21世紀を生きる表現者・すみぺの正体

誰かが“上坂すみれ”のCDを聴いてくれるから

──ではなぜ声の芝居と歌という身体表現は楽しいんでしょう?

うーん……。お芝居はその「リア充になれない私」であっても何者にでもなれるところが大きな魅力になってるんですけど、歌はなんで楽しいんだろう? 身体表現そのものが好きなわけではないし、ほかの誰かになれるわけでもないし……。

上坂すみれ

──「20世紀の逆襲」は“上坂すみれ”の2ndアルバムですしね。

だからやっぱりコミュニケーションの問題に話が戻っちゃうんだと思います。“上坂すみれ”のCDを楽しんでくださる誰かがいるから、“上坂すみれ”のライブを観に来てくださる誰かがいるから歌えるし、歌うことを楽しめるんだと思います。今回のアルバムにも過渡期感がある気がしていますし。

──過渡期感?

リリースすることで何か新しいことが生まれそうな予感がちょっとあるんです。

──確かに既発のシングルの楽曲を総花的に収録しているから、ある種ベスト盤的な需要もあるはず。このアルバムで初めて上坂すみれのCDを手にする人もたくさんいるでしょうしね。

そこには当然新しいコミュニケーションが生まれるはずですし、逆にこのアルバムの前に出したシングルが「Inner Urge」というコミカルなものだったので(参照:上坂すみれ「Inner Urge」インタビュー)、今応援してくれている同志諸君はシリアスな「20世紀の逆襲 第一章」「第二章」「第三章」に驚いてくれる気もしていますし。このアルバムって「20世紀の逆襲」の1~3章に限らず、ちょっとシリアスなんですよね。

──「繋がれ人、酔い痴れ人。」にせよ「全円スペクトル」にせよ、使っている楽器こそ「20世紀の逆襲」1~3章とは違うけど、実は通底しています。どれも音はアッパーでハードめだし、詞はブライトな過去である20世紀に思いを馳せつつも「今を生きていこう」と歌うものになっている。

なので、その曲を歌う私の声はかわいらしくはあるんですけど、レコーディングそのものはそれほどかわいらしくはなくて(笑)。過去最高にマジメな作業になった気がしています。で、私、そのレコーディング期間中、ずっと新曲の音源とリック・アストリーのベストアルバムばっかり聴いてたんですよ。

リック・アストリー大好きっ!

──まさに「20世紀の逆襲」といった趣のエピソードだとは思いますけど、なぜ2015年の終わりに1980年代後半のユーロビートを?

たまたまCSの音楽専門チャンネルで「Together Forever」のPVを観たので(笑)。

──ふんわりしたリーゼント風のヘアスタイルで、すごい肩パットの入ったジャケットを着たリック・アストリーがどアップで歌ってる、あれ?

上坂すみれ

そのどアップのうしろではパステルカラーの布みたいなのがはためいていて、ときどき電話しながら花の匂いとかを嗅いでる謎の美女がインサートされたり、また別の美女とイケメンがリック・アストリーの隣で楽しげにボックスを踏んだりする、あれです(笑)。21世紀的な価値観で観るとユルいと言えなくもないあのPVがすごくツボで。マジメでシリアスなレコーディング作業の合間に一筋の光を見た気がしました(笑)。いっつもそうなんですけど、何かに集中している瞬間って、集中しているつもりなのに、今やってることとは逆のこととか違うことが気になっちゃって。そういう方も多いと思うんですけど、テスト期間になると勉強部屋の片付けをしたくなってみたり、あとはロシア語を勉強したくて大学に入ったのに、いざ語学を始めてみたらドイツ語のほうがちょっと面白そうに見えてみたり(笑)。そういう性格だからレコーディング中にリック・アストリーにハマったんだと思うし、ハードでシリアスな曲調にかわいらしい声を乗せてみたりもしたんだと思いますし。……あっ、あと、その声の効果もあってか「シリアス」ではあるんだけど「すごくシリアス」には振り切らないアルバムになった気もしています。

──確かに「20世紀の逆襲」とは言いつつも「昔はよかった」「今の社会は!」とか「それでも今を生きろ!」と大上段に振りかぶったりはしていませんね。

やっぱり20世紀は実感を伴わないものだから、そんなに強いことは言えないですし、今の世を生きる身としては今を全否定したくもないですし。かわいらしく歌ってみた結果、なんかそうなった、という話ではあるんですけど「すごくシリアス」なアルバムにならなくてよかったなとは思ってます。まさに美樹本先生や丸尾先生のジャケットが象徴している通り、誰もに20世紀を連想させる内容になってはいるんだけど、実はそんな20世紀はどこにもない。ヘッドフォンをしている間だけ、あったかもしれないし、なかったかもしれない時代に思いを巡らせられる、シリアスなんだけど楽しいアルバムになったなって。

──まさに。ではそのシリアスなんだけど楽しいアルバムでスタートを切った2016年はどんな音楽活動をしましょう?

うーん……。また今やってることの逆のことや違うことをやりたくなる性格が顔を出す気がします。

──というと?

シリアスなアルバムで2016年の幕を開けておきながら、次のシングルやアルバムとそのPVはリック・アストリーをオマージュしたものになる可能性が否めないというか(笑)。

──そんなにリック・アストリーのことが好きでしたか(笑)。

大好きです(笑)。

上坂すみれ
ニューアルバム「20世紀の逆襲」2016年1月6日発売 / STARCHILD
初回限定盤A[CD+Blu-ray]3888円 / KICS-93336
初回限定盤B[CD+DVD]3888円 / KICS-93337
初回限定盤C[CD+写真集]3888円 / KICS-93338
通常盤[CD]3240円 / KICS-3336
CD収録曲
  1. 予感02
    [作曲・編曲:R・O・N]
  2. 20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  3. パララックス・ビュー
    [作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:Sadesper Record]
  4. 冥界通信~慕情編~
    [作詞・作曲・編曲:和嶋慎治(人間椅子)]
  5. 繋がれ人、酔い痴れ人。
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  6. すみれコード
    [作詞・作曲:松永天馬(アーバンギャルド) / 編曲:アーバンギャルド]
  7. TRAUMAよ未来を開け!!
    [作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:窪田晴男]
  8. Inner Urge
    [作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利]
  9. 無限マトリョーシカ
    [作詞:谷山浩子 / 作曲・編曲:Леснойпутешественник]
  10. 無窮なり趣味者集団
    [作詞 上坂すみれ / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  11. 来たれ!暁の同志
    [作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:岡部啓一]
  12. 20世紀の逆襲 第二章~蠱惑の牙~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  13. 閻魔大王に訊いてごらん
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  14. 罪と罰 -Sweet Inferno-
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  15. 全円スペクトル
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  16. 革命的ブロードウェイ主義者同盟(INST piano solo ver.)
    [作曲・編曲:遠山明孝]
  17. ツワモノドモガ ユメノアト
    [作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)]
  18. 20世紀の逆襲 第三章~絶境の蝶~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
初回限定盤A、B Blu-ray&DVD 特典映像
  • 「七つの海よりキミの海」Music Video
  • 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
  • 「革命的ブロードウェイ主義者同盟」Music Video
  • 「パララックス・ビュー」Music Video
  • 「来たれ!暁の同志」Music Video
  • 「閻魔大王に訊いてごらん」Music Video
  • 「Inner Urge」Music Video
  • 「テトリアシトリ(PARKGOLF REMIX)」Music Video
ライブ情報
超中野大陸の逆襲 群星の巻

2016年2月11日(木・祝)東京都 中野サンプラザホール

超中野大陸の逆襲 草莽の巻

2016年2月12日(金)東京都 中野サンプラザホール

上坂すみれ(ウエサカスミレ)
上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2016年には丸2年ぶりとなる2ndフルアルバム「20世紀の逆襲」をリリースした。