音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ

「20世紀の逆襲」から読み解く 21世紀を生きる表現者・すみぺの正体

カッコ書きの少ない年表

──その「捨てるべき」思い出は捨てる。イヤなことはきっぱり忘れて人生の良側面だけを見つめて日々暮らしていく、ある種ヘルシーな生き方は難しい?

確かに「罪から逃げるのはよくないものの、十字架を背負いすぎるのも重たいなあ」とは思うんですけど「大学入学」みたいな年表に書かれがちな見出しのことを思い出すたびに、それぞれの見出しのうしろに私しか知らないカッコ書きがいっぱいくっついてきてしまって……。

上坂すみれ

──難儀な性格ですねえ(笑)。

絶対にリア充的・パーティピープル的な生き方、人生の日向だけを歩く生き方はできないんだろうなあ、とは思ってます(笑)。

──ただネットのジャーゴン的な「リア充」ではないかもしれないけど、声優として毎シーズンいろんな役を演じているし、アーティストとしてもこうやってアルバムをリリースしているし「リアルが充実」はしていますよね。

なので声優や音楽のお仕事をさせていただくようになって、世界はリア充やパーティピープルだけのものではないことに気付けた感じはありますね。私には私なりの居場所があるんだな、って。ただカッコ書きの少ない時代に憧れはあります。

──そのカッコ書きの少ない時代が20世紀であり、だからアルバムタイトルは「20世紀の逆襲」だ、と。

そうですね。

──でも上坂さんは1991年生まれ。10歳までの世紀は20世紀でしたよね。当時の年表にはカッコ書きが少ない?

その頃はまだ親や先生から好かれてました(笑)。

──あはははは(笑)。家庭内で持ち検されるお子さんじゃなかった。

いい子でした(笑)。あとこれは個人的な印象なのかもしれないんですけど、1990年代って20世紀感がないというか、ある意味21世紀の一部のような気がするんです。インターネットはすでにありましたし、携帯電話も普及し始めていましたし。

──ネガティブな話だけど1991年にバブルが弾けて以来、今も景気が悪いまま。不景気が始まった1990年代は「失われた10年」と呼ばれていたけど、2000年代になったらそれが「失われた20年」に延長されたわけですし。

私の世代は生まれたときから失われっぱなしですから(笑)。今回のアルバムはそういう21世紀を生きる私が、20世紀という体験的には知らない時代に憧れる、という作品になった気はしています。レコーディングのときもそうですし、改めて聴き直してみたときもそうなんですけど、生い立ちの話をさせていただいたときにも言った、中学生の頃インターネットで昭和のCM動画やアイドルさんの動画を漁っていた頃に覚えていた感覚に似た感覚が蘇りましたから(参照:上坂すみれ「七つの海よりキミの海」インタビュー)。

ヤクルトで作ったロボットという工夫

──確かにこのアルバムって21世紀を生きる上坂すみれと、「20世紀の逆襲」の名のもとに集められた“20世紀的”楽曲群のバランスが面白い1枚ですよね。アルバム用の新曲の声と楽器の混ざり方がユニークで気持ちよかった。1~3章の連作になっている「20世紀の逆襲」はどれも歪んだラウドなギターを前面に押し出したハードなロックチューンで……。

曲調も歌詞もゲームのボス戦っぽいというか、テーゼが強いですよね。特に1章は「推して参る!」っていう感じの曲ですし。

──そこに“あえて”かわいらしく歌った上坂さんの声が乗っています。

上坂すみれ

ヤクルトの容器で作ったロボットみたいだなって思ってます(笑)。

──へっ!?

曲調や歌詞に寄り添ってハードにカッコよく歌えない私なりの工夫の結果というか。本当ならブリキでオモチャのロボットを作りたいんだけど、ブリキがないからヤクルトで作る、みたいなものと同じ工夫の果てに見付けた答えだと思うんです。

──はははは(笑)。じゃあエレポップナンバーである「繋がれ人、酔い痴れ人。」のちょっと鼻に引っかけた大人っぽい声を響かせるボーカルや、「全円スペクトル」の感情を強くは押し出さない、ちょっと機械的なボーカルも?

工夫の産物ですね。

──ただその工夫のしかたって実は今回発見したものではないですよね。2014年の1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」リリース時には、ブラックアーバンなトラックに菊池桃子さんのアイドルボイスが乗るラ・ムーに言及していましたし(参照:上坂すみれ「革命的ブロードウェイ主義者同盟」インタビュー)。

そうですね。あまりはっきりと意識したことはなくて、あくまで形而上的な話だし、今お話を聞いていて、ふと気付いたことではあるんですけど、なんとなくラ・ムー的なものを指向している気はします。

──であればこのアルバムは、実は2年前から指向していた、ハードロックやエレクトリックなトラックにかわいらしいボーカルを乗せる「上坂すみれスタイル」の1つの完成形とも言える?

なるほどー。

──あれっ? すごく他人事っぽい(笑)。

常に「どう歌えば私らしく、しかも楽しい曲になるか」という工夫は凝らしているつもりなんですけど、「私はこういうボーカリストになりたい!」「私のこの歌を聴いてください!」という欲求は薄いですし、目指すべきスタイルのようなものまだ明確には持っていない気がするんです。

ニューアルバム「20世紀の逆襲」2016年1月6日発売 / STARCHILD
初回限定盤A[CD+Blu-ray]3888円 / KICS-93336
初回限定盤B[CD+DVD]3888円 / KICS-93337
初回限定盤C[CD+写真集]3888円 / KICS-93338
通常盤[CD]3240円 / KICS-3336
CD収録曲
  1. 予感02
    [作曲・編曲:R・O・N]
  2. 20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  3. パララックス・ビュー
    [作詞:大槻ケンヂ / 作曲:NARASAKI / 編曲:Sadesper Record]
  4. 冥界通信~慕情編~
    [作詞・作曲・編曲:和嶋慎治(人間椅子)]
  5. 繋がれ人、酔い痴れ人。
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  6. すみれコード
    [作詞・作曲:松永天馬(アーバンギャルド) / 編曲:アーバンギャルド]
  7. TRAUMAよ未来を開け!!
    [作詞:サエキけんぞう / 作曲・編曲:窪田晴男]
  8. Inner Urge
    [作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利]
  9. 無限マトリョーシカ
    [作詞:谷山浩子 / 作曲・編曲:Леснойпутешественник]
  10. 無窮なり趣味者集団
    [作詞 上坂すみれ / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  11. 来たれ!暁の同志
    [作詞:及川眠子 / 作曲・編曲:岡部啓一]
  12. 20世紀の逆襲 第二章~蠱惑の牙~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
  13. 閻魔大王に訊いてごらん
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  14. 罪と罰 -Sweet Inferno-
    [作詞:RUCCA / 作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)]
  15. 全円スペクトル
    [作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)]
  16. 革命的ブロードウェイ主義者同盟(INST piano solo ver.)
    [作曲・編曲:遠山明孝]
  17. ツワモノドモガ ユメノアト
    [作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)]
  18. 20世紀の逆襲 第三章~絶境の蝶~
    [作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ]
初回限定盤A、B Blu-ray&DVD 特典映像
  • 「七つの海よりキミの海」Music Video
  • 「げんし、女子は、たいようだった。」Music Video
  • 「革命的ブロードウェイ主義者同盟」Music Video
  • 「パララックス・ビュー」Music Video
  • 「来たれ!暁の同志」Music Video
  • 「閻魔大王に訊いてごらん」Music Video
  • 「Inner Urge」Music Video
  • 「テトリアシトリ(PARKGOLF REMIX)」Music Video
ライブ情報
超中野大陸の逆襲 群星の巻

2016年2月11日(木・祝)東京都 中野サンプラザホール

超中野大陸の逆襲 草莽の巻

2016年2月12日(金)東京都 中野サンプラザホール

上坂すみれ(ウエサカスミレ)
上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2016年には丸2年ぶりとなる2ndフルアルバム「20世紀の逆襲」をリリースした。