ナタリー PowerPush - TOWA TEI
あの平和な日常を濃縮 アルバム三部作完結編「SUNNY」
「簡単に作る」ということを、すごく大切にしてる
──(ほぼレコードからの切り貼りで制作された)「EXTERIOR」はギャンブルのほうに入りますか?
どっちとも言える。ああいうものは手癖でいくらでも作れちゃうから、制作自体はコントロールなんだけど、それを作品として世に出せるかどうか、つまりはいい着地点を見つけられるかどうかというのはギャンブル。この曲の場合は自宅のエクステリア(外装)がヤル気につながりましたね。軽井沢に引越したばかりのときはインテリアに興味があったけど、しばらく住むうちに、エクステリアに興味が出てきて、庭に河原から拾ってきた丸い石を積んでバーベキューしてみたり、壁の木をライトアップしてみたりして。
──それもまた、ハレの気持ちを作り出す作業ですよね。
そうそう。そういう趣味の時間が曲を着地させる推進力になってくれるということです。「エクステリア」で検索してみると、「外装」のほかに「見栄」や「虚勢」って意味も出てきて、なるほどなあ、って思いましたけど、まあ、城の外観に凝るっていうのはロマンの究極だと思うので、ヤル気に直結するんですよ。中盤の女性の声は「この家はほとんどプールだね」って言ってます(笑)。あと、エンジニアが全然別の場所に興奮していたのも面白かったな。「これだけコピペのみで作られた曲は珍しいし、それぞれのレコードの倍音成分がサンプラーを介することなくペタペタ貼られているから、Mo'Waxあたりのターンテーブリストの音楽を初めて聴いたときの衝撃に近い」って言ってました。
──(外の公園から子供たちの声がして)「PARK」でサンプリングされている「やっほー」という声は、もしかして下の公園にいた子供ですか?
そうですよ。もともとはオーストラリアのブリスベンというところにいったとき、花火大会の晩に、暗い湖に入ってワイワイ遊んでる人たちがいて、彼らの声をフィールドレコーディングした素材があったので、それをファイルにベタッと貼りつけたところからリズムを組んでいったんですけど、そこに日本の日常も混ぜてみようかな、と思って。オーストラリアの夜とは違って、日本の昼間だと完全に不審者だから、ママ友連中に警戒されながら、こっそりレコーダーを回してね。そこにシャバめなシンセの音を足して、自分の中では「遅いトランス」として作っていきましたね。まあ、こういうのは訊かれてるから言ってるだけで、聴く人の頭の中ではオーストラリアでも日本でもいいというか、それぞれの楽園を作ってくれればいいと思いますけどね。
──湖の思い出や公園の平和をハードディスクに閉じ込めることって、ある意味もっとも孤独が浮き上がる作業だと思うんですけど、作業中、ふと寂しさに呑まれたりってことはないんですか?
……、全然ないね。
──(笑)ですよね。
とにかくはウザいぐらいに眩しいっていう気分、とりあえず白ワインでも飲むかなって気分を音にしているわけだからね。実際に飲んでるし、マイナーコードの「MELANCHOLIC SUNSHINE」でさえ、ゲラゲラ笑いながら作ってたし。あの曲はもともとメロディの鼻歌があって、でも、どう考えてもレゲエにしかならないから、しばらく寝かしておいた曲なんだけど、ちょうどネットでJAHTARI(デジタルラップトップレゲエで知られるドイツのクルー/レーベル)の連中とやりとりしていたときに、こういうプリセットばりばりのシンセレゲエでもいいんだな、と気づいてやってみたんですよ。
──その制作課程からして、眉間にシワが寄ってる感じがまったくしないですもんね。
シワどころか、伸び切ってるね。太陽の下の温泉で、毛穴が開きまくって、弛緩してる。そんな中で、「MELANCHOLIC SUNSHINE」みたいな曲をサラッと作ることだったり、シャバい感じのプリセット音を使うっていうのが、すごく気持ちよくなってるんですよね。その傾向は「FLASH」からあったと思うけど、最近はさらに進行してますね。「簡単に作る」ということを、すごく大切にしてる。若い頃との一番の違いはそこかな。前はリミックスひとつやるにしても、「テイさんにおまかせで」って言われると困っちゃって、サラッっとやってください、という発注を受けてるにもかかわらず、「最低1カ月はもらわないと無理です」みたいな感じだったから。たぶんそういう時期をさんざん経験して、だんだんと物事を考えなくなっていったんだと思う。考えすぎたら作れないというのはわかっていて、本能的にそこから離れている感じかもしれないけどね。考え始めると何をやるにも躊躇するようになるし、ひとつ音を鳴らすにしても、「これはあのクリシェだ」みたいに思えてきちゃうし。
砂原くんと小山田くん。自分とは全然似ていない
──アルバムのラストトラック「SUNNY SIDE OF THE MOON」はO/S/T(小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEIによるユニット)名義になっていますね。
この曲は軽めのジングルっぽく着地できればいいかなって思ってたんだけど、もうちょっと客観視が欲しくもなって、砂原くんに「どう思う?」って聴かせてみたんですよ。そしたら3時間ぐらいで具体的な音を4つぐらい送り返してきたから、「これ使っていいの?」「そんなんでいいんですか?」「いいよいいよ」って感じで参加してもらって。だったら小山田くんにも頼むかって声をかけたら、アコギを弾いてくれた。そしたら結局小山田くんがセンターになっちゃったね。あのコード感というか、ほっこり感は小山田くんのおかげ。
──砂原さんと小山田さん、どちらが自分に似ていると思いますか?
全然似てないね。まったく違うと思う。まあ、小山田くんと砂原くんは似てるんじゃない? 同世代だし。ただ、共通項はいくつかあるかな。音楽に対するアティチュードみたいなものは、クロスしている部分があると思う。彼らとは年に数回、だいたいY.M.O.周辺の打ち上げなんかで顔を合わせることが多かったんだけど、砂原くんの沈黙期に、「もっと気楽にやったほうがいいんじゃない?」みたいに話しかけたことがあるんですよ。今から考えると、自分も「FLASH」をやる前で、随分作品を出していなかったから、あれは自分自身に言い聞かせてたんだなってことがわかるんですけどね。時間というのは作品に対してのハードルを上げてしまうから、溜め込まないということはすごく重要だと思うし。で、そのときに言っていたのは、「一緒に1枚作れば、4曲ずつでよくない?」ということと、「もうひとり増えれば、3曲ずつでよくなるよ」ってことで(笑)。
──そこでついにO/S/Tが出揃うと。
ただ、そこから3年ぐらい何もしないんだけどね(笑)。でも、これは砂原くんも小山田くんも僕もそうだと思うんだけど、やっぱりひとりで音楽を作ってる人は、なるべく早くパッケージとしてリリースしたいと思っているはずなんですよ。僕らは友達から「そろそろ出ないの?」と言われるたびに、自分に対しても「出ないのか?」って自問しているし、流動的なデータというものを、なんとか作品として定着させたいというのはいつも考えていること。定着させて、次にいきたいんだよね。
──定着させることで、また新しいパーティができますしね。
じゃないとこういう取材だってしてもらえない。制作中には誰も来ないよね。
肉体的にも精神的にも裸が好きなんだろうね
──そんな中、MACHでの配信リリースもあって。
SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEの9年ぶりの新作(「ALIGINMENT EP」)が、なぜか砂原くんの主導で出たりもするっていう(笑)。そのあたりもコントロールとギャンブルの話になるかな。僕は今まで音楽をやることで家が建ったり、今もこうしてスタッフに囲まれている幸せというのはあるんだけど、最近はそのスキームも見直していかなくちゃいけない時期に来ていると思うから、こういう「作ってすぐ出せる実験ラボ」みたいな場所があってもいいと思ったんですね。だから、いくら「弛緩している」「考えない」っていっても、音楽の在り方に対して考えることっていうのは、山ほどあるわけですよ。特にこれからの世の中は、音楽以外のことでも考えさせられることはもっともっと増えていくと思うしね。
──震災時は何をされてましたか?
ちょうど自宅にいて、急いで壁の絵を外してました。アフター3.11の話はこの場でしてもな、という気持ちがありますけど、あの日以降、いろいろと意識は変わっちゃいましたね。今、強く思うのは、それ以前に作り終えていてよかったな、ということと、だからこそこの音が、少しでも多くの人の元気や楽しみになってくれればということですね。なぜならこのアルバムは、平和な日常のエスプレッソだから。陽当りがよくて、気分も晴れてるときに、音楽でもやっちゃおうかなっていう、震災前の気持ちが濃縮されているんですよ。もし(震災を)またいでいたらまったく違うアルバムになっただろうし、もしかしたら出なかったかもしれない。マスタリングはニューヨークのスタジオを押さえていたんですけど、いろいろ行程が押してしまったせいで僕は立ち会えずにいて、まさに日本時間の3月11日にマスタリングが行われて、翌日の12日にデータが送られてきたんですよね。もちろん音楽なんてまったく聴く気にならなかったけど、これが自分のやるべき仕事なんだと言い聞かせて、なんとか今、こうして取材を受けているっていう。思い返せば僕は、9.11の時点で、何があるのかわからない世の中に対しての諦観みたいなものが植えつけられてしまったんだと思うんですよ。だからこそ、音楽そのものをやっているときは、音楽というトリップにドップリとハマりたいと思うようになったわけだし、そのトリップをより快適なものにするためには、美味しい水を呑んで、旨い蕎麦を食って、出したら寝て……っていう、そっちの営みも大切にしたいってことなんだと思うのね。
──悩みがあろうがなかろうが、肩まで浸かれば確実に気持ちいいのが温泉ですよね。
そういうことですよ。僕はヘッドフォンも嫌いだし、指輪もしない。時計もしないから「テイくんお金ないの?」なんて訊かれることも多いけど(笑)、たぶん肉体的にも精神的にも裸が好きなんだろうね。裸族になりたいんだと思う。だって今回のアルバムで一番使った機材ってiPhoneだからね。露天風呂でメロディを思いついたらフルチンで脱衣所まで走っていって、ボイスメモに吹き込むの。部屋の隅で、壁に向かって(笑)。
──鼻歌とiPhone、そしてフルチン。なんだかキャッチーですね(笑)。
親近感沸くよね。そこに「軽井沢」も乗せれば、グッとオシャレになるじゃない? いやホント、僕にとってのシンセサイザーってそういうことだと思うな。ゼロから音を合成するという意味ではさ、ADSR(アタック/ディケイ/サスティン/リリース)のツマミをひねるのも、お湯の蛇口をひねるのも一緒でしょ。フルチンはまさに「リリース」ってことだしね。
CD収録曲
- ALPHA with Taprikk Sweezee
- MARVELOUS with Yurico
- CLOUD with Haruomi Hosono
- THE BURNING PLAIN with Yukihiro Takahashi & Kiko Mizuhara
- MELANCHOLIC SUNSHINE
- TEENAGE MUTANTS with Miho Hatrori
- EXTERIOR
- RUFFLES with Natural Calamity
- UPLOAD
- GET MYSELF TOGETHER with Taprikk Sweezee
- PARK with Mitsuko Koike
- SUNNY SIDE OF THE MOON as O/S/T
TOWA TEI(テイ・トウワ)
1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「ワールド・クリーク」で全米デビュー。世界各国で大絶賛される。1994年から活動の拠点を日本に構え、アルバム「Future Listening!」でソロデビュー。2007年には自身の音楽プロダクションを設立し、レーベル立ち上げにも参加。自身が主催するイベント「MOTIVATION」での定期的なDJ活動のほか、アーティストや製品に対するサウンドプロデュースなど、ますます磨きをかけた豊かなセンスで、DJやトラックメイカー、プロデューサーとして多彩な活動を行っている。