ナタリー PowerPush - TOWA TEI
あの平和な日常を濃縮 アルバム三部作完結編「SUNNY」
幸宏さんに「ブリティッシュとアメリカンとどっちがいい?」って言われた
──確かに「BIG FUN」は、テイさんの作品の中では黒っぽい作品だったと思います。その点「SUNNY」はだいぶ白いというか、カフェオレ感がありますよね?
牛乳多めね。まあ、ブレンド的なことで言えば、インストと歌モノがちょうど半々ぐらいっていうのは初めてかもしれない。
──それでいて、すごく軽やかで、フェミニンでもあって。「THE BURNING PLAIN」で聴ける高橋幸宏さんの声というのも、そのイメージにつながっているのかもしれませんが。
これは黒い/白いの話にも通じることだと思うけど、幸宏さんに歌ってもらう前に、「テイくん、ブリティッシュとアメリカンとどっちがいい?」って言われたのね。
──それは発音のことですか?
そう。具体的には「アイキャント」がアメリカン、「アイカント」がブリティッシュ、みたいなことなんだけど、実際に両方歌ってもらったら、どっちもいいなあ、というか、どっちも満点超えてるなあ、って感じで、かなり選択に迷ったんですよ。そんなときに、「初期のY.M.O.はブリティッシュだったけど、全米ツアーの後は、やっぱりアメリカンも混ざってきた」みたいな文献のことを思い出して、今回はブリティッシュを選ばせてもらったんです。自分のリスナー体験にしても、白から入って黒を経由してるから、そこはルーツや初期衝動に忠実でいこうと思って。
「エキゾチック」とは、許容範囲の広さのこと
──そんな決断がある反面、「THE BURNING PLAIN」のもうひとりのボーカリスト、水原希子さんに関しては、「顔で決めた」とのことですが。
そうですよ。だって、あんなにかわいかったら、ヘンな歩き方はしないはずだし、ヘンな歩き方をしない子は、ヘンな歌い方はしないでしょ。ただ、もともと希子ちゃんのことは気になってたんですよ。たまたま彼女が出ていた「情熱大陸」を観て、そこでの英語がすごく流暢だったんで、幸宏さんのボーカルにも巧く馴染んでくれるんじゃないかと思ったんです。あの曲は英語の発音がうまいとかヘタとかじゃなく、本物じゃなきゃ駄目だと思ったし、あと2日で録らなきゃいけないってときに、じゃああの子のかわいさに賭けてみるかって感じで。そしたらもう、(スタジオに)来てもらった瞬間からピカピカ光ってて、あ、こりゃいけるな、と。
──創作って、自分で自分を納得させる作業だったりしますよね。
ある意味そうですね。
──「顔」がスタートだと、ボーカルに対しての期待値がフラットなぶん、テイさん自身が楽しみながら納得できるのかもしれませんね。
ジャケ買いとかもそうですよね。それはやっぱり、自分の勘を信じてるってことなのかな。あと、「エキゾチック」という言葉があるでしょ? それって一般的にはマーティン・デニーであったり細野(晴臣)さんの三部作であったり、そういう異国情緒みたいなものを連想させる言葉だと思うけど、僕は、そういうジャンルとかテリトリーってことではないと思っていて、もっと大きな意味で、「あらゆるものを興味の対象として捉えられるかどうか」ということだと思うんですよ。例えば「MARVELOUS」で歌ってもらったYURICOちゃんもプロのシンガーではないわけだけど、一緒にごはんを食べたりするときの声のトーンだったり、言葉のスピードで、彼女がどんな歌を歌うのか、もっと言えば、彼女自身がどんな人間なのかとか、かなりの情報は得られるわけじゃないですか。そのときに「あ、歌ってもらおうかな。打ち込み版のスペクターサウンドに、ヒョロッとした高い声が乗ったらいいかも」と思える態度というか、許容範囲のことを(エキゾチックという言葉は)指していると思うのね。「MARVELOUS」はソウルフルに歌う子だと今風のニューソウルみたいになっちゃうし、ニューソウルにするならラファエル・サディーク──まあ、彼は男だけど──ぐらいは歌える本物じゃないと説得力はないわけで。
──「ALPHA」や「GET MYSELF TOGETHER」には、今回もタプリック・スウィージーがフィーチャーされています。彼に関しては、本物ですよね。
顔も知らないけどね。
──(爆笑)。
まあ、彼はクリエイターとして素晴らしいというか、音が好きってところから入ってるからね。ルックスはアドバンテージにならない。
──でも、顔から入ったり、音から入って顔を知らなかったりというのも……。
うん、エキゾな感覚を大切にしているってことで説明できると思うな。そこに僕はオープンでいたいし、オープンでいることで、ワクワクし続けていたいんですよ。あえてテリトリーを設けずにいることで、予期せぬ出会いや結果を生めるチャンスオペレーションの場を作っているんです。もしそれがなく、制作のすべてを緻密にコントロールしていこうとすると、最終的には鏡を見続けるようなことになっちゃうからね。そもそも鏡を見るのは大嫌いだしさ、自分の顔を見るよりは、若くてかわいい子の顔を見ていたほうがよっぽど楽しいじゃない。もちろん楽しいだけじゃ駄目だけど、そういうフローティングな気分っていうのは、必ず音に出るから。そういう意味でも、とにかく一緒にやってて楽しい人がいいんだよね。なんだかんだ言ってそこがいちばんデカいと思う。本人はいいんだけど事務所が面倒臭いところとかあるでしょ? これからの人生、僕はそういうところとはいっさいかかわらないようにしようと思ってて。
──すべての面で、快楽的な方向にいっていますね。
とはいえ制作の面でのギャンブルは少ないんだけどね。例えば「FLASH」で一緒にやったLUOMOのときは、歌はもちろんミックスまでを任せちゃったりしてたけど、今回そういうことはしてないし、幸宏さんとの作詞にしても、言いたいことをきちんと伝えた上で、当初のメロディはすべて活かしてもらうようにお願いしたり。だから、コントロールするところはコントロールして、ギャンブルするところはギャンブルしてるんだけど、その比率や力点というのが、今回は少し違ってきてるって感じなのかな。
CD収録曲
- ALPHA with Taprikk Sweezee
- MARVELOUS with Yurico
- CLOUD with Haruomi Hosono
- THE BURNING PLAIN with Yukihiro Takahashi & Kiko Mizuhara
- MELANCHOLIC SUNSHINE
- TEENAGE MUTANTS with Miho Hatrori
- EXTERIOR
- RUFFLES with Natural Calamity
- UPLOAD
- GET MYSELF TOGETHER with Taprikk Sweezee
- PARK with Mitsuko Koike
- SUNNY SIDE OF THE MOON as O/S/T
TOWA TEI(テイ・トウワ)
1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「ワールド・クリーク」で全米デビュー。世界各国で大絶賛される。1994年から活動の拠点を日本に構え、アルバム「Future Listening!」でソロデビュー。2007年には自身の音楽プロダクションを設立し、レーベル立ち上げにも参加。自身が主催するイベント「MOTIVATION」での定期的なDJ活動のほか、アーティストや製品に対するサウンドプロデュースなど、ますます磨きをかけた豊かなセンスで、DJやトラックメイカー、プロデューサーとして多彩な活動を行っている。