ナタリー PowerPush - TOWA TEI
あの平和な日常を濃縮 アルバム三部作完結編「SUNNY」
TOWA TEIが通算6枚目のオリジナルアルバム「SUNNY」をリリースした。このアルバムは「FLASH」「BIG FUN」と続いた三部作の完結編。「ハレの日にしか創らない。」というコンセプトのもと、彼の現在のライフスタイルを反映したピースフルなサウンドが詰め込まれている。
アルバムには高橋幸宏、羽鳥美保、細野晴臣、高野寛、小山田圭吾、砂原良徳、高田漣、DJ FUMIYA(RIP SLYME)、水原希子ら、豪華なゲストアーティストが参加。この作品の成り立ちについて、TOWA TEI本人の事務所兼スタジオで話を聞いた。
取材・文/江森丈晃
バリー・マッギーはド天然のビッグスター
──「FLASH」「BIG FUN」に続き、今回もバリー・マッギーのアートワークですが、彼とのやりとりはどんなふうに?
バリーとは友達になっちゃったから、親しき仲のデリカシーとして、まずはマネージャーから「興味ありますか?」って連絡してもらいました。正直もう繰り返したくないかもな、って心配してたんだけど、すぐに「いいともー! またかかわれて光栄だー」みたいな返事があって、うれしかったですね。彼には「SUNNY」というタイトルと、制作途中の何曲かを聴いてもらって、あとはおまかせでやってもらいました。
──このアートワークは、まさに窓からの光のようにも見えますし、可視化できない音楽への額装のようにも見えますね。
うん、いろんな解釈のあるアートだと思う。「BIG FUN」ではかろうじて文字が入っていたけど、今回はそれすらもなくなって、「ピュアアブストラクトがラジカルだ」、と言いつつ中ジャケにはまったく新しいキャラクターを描いてくれてるし、とにかくバランスがいい。こういう仕事を見ると、やっぱり彼はイラストレーターじゃなく、ファインアーティストなんだなって思いますね。「ハイ描きましたー」じゃなく、最後までユルユルと実験してくれるし、めちゃくちゃルーズなんだけど、本当の締め切りは知ってる感じで(笑)。これは「たられば」の話になりますけど、僕、バリーのことは、もし(アンディ・)ウォーホルや(ジャン=ミシェル・)バスキアが生きていても彼のほうに興味があったんじゃないかってぐらい好きなんですよ。ギャルの子が「(LADY)GAGAが大好き!」とか、女学生が「嵐のためなら死んでもいい!」みたいに思う感情? ここ数年、そんな気持ちになれるアーティストっていうのは彼ぐらいのものですよ。今、ロスのMOCAでやってる展覧会「ART IN THE STREETS」の図録の表紙もバリーが描いてるし、来年は活動20周年の大回顧展があるらしくて、間違いなくビッグスターではあるんだけど、本人はド天然でね。いろいろと推理が必要な感じもあって……。
──推理?
作品の上下も関係なく送ってくるし、それに返事をすると、今度はまったく違う作品を見せられたりもするから、最後まで彼が意図しているところを読み解く楽しみがあるっていうか。「FLASH」のときも「今から送るよ」っていうメールがきて、楽しみに待っていたんだけど、あのキャラの髪の毛の部分だけが長方形で送られてきて、不思議に思って連絡してみたら、「スキャナーにそれしか入らなかった」って(笑)。
光合成のような音楽制作。ある種の人体実験ですよね
──そんなアートワークも含めて「FLASH」「BIG FUN」からのトリロジー(三部作)が完結したわけですが、そもそもトリロジーになるというのはどの時点で決まっていたものなんですか?
すべてに共通するのは、日記帳的な音楽というか、ラップトップフォークというか、つまりは作りたいときに作って、ある程度まとまったら吐き出す、みたいな作り方をしているということ。で、今回のアルバムを作り始めたときに、自分がまだそういうモードにいることが実感できたから、「じゃ、三部作かな」ってぐらいのもので、そこまで大仰なものではないんですよ。僕、自分で自分のインタビューをチェックしたりはしないんだけど、前と同じことを言ってちゃ駄目だな、ぐらいのサービス精神はあるので、さっき、ある雑誌を読み返していたら、その内容が、驚くほどに今思ってることと変わらない(笑)。サラリーマンじゃないんだし、楽しいぞって思うときだけに作ろうという気持ちはずっと変わってないんですよ。ただ今回は、そこに物理的な制約を設けてみました。ハレな気持ち、プラス、晴れの日にしか作らないっていうコンセプトアルバムとして制作してみたんです。
──気持ちと天候がシンクロしたときにしか作らない。
光合成のような音楽制作。ある種の人体実験ですよね。こういう打ち込みの場合は特に、月の明かりで音楽を作る人っていっぱいいると思うんだけど、その時間帯はゆっくり眠ることにして。
──雨の日は何をしていたんですか?
泣いてた。
──ハハハハ……。
まぁ、音楽以外にもやらなきゃいけないことはたくさんありますからね。あと、逆に晴れすぎていてもバカバカしくてやってられないので、それはそれでドライブにいったりして、サニーな気持ちを充電しておくんです。窓からの光が充分にありすぎても、モニターが反射して見えないから、そこでスッとブラインドを降ろすみたいな感覚なのかな。光が線になってキレイだから写真も撮っちゃおう、みたいな気分が創作意欲に結びつく。同じ写真でも、「FLASH」のときはクラブの暗闇で、キレイなねえちゃんを狙ってシャッターを押す、みたいな感じだったけど、そういうナイトライフ感も意識的に遠ざけるようにしてね。やっぱり音楽はやり続けるとわかりすぎちゃうし、マンネリ化していっちゃうから、自分なりの打開策を設けた感じもあるのかな。事実、これ(ラップトップ)1台あればどこでも制作はできるし、ホテルライフも意図的に増やしてね。前は「ホテル・イコール・休めればいい場所」って感じだったけど、積極的に自分からカンヅメになることも増えました。地方や海外にDJにいくときもポケットマネーで前乗りして作業してたし、東京にいても、山の上ホテル(お茶の水の老舗ホテル)に泊まって、昼間から天婦羅を食って、夜は神保町まで歩いて古本を探してっていう、プチ池波正太郎生活を送ってみたり。
──その際、音楽のことはキレイさっぱりと忘れている状態なんでしょうか?
忘れてるね。気がついたら1週間ぐらい新しい音楽聴いてない、みたいなことも平気であったし。前は人がかけているレコードがすごく気になったり、自分で買うレコードに関しても、使えそうな曲を必死に探すみたいな作業があったけど、そういうことにも興味がなくなった。なんというか、あらゆる面で努力が減ってきてるんでしょうね。
──余計な力が入らなくなっている。
よく言えば老成。悪く言えば尿漏れ。
──ハハハハハ(笑)。「SUNNY」というタイトルからして、過去最高に無防備ですしね。
締まりがないんだよね。全身マルタン・マルジェラみたいな人は、「はあ?」って思うんじゃない?
──「TECHNOVA」であったり「GERMAN BOLD ITALIC」であったり……。
はいはい。「LAST CENTURY MODERN」であったり。
──ええ、そういうキーワードを与えられると聴くほうは身構えますけど、今回は聴く前から気持ちがふにゃっとします。
確かにそういう言葉ありきのワーディな感覚で作っていた時期も長いし、「FLASH」や「BIG FUN」という語感にも多少鋭角なところが残っていたと思うけど、今回はそのカドすらも取れちゃった。まぁ、タイトルは「UNTITLED」じゃなければいいかな、ぐらいの気持ちですよ。無題っていうのは一番滑稽じゃないですか。
──なおかつ検索に弱い。
「SUNNY」も相当に弱いけどね。僕、アルバムの候補名は必ず検索にかけてみるんですよ。「SUNNY」だと当然あの曲(ボビー・ヘブによる1966年のヒット曲。無数のカバーバージョンあり)がヒットするから、聴いたことないものは買ってみたりね。まあ、まったく影響されませんでしたけど。そういや「BIG FUN」のときはマイルス・デイビスとINNER CITYにカブって、「なるほど。INNER CITYの気分はちょっとあるかな?」とか思ったりもしましたけどね。
CD収録曲
- ALPHA with Taprikk Sweezee
- MARVELOUS with Yurico
- CLOUD with Haruomi Hosono
- THE BURNING PLAIN with Yukihiro Takahashi & Kiko Mizuhara
- MELANCHOLIC SUNSHINE
- TEENAGE MUTANTS with Miho Hatrori
- EXTERIOR
- RUFFLES with Natural Calamity
- UPLOAD
- GET MYSELF TOGETHER with Taprikk Sweezee
- PARK with Mitsuko Koike
- SUNNY SIDE OF THE MOON as O/S/T
TOWA TEI(テイ・トウワ)
1990年にDEEE-LITEのメンバーとして、アルバム「ワールド・クリーク」で全米デビュー。世界各国で大絶賛される。1994年から活動の拠点を日本に構え、アルバム「Future Listening!」でソロデビュー。2007年には自身の音楽プロダクションを設立し、レーベル立ち上げにも参加。自身が主催するイベント「MOTIVATION」での定期的なDJ活動のほか、アーティストや製品に対するサウンドプロデュースなど、ますます磨きをかけた豊かなセンスで、DJやトラックメイカー、プロデューサーとして多彩な活動を行っている。