ナタリー PowerPush - the pillows
理想の先に抱える矛盾 山中さわおの憂鬱
the pillowsがおよそ1年ぶりとなるニューアルバム「トライアル」を完成させた。ナタリーではこのアルバムの魅力に迫るべく、作詞・作曲をすべて手がけるフロントマンの山中さわお(Vo, G)に単独インタビューを敢行。いつになくシリアスな空気をはらんだこのアルバムがどのようにして作られたのか、じっくりと話を訊いた。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 中西求
シリアスな内容が多くなったという自覚はある
──今回のアルバムは一聴してまず、どことなく憂鬱なムードをはらんだ、ズシンと重たい空気を全体に感じました。何度か通して聴いてみても、やはりシリアスな部分が気にかかって。この感想は的外れですか?
いや、的外れではないですね。歌詞については、これまでのピロウズのアルバムの中でも特にシリアスな内容が多くなったなという自覚は全然あります。
──アルバム用の楽曲制作はどのぐらいの時期だったのでしょうか。
先行シングル以外の8曲は、今年の4月から6月ぐらいに曲も作って歌詞も作って。多分世の中的には普通だと思うんですけど、短期間でまとめて作るのは僕のスタイルとしてはそれはとても珍しいことで。
──前回のインタビューでアルバム制作のスタイルについて訊いた際は、曲は常に作り続けていて、大量にあるストックの中から歌詞が書けたものを選んでアルバムにしている、というお話でしたよね。
うん。今回は自分の感覚で言うと「すごく短期間に凝縮して作ったな」という感じだったので、気分が共通しやすいですかね。2年、3年の幅を置くよりは。
──4~6月というと、やはり東日本大震災は切り離せない時期ですよね。
まあ、そうですね。でも震災自体のことと、その後のいろんな発言や行動……いろいろ思うところはありましたけど、それがストレートに反映してるのは「Minority Whisper」だけで、あとのシリアスな曲は歌詞の内容は無関係。個人的に疲れてた、弱ってたのかな。
安定感をエネルギーに変えたり、音楽に還元するのは向いてない
──マイナス方向へのエネルギーが強く発揮された曲というのも、山中さんの作品が持つ魅力のひとつだと思うのですが。今作ではそちら側にかなり寄ったアルバムだなと。
1年ぐらい前から、あまり心がいい状態ではなくて。それは大事件が勃発してドーンと気が沈むようなものでもなくて、ゆっくりゆっくりむしばまれていくような……。どっちかっていうと最初は「退屈」というか、そういう感じでしたね。長い時間をかけて「ああなりたいな」と思っていた自分、思っていたバンドの理想像にゆっくり近づいてきたし、昔と違ってほとんどの人に優しくされる。そんなに嫌われてもないし、僕らのことが好きじゃない人にも「ピロウズはきっと価値のあるバンドなんだろう」みたいな情報として伝わってるような実感はあるんだけど。
──ピロウズは20周年を境に、若いバンドも目標として挙げるような、シーンのアニキ的立場というのがすっかり確立された印象があります。前作「HORN AGAIN」は、そんな頼れるアニキが最前線で突進していくようなムードがあったので、その1年後に出るアルバムが憂鬱なトーンに包まれていたことに少し驚きました。今はそういうモードなのかなと。
矛盾してるんだけど、なりたい自分に近づけたのはもちろん達成感と喜びがあって。だけども同時に安定してる状態に違和感もある。僕は安定感をエネルギーに変えたり、音楽に還元するのは向いてないんじゃないかな。あと、単純に年齢的なこともあって、もう未経験のものってほとんどないから、10回目の経験と200回目の経験では心の受け止め方が全く違うし、心が鈍くなってきてるなという自覚がある。それがだんだん「もういい音楽は作れないんじゃないか」っていう、周りの評価はちょっと置いておいて、自分の評価というか、自分の評価がどんどんどんどん過去の自分を下回るものになってくるんじゃないかっていう強迫観念もあって。それにかなり怯えてたかな。
──努力して駆け上がってきた先の風景がそんなに晴れ晴れしいものではなかった、ということなのでしょうか。
いや、晴れ晴れしいものだと思うんです。登ってる最中は好きなんでしょうね。ただこっから先、ここで黙っているか、降りるかっていう。下手にキャリアを積んでしまうと「そこでゆっくり座っててください」って言われるけど、それがきっとできないタイプなんでしょうね、僕は。それに、自分で自分の人間性とピロウズの音楽性を知ってますから、例えばMr.Childrenやサザンオールスターズの山は、僕が足を踏み入れる山ではないってわかってる。
──ほかの人たちが歩んできた成功の形と、ピロウズの成功はちょっと違うかもしれないと。
僕の思う「音楽ファン」っていうのは100万人もいないっていうことですよ。
──100万人に到達すれば成功ってことではないし、そういう音楽ではない。
そういう音楽ではないですね。僕の発言と行動を考えたら無理でしょう(笑)。基本的に好きな人間よりも嫌いな人間のほうがダントツに多いので、そんな人間は好かれるわけがないし。桜井(和寿 / Mr.Children)はそういう人間じゃないからね。ちゃんと人間に愛情がある人だから、だから音楽の受け入れられ方もすごく理にかなってる。そういう人がそういう気持ちで作った歌が100万人にウケるっていうのがすごくわかりやすい話で、僕はそうじゃないから。自分の青春時代もそうではなかったし、ピロウズのリスナー、多分「もう10年ぐらい離れずにいるよ」みたいな人は僕が言ってることがよくわかると思う。
CD収録曲
- Revival
- Rescue
- Comic Sonic
- Flashback Story
- エネルギヤ
- ポラリスの輝き 拾わなかった夢現
- Minority Whisper
- 持ち主のないギター
- トライアル
- Ready Steady Go!
DVD収録内容
- トライアル [Music Video]
the pillows(ぴろうず)
山中さわお(Vo, G)、真鍋吉明(G)、佐藤シンイチロウ(Dr)の3人からなるロックバンド。1989年に結成され、当初は上田ケンジ(B)を含む4人編成で活動していた。1991年にシングル「雨にうたえば」でメジャーデビュー。初期はポップでソウルフルなサウンドで好評を博すが、上田脱退後の1994年以降は徐々にオルタナ色を取り入れたサウンドへと変化していく。一時は低迷するが、精力的なライブ活動を続ける中で固定ファンを獲得。2005年には結成15周年を記念して、ELLEGARDEN、BUMP OF CHICKEN、ストレイテナー、Mr.Childrenなどが参加したトリビュート盤を制作。the pillowsの存在を知らなかった若年層にもアピールすることに成功する。また、2005年にはアメリカ、2006年にはアメリカ/メキシコでツアーを敢行。海外での人気と知名度も獲得する。結成20周年を迎えた2009年9月には初の日本武道館公演を行い、大成功を収めた。キャリアを重ねるごとに勢いと力強さを増し、今や日本のロックシーンには欠かせないバンドとしてリスペクトされている。2012年1月18日に通算18枚目のオリジナルアルバム「トライアル」をリリース。