ナタリー PowerPush - 椎名林檎

ヒャダインとの対談&単独インタビューで明かす 「逆輸入」から「NIPPON」まで

椎名林檎単独インタビュー

「逆輸入 ~港湾局~」は、一言で言えば豪華けんらんな、もっと噛み砕いて言えば“めちゃくちゃ派手”なアルバムだ。しかしそのサウンドから改めて見えてくるのは、デビュー当時から今日まで一貫して高いクオリティの楽曲を世に放ち続けてきた、椎名林檎という作家が持つ無二の才能と破格のスケールである。特集後半では、椎名への単独インタビューを掲載。ここで彼女は6月11日発売の最新シングル「NIPPON」についても存分に語っている。その発言の中には、今後の椎名を占ううえで重要なキーワードも含まれているので、じっくりと読み解いてほしい。

15周年の締めくくり

──それにしてもいい曲が並びましたね、セルフカバー集。

うれしい! ありがとうございます。面白アルバムです。

──今回こうしてセルフカバー集を作った経緯を聞かせてください。

ファンクラブの方々を中心に以前からお客様からのご要望が本当に多かったので、ライブのアンコールで人気の高い曲を演奏するような感覚で、15周年の締めくくりとしてご用意させていただきました。

──豪華なアレンジャー陣がそろいました。人選はどのように?

ヒャダイン先生との対談でもお話した通り、私が一方的にJ-POPを教わったような方々や、近年ご活躍の皆さまのお力をお借りしようと思って。私にとってのJ-POPの大半は、自分のデビュー以降、仕事の仕方を学ぼうと思って聴いたものが多かったです。そもそも提供曲とは、あくまで先様からのオーダーに応えてお渡しした唯一のものであり、一度は自分の手を離れた曲です。それを改めて歌うのですから、やはり私自身がドキドキするような何か新しい要素が欲しいなあと思いまして。

本業は作家業だと捉えています

──気が付いたんですが、今回の収録曲中でもっとも古いものは、広末涼子さんに提供した「プライベイト」で1998年。次がともさかりえさんに提供した「カプチーノ」で99年。つまり椎名さんは、ご自分が19歳でメジャーデビューした98年からすでにほかのアーティストへの楽曲提供を始めていた。これって当時でも今でもけっこう破格のことだと思うのですが。

恵まれていましたし、あの当時は、私自身全然間に合っていないと思っていました。そもそも作家業をはじめとする裏方業のほうが得意だと自覚しており、掛け側としてのコネクションが欲しくて上京したようなものでしたから。だから自演はあくまで楽曲のプレゼンテーションの場という感覚でした。当時からインタビューで「アルバムは作品のブックのようなもので」とか話していたと思うんですが。

──話してた。覚えてますよ。

だからカタログさえ数がそろったら、バンバンとオファーが舞い込んで作家・椎名は引く手あまたになっちゃうかも!みたいな壮大な夢も見ていたんですよ。ところがアイコン業のほうがどんどん忙しくなっちゃって、結局パンクしちゃって(笑)。依然として自分で歌っていて、しかも15周年を迎えるなんて、当時は想像もしていませんでした。今でも本業はやはり、日々こつこつと取り組んでいる作家業のほうだと認識していますよ。

──でも椎名さんに歌ってほしいという声は、ファン心理として至極真っ当でもあるわけで。

椎名林檎

そう言っていただけるのはありがたいことですが、作詞と歌唱はなんの勉強もしてこなかったので、お恥ずかしい限りです。しかし、今回は「プライベイト」「カプチーノ」など含め、はなはだ未熟な若書きの作品たちも、心配をよそに、先生方の適切な処方のおかげで楽しんで歌ってしまいました。

──では作家・椎名林檎が楽曲提供を行うにあたってのマナーとは?

その人のためのオーダメイドというか、オートクチュールでありたい。例えば普段、自分が好き好んで着る服であれば、入れる身体のことを誰よりもわかっているし、どんなクオリティであろうが、どんな肌着を着けようが、すべて自己責任下でいいですよね。ただ、ほかの方へ持っていくとなったら、インナーとか、もしかしたらストッキングだってご用意したほうがいいかもしれないし、靴だって特殊なものが必要かもしれない。やはりどうしても準備が要りますよね。だから常に自分なりに精一杯の支度をそろえて、最適なスタイリングをするよう努めています。

──以前、TOKIOの長瀬智也さんと会った際、彼が椎名さんのデモの秀逸さに感動したという話をされていました。同じような感想をPUFFYのお2人もインタビューで話していましたよ。

なんと。恐縮。その2組に楽曲提供をしていた頃は東京事変という自社ブランドが絶賛売り込み中だったので、「ぜひウチを使ってください!」っていう意気込みが勝っていたかも。「縫子もなにも、ブレーン全員連れていきます」みたいな(笑)。事変もまだ未熟な頃だったと思います。

セルフカバーアルバム「逆輸入 ~港湾局~」 / 2014年5月27日発売 / Virgin Music
初回限定盤 [CD] / 3780円 / TYCT-69017 / ケース付きハードカバー・ブック仕様
通常盤 [CD] / 3240円 / TYCT-60035
収録曲
  1. 主演の女 / PUFFY[編曲:大友良英]
  2. 渦中の男 / TOKIO[編曲:上田剛士(AA=)]
  3. プライベイト / 広末涼子[編曲:前山田健一]
  4. 青春の瞬き / 栗山千明[編曲:冨田恵一]
  5. 真夏の脱獄者 / SMAP[編曲:大沢伸一]
  6. 望遠鏡の外の景色 / 野田秀樹[編曲:村田陽一]
  7. 決定的三分間 / 栗山千明[編曲:中山信彦]
  8. カプチーノ / ともさかりえ[編曲:小林武史]
  9. 雨傘 / TOKIO[編曲:根岸孝旨]
  10. 日和姫 / PUFFY[編曲:日高央]
  11. 幸先坂 / 真木よう子[編曲:佐藤芳明]
椎名林檎(シイナリンゴ)

椎名林檎

1978年生まれ、福岡県出身。1998年5月にシングル「幸福論」でメジャーデビュー。1999年に発表した1stアルバム「無罪モラトリアム」が160万枚、2000年リリースの2ndアルバム「勝訴ストリップ」が250万枚を超えるセールスを記録し、トップアーティストとしての地位を確立する。2004~2012年に東京事変のメンバーとしても活躍したほか、2007年公開の映画「さくらん」では音楽監督を務めるなど多角的に活躍。デビュー10周年を迎えた2008年11月には、さいたまスーパーアリーナにて3日間にわたる「(生)林檎博’0~10周年記念祭」を開催し大成功を収める。2009年3月には文化庁が主催する「平成20年度芸術選奨」大衆芸能部門の芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2013年11月はデビュー15周年を記念してコラボレーションベストアルバム「浮き名」とライブベストアルバム「蜜月抄」を発表。同月に東京・Bunkamuraオーチャードホールにて合計5日間にわたってデビュー15周年ライブを開催した。2014年には、自身が他アーティストへ提供してきた11曲をセルフカバーしたコンセプトアルバム「逆輸入 ~港湾局~」をリリース。全収録曲で異なるアレンジャーを起用したことも話題を集めている。6月11日にはNHKサッカー放送のために書き下ろした新曲「NIPPON」を発売する。