音楽ナタリー Power Push - さユり
野田洋次郎に見つけられた「フラレガイガール」
新宿での路上ライブで見えたこと
──ちなみに「アノニマス」のミュージックビデオは新宿で撮影しています。新宿という街のイメージとこの曲に通じ合うものを感じたりはしますか?
さっきこの特集のための写真を撮影したのも新宿駅の南口だったんですけど、そこはデビュー前に路上ライブをずっとやっていた場所なんですね。吉祥寺とか渋谷とか高円寺とか、ほかの場所でもやってたんですけど、新宿が一番いろんな人がうごめいている感じがしたんです。ホストだったり、サラリーマンだったり、お笑い芸人さんとか、小さい子供とかお母さんとか、いろんな人がいて。いろんな価値観、いろんな目的のために命が動いている。そういうことがものすごくワクワクするし、怖くもある。路上でライブをやっていた時代に、その刺激を受けていた部分もあると思います。
──路上ライブって、ちゃんとやろうとするとすごく大変なことですよね。単に歌うだけじゃなくて、自分に興味がない群衆に向き合わなくちゃいけない。
そうですね。でも、やりがいはすごくありました。「この人たちはどうやったら聴いてくれるだろう」「何を求めてるんだろう」って思いながら歌っていて。「今振り向いてくれた人は、どうして今、このときに振り向いてくれたんだろう?」とか考えたりしていました。そうやってライブを続ける中で「やっぱりみんな、いろんな価値観とか目的はあるにしろ、結局愛されたいだけなんだ」っていうのはすごく思いました。でも普段生きていて、なかなか「愛されたい」って言えないじゃないですか。
──「愛されたい」って言いながら新宿の雑踏を歩いてたら、ちょっとおかしな人ですもんね。
だからそういう声なき声みたいなものを、私があえて新宿で大声で歌うことで居場所になりたいって。そう思っていました。
──路上で歌うというのは、ある種の修業でもある。その体験がさユりさんの表現の根っこにあるものになっているのかもしれないと思いました。
そうですね。「今、目の前を通り過ぎていった人とはもう一生会わないだろうな」って思いながらライブをやるわけで。そのときに「一瞬一瞬が勝負なんだ」っていう感覚になりました。路上というのは、全力でやって初めて振り返ってもらえる場所なんだなと。
──これは僕の推測なんですが、やっぱり音楽ってコミュニケーションそのものだと思うんです。だから、それを通してだったら本気で人に何かを訴えかけたり、その反響を受け取ったりすることができる。普通の友達との会話よりも、100%でコミュニケーションできる。さユりさんにとって、音楽ってそういうツールなんじゃないかと思ったりするんですけど、そういう感覚はあったりしますか?
ありますね。子供の頃から本当に他人とコミュニケーションが取れなかったので。もうゼロを通り越してマイナスくらい、人と話せないというか、どう接したらいいかわからなかった。そこに音楽があったからっていうよりは、コミュニケーションツールとして、音楽にすがるようにギターを持ったような気がします。
──だからこそ音楽を通して人とのコミュニケーションも深まっていった。
考えてみたら、中学生のときも週1、2日くらいの登校だったし、高校も途中から行かなくなって。普通の学生より人と一緒にいる経験が少なかった反動で、人に会ってみたくなったのかもしれないですね。路上で直接いろんな人と話してみたいという。
人とつながりたい
──先日のワンマンライブ(「夜明けのパラレル実験室 in新宿~ここに宣戦布告編~」)を拝見しましたが、演出もかなり独特のものでした。さユりさん自身の姿と、透過スクリーンに映された文字や映像の両方が立体的に見えるというもので。手応えはありましたか?
お客さんのほうを見ると、「全体を観てくれているな」っていうのはすごく伝わりました。私がいて、14歳の「さゆり」がいて、謎のキャラクターとしての「サゆり」がいて。そういうストーリーが繰り広げられていく中で、お客さんも自分の内面と向き合っている感覚なのかなって思いました。映像があることで、考える余白ができる感じもあるのかもしれないですね。
──客席から見ていると、「2.5次元パラレルシンガーソングライター」というキャッチコピーの通り、ファンタジーとリアルが半分ずつ重なり合っている感じがありました。
すごいですよね、映像がキレイで。私が音楽を始めたくらいの頃は、ニコニコ動画が全盛期で、私もすごく観ていたし憧れていたんです。ネットを中心に活動をしている人にもすごく憧れがあったんですけど、自分はうまくいかなくて。「私は向いてないんだ、2次元には受け入れてもらえないんだ」っていう思いがあったりもしたんです。で、今は3次元の世界で歌っていて、でも、2次元の世界も取り入れているからか、どっちにもいるしどっちにもいないみたいな、狭間にいる感じがある。それはライブの演出でも表現されていると思います。
──以前「カゲロウプロジェクト」のじんさんにお話を聞いたことがあるんですけれど、じんさんも中学生のときに学校に行けなかった時期があって。そういう14歳の自分を救うような音楽を表現者として作り続けていると言っていたんですね。そういう心意気は、さユりさんにも通じるような感覚があります。
そうですね。14歳くらいの頃の自分を救ってあげたいという思いはあります。ライブでは「ミカヅキ」の間奏で、14歳の自分の「さゆり」がギターをがむしゃらに弾いてる映像に合わせて、ステージの私もギターを弾いているんです。そこには、時空を超えて何かがつながればいいなっていう思いがあって。あとは、最近14歳くらいの子たちがライブを観に来てくれるようになったんです。きっと14歳の頃の自分と同じような気持ちを抱いてるから来てくれるんだろうなって思うので、その子たちに向けて演奏したいという思いもありますね。
──わかりました。では最後の質問です。さユりさんがこの先の活動や作品で目指しているもの、向かっている場所は?
今まで私は何かと理由を求めてきて……例えば生きてる理由とか、今日ライブをする理由とか、そういうものがいちいちないと行動できない人間だったんです。でも最近自分の中に変化があって、自分の中だけで生きる理由を完結するのはすごく傲慢だなって思うようになったんですね。最近はわからないこと、できないことがあったりするからこそ、生きている理由を人に託そうって思えるようになった。今はそうやって「自分にはこれがない」ということを発信して、誰かとつながれたらいいなっていう思いがすごくあります。今回の「フラレガイガール」における野田さんとの出会いも、1人で活動していたら絶対にあり得なかった出会いで。自分が足りないところがあったからこそ出会えたものだと思うんです。だから「こうなりたい」というのはないですけど、つながっていきたいです。まだ自分の知らない面白いものとつながって、新しいものを作れたらいいなと思います。
- ニューシングル「フラレガイガール」 / 2016年12月7日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤A [CD+DVD] BVCL-763~4 1600円
- 初回限定盤B [CD+DVD] BVCL-765~6 1600円
- 通常盤 [CD] BVCL-767 1000円
初回限定盤A CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- プルースト -弾き語りver-
- ルラ
初回限定盤A DVD収録内容
- 渋谷WWWワンマンライブ「ミカヅキの航海」 ライブダイジェスト映像(2016/4/23)
初回限定盤B CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- ニーチェと君 -弾き語りver-
初回限定盤B DVD収録内容
- アノニマスMV(フルレングスver.)
通常盤 CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- アノニマス -酸欠remix-
さユり
福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる新曲「フラレガイガール」をリリースする。