音楽ナタリー Power Push - さユり
野田洋次郎に見つけられた「フラレガイガール」
「フラレガイガール」の第一印象は“濃い”
──「フラレガイガール」というタイトルは最初からあったんですか?
ありました。最初に歌詞を渡されて「聴いてみましょう」というときに、まず目に止まったのが「フラレガイガール」という言葉でした。
──歌詞の印象はどうでした?
「濃いな」と思いました。女の子がやるせない気持ちをぶつける曲で。最初は途中までしか歌詞がなかったんですけど、「どう“フラレガイ”があるんだろう」ってワクワクするような感じで。サビで「フッてんじゃないよバカ」って言ってるうちに、自分の言葉に支えられて強くなっていくような印象がありました。
──「最初の歌詞は途中までしかなかった」ということですけれど、そこから共同作業のようなものがあったりしたんですか?
共同作業というわけではないんですけれど、その後、全部できあがったところから少し変えていただいたんです。最初は、ちょっと愛おしい気持ちで終わる感じの終わり方だったんですけど、「フラレガイガール」という言葉の印象が私の中ですごく強烈だったので、せっかくだったらもっと“フラレガイ”のある感じにしたい、もうちょっと前向きなテイストを入れたいというリクエストをして。そういうやり取りはしました。
──歌詞の最後の部分はすごく印象的ですよね。「次の涙も溜まった頃よ」と、失恋を振り切ったような言葉で終わっている。
面白いですよね。「涙は流し切った」という表現をするのが普通だと思うんですけれど、「涙が溜まった」という。そこが、弱さを強さに変える感じがして、すごく気に入っています。
歌詞とメロディの親和性がすごい
──歌っていて、「フラレガイガール」という曲の主人公とさユりさん自身で重なり合うようなところはありましたか?
自分もフラれたことがあるし、共感もあったんですけど、フラレガイガールのストーリーなので、その中に潜っていくような感覚で歌いました。
──野田さんならではの歌詞の書き方や言葉の使い方で、特に印象的だった部分はありますか?
一番すごいなと思ったのは、言葉とメロディの親和性ですね。「まずい まずい」「ダサい ダサい」のところとか、しゃべるくらいの感じで歌えるんです。そうすると、自然と感情があふれてくる感じになって。そこはさすがだなと思いました。それに、話が時系列順に進んでいくんです。歌の登場人物は最初は弱かったけど、心の揺らぎがあって、最後に「私は行くね」って強い思いを見せる。そういうストーリーの紡ぎ方が、繊細で素敵だなって思います。
信じられるものを探してたんだ
──カップリングの「アノニマス」はさユりさん自身の作詞作曲による曲ですよね。これはどういうモチーフから作り始めたんでしょう?
私は今まで、俯瞰して生きているような気持ちで当事者になれない、どこにいても自分の居場所がないという感覚があった。疎外感っていうか、どこにいても楽しめない感覚がすごくあった。それを拭うために、いつも物事の当事者でいたいという思いが強くあったんです。で、今の世の中を見ると、例えばインターネット上とかで無責任に言葉を投げかける人がいたりして……物事の当事者を傷付ける人が多いから、みんな当事者になりたがらなくなってるかなって。それってすごく窮屈だなと思ったんです。当事者でありたい、生きている実感がほしい、そういう思いからこの曲を書きました。
──「アノニマス」は「匿名」という意味の言葉ですよね。
匿名性の強い世の中、時代の中で、自分はどうしたいんだろうと思いながら作った曲なので、そういう社会と自分のありかたの中で、タイトルも「アノニマス」にしました。
──歌詞には「俯瞰中毒」という歌詞の言葉もあります。これはさユりさん自身の感覚かもしれないし、インターネット上の人たちを言い表す言葉かもしれない。そのへんってどうでしょう?
最初に書いたあとに「あ、みんなもきっとそうかな?」って思ったんです。普段生活をする中で、自分は誰ともつながってないように感じることが多くて、それでインターネットを見て、誰かのストーリーに入ろうとする。そういうことを「俯瞰中毒」って言っていて。
──「アノニマス」の歌詞の最後は「今 届いているのなら、応答してよ」となっています。これも「フラレガイガール」と同じで強い言葉で終わっていますよね。そういうふうに、歌詞の中で何かの結論にたどり着くということを大事にされているんじゃないかと思ったんですが。
確かにそうですね。私は曲を書きながら結論を見つけることが多いんです。最初に曲ができたときは、漠然と「私は俯瞰中毒です」ということだけを言っている内容だったんです。でもそれからちょっと時間を置いて、もう1回この曲を書いてみようと思ったときに「なんで俯瞰中毒なんだろう?」って思って。情報が蔓延していて価値観が分散する中で、信じられるものを探してたんだって書きながらようやく見つけられた。それで仕上げていったんです。
──きっと、さユりさん自身「この違和感ってなんだろう」とか「この自分の中にあるモヤモヤってなんだろう」と自分と向き合って曲を作り続けてきたから、そういう作り方になっているんじゃないかと思います。
一番大きいのは「知りたい」という気持ちなんです。何が好きとか何が嫌いとかって、ひと言で言い表すことは難しかったりすることが多いんですね。「これ好き?」って聞かれても「好きだし嫌い」みたいなことが多くて。でも、知りたいってことだけは明確にある。そういう思いで歌詞や曲を書いたり歌ったりしてますね。ライブのときも「人のことを知りたい」って思いで歌ってます。
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- ニューシングル「フラレガイガール」 / 2016年12月7日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤A [CD+DVD] BVCL-763~4 1600円
- 初回限定盤B [CD+DVD] BVCL-765~6 1600円
- 通常盤 [CD] BVCL-767 1000円
初回限定盤A CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- プルースト -弾き語りver-
- ルラ
初回限定盤A DVD収録内容
- 渋谷WWWワンマンライブ「ミカヅキの航海」 ライブダイジェスト映像(2016/4/23)
初回限定盤B CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- ニーチェと君 -弾き語りver-
初回限定盤B DVD収録内容
- アノニマスMV(フルレングスver.)
通常盤 CD収録曲
- フラレガイガール
- アノニマス
- アノニマス -酸欠remix-
さユり
福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる新曲「フラレガイガール」をリリースする。