さユり「航海の唄」特集|さユり×「僕のヒーローアカデミア」監督・向井雅浩×エンディング映像演出・小田嶋瞳

さユりが11月27日にニューシングル「航海の唄」をリリースした。

このシングルの表題曲は、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第4期のエンディグテーマとして書き下ろされた楽曲で、力強くストレートなサウンドに乗せて、「強さは要らない 何も持って無くていい 信じるそれだけでいい」という決然とした意志が歌われている。音楽ナタリーでは、さユりと「僕のヒーローアカデミア」第4期の監督である向井雅浩、そしてエンディング映像の作画を手がける小田嶋瞳の3人による鼎談を企画。「航海の唄」と「僕のヒーローアカデミア」がどのようにシンクロしているのか、たっぷりと語り合ってもらった。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 星野耕作

テレビ番組として「これで勝った!」

──向井監督と小田嶋さんはさユりさんに対してどのような印象を持たれていましたか?

向井雅浩 恥ずかしながら、さユりさんのお名前とこれまで手がけられてきたアニメ主題歌については知っていたのですが、逆にいうとそこ止まりの知識でして。なので、さユりさんが「僕のヒーローアカデミア」第4期のエンディングを担当してくださると聞いてから、アルバム「ミカヅキの航海」を買いに行きました。

さユり ありがとうございます(笑)。

向井 で、家に帰ってアルバムを聴いている最中ずっと「かっけー!」と心の中で言っていましたね。

小田嶋瞳 私もさユりさんについて知っていることは向井さんとそう変わらなかったんですけど、最初に「航海の唄」のデモを聴かせていただいたときに「すごく作品を大切にしてくださる方だな」と感じたんですよ。なので「この歌のイメージを大切にしたい」と思って、エンディング映像の演出と作画が終わるまでは過去の曲を聴かないでおこうと。

左から向井雅浩、さユり、小田嶋瞳。

向井 あえて情報を遮断してね。

小田嶋 はい。でも作業が終わったあとに私もアルバムを買って聴いたりMVや路上ライブの動画を観たりして、向井さんと同じく「カッコいい!」と感動してました。

さユり 私はもともと「ヒロアカ」の原作を好きで楽しく読ませてもらっていて、やっぱり主人公のデク(緑谷出久)が“無個性”の、何も持っていないキャラクターだったというのが一番の惹かれるポイントで。だからこの「航海の唄」は第4期のエンディングテーマではあるけれど、この4期だけに限らず、いちファンとして「ヒロアカ」という作品に通底する登場人物たちの勇敢な精神みたいなものを音で表現したくて、その音に合う言葉を付けるようなイメージで作っていきました。

向井 「航海の唄」は、自分ががんばるというよりは“がんばる君の背中を押す”感じの力強さがすごく印象的でした。「ヒロアカ」のエンディングテーマとしても申し分ないですし、シンプルにいい曲なのでデモを聴き終わった瞬間にテレビ番組として「これで勝った!」と(笑)。

小田嶋 今までの「ヒロアカ」のエンディングは、普段の学生生活みたいなものをモチーフにした明るめの曲が多かったんですよね。でも「航海の唄」はシリアスで、切なさみたいなものが感じられて。それでいて歌詞を追っていくとデクや(通形)ミリオの顔がよぎったり、今回アニメ化されるヒーローインターン編のシーンが次々と浮かんできたりして、初めて聴いたとき鳥肌が立ったのを覚えています。

一番大事にしているメッセージ

さユり

さユり 「航海の唄」で表現したかったのは、“信じる静けさ”とでも言うべきもので。「ヒロアカ」の登場人物たちは個性も戦い方も戦う理由もみんなそれぞれ違うけど、それを誰かと比べて優劣を付けたりせずに、ただ自分の個性を生かす方法を考えることで活路を見出していく。単に力が強いからカッコいいんじゃなくて、ひたむきに信じて戦う姿にグッとくるんです。それがサビの「強さは要らない 何も持って無くていい 信じるそれだけでいい」という、私が一番大事にしてるメッセージに通じているんだと思います。

──ちなみに、さユりさんは先ほどデクに惹かれるとおっしゃいましたが、ほかに好きなキャラクターはいるんですか?

さユり 個人的に(蛙吹)梅雨ちゃんが……なんか見た目とかが自分に似てるような気がして好きです(笑)。でも、エピソードごとにいろんなキャラクターに共感してしまうというか、さっき言いましたけど、何も持っていなかったデクが個性を授けられて変わっていくという部分にも共感できるし、一方で個性を持っていてもその性質に思うところがある心操(人使)くんというキャラクターにも共感できて。だから「航海の唄」も特定のキャラクターの目線で書いてはいないし、聴いてくれた人が「ここはあのキャラクターの気持ちを歌っているのかな?」みたいに想像してくれたらうれしいです。

向井 「航海の唄」は第4期のエンディングとしてばっちりハマっているんですけど、先ほどさユりさんもおっしゃった通り、きっと1~3期のどこでかかっても違和感がないと思うんですよね。なんなら第1期の第1話のエンディングとして聴いても泣ける。そういう歌に仕上げてくださって感謝しかないし、アニメを作る側としても気合が入りました。