ナタリー PowerPush - サカナクション
山口一郎語る「裏と表」「バンドの旬」
アルバム10枚出して100万枚売る
──自分たちはマジョリティになれるバンドだと思ってますか?
ぜんぜん思ってない。100万枚とか80万枚とか売ろうと思ってないし。アルバム10枚出して、合計で100万枚売れたらやった!って思う。その10枚のアルバムだけじゃなくて、シングルやDVD、配信も含めて100万枚売れたほうが、シーンに何か残したような気がする。
──なぜです?
だってアルバム10枚出すのに10年はかかるでしょ? コンスタントに結果を出し続けていくっていうのは、一定の間隔の中で影響を与え続けられたってことだから。短期間でパッと盛り上がって消えていくんじゃなくてね。それが僕が一番望んでることだし、“自由”だと思う。
──息長くシーンに存在し続ける。
あと、変化し続けるってこと。同じことを繰り返すと摩耗するし、自分たちも飽きてくるし、歪みが生まれてくる。そうやって消えていったバンドもいっぱい知ってるし、そうはなりたくない。リスナーと一緒に成長していきたいというかね。そういう感覚を持ってやれてると、息長くやっていける気がする。
──さっき言ってたラジオでテクノの聴き方を指南するのは、その姿勢の表れってことですか。
自分が知ってる方法や聴き方を伝えたいし、いろんな音楽があって、僕はこういう聴き方をするし、これがわかるとこれが聴けるんじゃないかなって提案。(音楽を聴く)ルートを示すというかね。僕らの音楽を聴いたことで、次どんな音楽を聴くようになるのか。その先にクラブミュージックがあったらいいなって思うんです。日本のJ-POPのバンドを聴いて、次にクラブミュージックに手を伸ばせそうなバンドって今いない気がするから。だからそういうバンドになりたいですね。
──つまり自分たちだけ売れればいい、自分たちだけよければいいってわけじゃないと。その先にリスナーをどう導いていくかというのが、サカナクションの姿勢なんですね。
そんなに上から目線ではないかもしれないけど(笑)。もっと遊びたい感じ。テレビに出たりすることもそのためのひとつです。すっごいイヤだけど……。
──あ、そうですか。
何回出てもイヤ。
──前のインタビューで、テレビに出る意義をとうとうと語っていたのに(笑)。
テレビには出たくないけど、自分たちはなんでそういうことをするのかって自問自答する感じもある。そこでたくさんの人に知ってもらいたいんですよ。そこから入ってきた人と、どういう音楽の聴き方があるのか一緒に考えたいんですよ。遊びたいんです。
──いろんな音楽の楽しみ方を知ってもらえれば、自分たちの音楽を理解してくれる人も増えるだろうと。
バンドってものの性質も知ってもらえるだろしね。人間ってものが集まって、切磋琢磨して……。僕らが北海道から出てきて音楽を作ってるんだってことが伝わることで、バンドの面白さをみんなに知ってもらえるだろうし、偽物もわかると思うんです。
みんな成長してるから任せられる
──そういう意味でも、本作はかなり手応えがあるんじゃないですか?
あるんだけど、思ったより評価が割れてる。音楽雑誌とか音専誌の評価が意外と低い。ファッション誌とか大衆誌は高い。ファッション誌の人はとにかくノリノリ。「攻めましたね」って言ってくれる。音楽誌の人は、シングルっぽい曲がズラリと並んでるような“表”のアルバムで発信してほしかったのかなって思った。逆にファッション誌の人のほうが今のシーンに飽き飽きしてて、そうじゃないものがあってほしい、って思ってるのかなと。自分が思ってた評価と逆でしたね。だから小野島さんがどう思ったのかドキドキしてて。
──「INORI」を1曲目に持ってきた時点で成功だと思いますよ。
でも(音楽誌の人は)わかんないんですよ。だって「INORI」に触れない人もいるんですよ。このアルバムはまずそこでしょ? なのに「Aoi」すごいですね、って。
──なるほど。
実は「INORI」はちょっとテンポが速いんですよ。「ミュージック」につなげなきゃいけないから。
──ああ、なるほど。前半は1曲目の流れでダンスっぽい曲が続いて、「映画」以降はディープに潜っていく流れになるけど、それは意識的なものですか?
そうなっちゃった。シングルが「ミュージック」と「夜の踊り子」と「僕と花」だったから、前半でBPM的に「ミュージック」と「夜の踊り子」を置かなきゃいけなかったし、後半はやっぱり「僕と花」をどこに入れるか迷ったし。僕は正直言うと、「intro」「INORI」「ミュージック」「ストラクチャー」「朝の歌」以外の並びは決めてなくて。その間はメンバーに決めてもらった。でも自分が思い描いてた曲順とほぼ変わらなかった。僕のは「僕と花」が「mellow」の次だったけど。でも、後半の部分っていうのはどうしてもそうならざるを得なかった。
──ラストの「朝の歌」はすごくいい曲ですね。
大好きなんですよ。この曲は今までになく音を減らしましたね。ギターもアコギだけだし、もっち(岩寺基晴)はずっとシェイカー。
──山口くんはわりと音を詰め込むほうだもんね。作り込んでいっちゃう。
スタジオでやるとそうなるんですよ。物足りなくなっちゃう。いつも聴いてる環境と違うから、派手にしなきゃ派手にしなきゃって。音数が少ないと不安になっちゃう。でも家で普段そんな音を詰め込んだ音楽を聴かないですからね。家ならすぐ比較できるし、いらないって判断できる。理想に近付けるにはどんな音にすればいいか、すぐ相談できるし。耳が悪くなってから、スピーカーが変わったり、環境が変わると、まったくわかんなくなるんです。だから家でレコーディングしたかったのもそれが理由で。マスタリングもミックスもみんな(メンバーとエンジニア)に丸投げした。「ストラクチャー」とか部分的にはやったけど、わかんないです、もう。ほとんど右(の耳)は聞こえない。でも、そのぶんみんな成長してるから任せられる。
- ニューアルバム「sakanaction」/ 2013年3月13日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 Blu-ray [CD+Blu-ray] 3990円 / VIZL-519
- 初回限定盤 DVD [CD+DVD] 3780円 / VIZL-520
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
- 通常盤[CD] 3000円 / VICL-63999
iTunes Storeにて配信中!
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CD収録曲
- intro
- INORI
- ミュージック
- 夜の踊り子
- なんてったって春
- アルデバラン
- M
- Aoi
- ボイル
- 映画
- 僕と花
- mellow
- ストラクチャー
- 朝の歌
- 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Ks_Remix)
※15曲目は初回生産限定盤のみ収録。
初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
- version21.1 fourth(DocumentaRy)
- TOKYO FM & JFN present EARTH×HEART LIVE 2012(アルクアラウンド)
- SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE(OPENING / Klee / フクロウ / ホーリーダンス / インナーワールド / サンプル)
- SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2012(アイデンティティ / ルーキー)
- 僕と花 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- 夜の踊り子 ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
- ミュージック ビデオクリップ(Blu-rayのみ収録)
サカナクション
山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年は「僕と花」「夜の踊り子」という2枚のシングルを発表。2013年3月に約1年半ぶりとなるアルバム「sakanaction」をリリースした。