ナタリー PowerPush - サカナクション

初ドラマ主題歌で得た新手法 2012年第1弾シングル「僕と花」

サカナクションのニューシングル「僕と花」がリリースされる。関西テレビ・フジテレビ系ドラマ「37歳で医者になった僕~研修医純情物語~」の主題歌として既にオンエアされているこの曲は、ドラマ主題歌という新しいステージの中で、かつてなく山口一郎の「歌」にフォーカスした作品だ。さらにカップリングとして、カラフルでサイケデリックな広がりを感じさせる「ネプトゥーヌス」、そして「ルーキー」の石野卓球リミックスを収録。サカナクションの現在形とこれからの方向性を端的に示したものとなっている。 今回ナタリーではフロントマンの山口一郎にインタビューを実施。「僕と花」がいかにして生まれたのかたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 佐藤類

なるべく早く動きたかった

──サカナクションは常に動いている印象があるのでそんな気もしませんが、今回のニューシングルはアルバム「DocumentaLy」以来、8カ月ぶりの音源になるんですね。

インタビュー写真

そうですね。実は新曲の制作は「DocumentaLy」ツアーの最中から始まっていて。その前に「モード学園」のCM曲(現在オンエア中)のお話が来てて、その楽曲制作が去年からずっと進んでたんです。その曲が先にシングルで出る予定だったんですけど、今回ドラマの話が急遽入ってきて、リリースの順序が逆になった。だから「僕と花」の制作期間は本当に短かったですね。なので間が空いたとは言ってもずっと作ってはいたんです。小野島さんが雑誌「MUSICA」の「DocumentaLy」のレビューで、「すぐ次を聴きたい」と書いてくれたでしょう。だから、すぐ作らなきゃ!と思ってたんですけど(笑)、でもその感覚は僕の中にもあって。だから早めに動いてました。

──なぜ、すぐ次を作りたかったんですか?

2011年という年にアルバムを出すってことは、大げさな言い方をすると、日本のロックバンドとしては、特別な意味があると思ってたんですよ。3月に東日本大震災があって「音楽で復興しよう」という動きがあって、そこに乗っかって音楽を作っていくのではなくて、「音楽“の”復興」というのが僕にとってテーマとしてあったんですね。「音楽“で”復興」って、なんだかすごくおこがましい気がしてて。震災以前から劣化しつつあった日本の音楽シーンに対していろいろ考えていたんですけど、震災以降にその目的がさらにはっきりしたんです。あの1年の中で感じたことを、「DocumentaLy」ってアルバムで「がんばろう」とか「背中を押そう」とかじゃなくて、ただリアルに曲にするのが「音楽の復興」につながるんじゃないかと思って作ったんです。2012年というのは、その次の一歩じゃないですか。そこを空白にはしたくないと思ったし、なるべく早くアクションするのが僕ららしくもあるし、言ってきたことややってきたことへの証明になると思ったんです。

──「日本の音楽シーンの劣化」とは、どういうことでしょうか。

「音楽シーン」というと大げさな言い方になりますけど、バンドシーンってものが、セールスを始め衰退しているような気がしてて。その要因はいろいろあると思うんですけど、1990年代から2000年代にかけてバンドってものが表に出ないのが、ひとつの美学になってたような気がしてて。表、つまりメディアに出ないっていうのがカッコイイという風潮があった気がするんです。バンドの指向とメディアのやり方が乖離してたから仕方ないし、現実的にそうならざるをえなかったことは事実だけど、僕はそこがバンドシーンの衰退につながっているような気がするんです。今はソーシャルメディア、例えばTwitterだったりUstreamだったりが、バンドの内情やリアルな日常を伝えられる時代になったからこそ、逆に表に出ていくべきだと思ってて。

テレビは普段届かない場所に届けられる

──山口くんの言う「メディア」って、テレビとかを指してる?

そうそう。前回「ミュージックステーション」に出たとき、面白かったんですよ。出たってことも面白かったし、周りの反応も良かったし。その理由も検証したけど、テレビを見たあとにYouTubeに行くんですね、みんな。そこでこのバンドはどういうミュージシャンなのかって情報をすぐ手に入れられるようになってる。逆にミュージシャンは、お客さんが「Mステ」を観たときの反応をTwitterなんかで即座に知ることができる。そのリアルタイム性も現代っぽいなと思ったんです。だから1990年代~2000年代に表に出ないのを美学にしていたバンドの手法を踏襲しても、それ以上の効果は得られないと思ったし、今の時代っぽくないなと考えて。だったら今あるツールを利用して表に出ること、それ自体が表現としてアリだなと思ったんです。僕がいつも言う「戦略すら表現」って部分に転化できるんじゃないかと。

──テレビメディアの限界って以前から指摘されてますよね。誰も観てないとか、影響力ないとか。山口くんはそうは思わない?

思わない。UstreamやTwitterみたいな自分たちが主に利用してきたメディアに対して、圧倒的にリアルタイム性、無作為性を持ってるのは、テレビだと思う。あれは僕らが届かない、普段投げることができない場所に届いてるんですよ。

ニューシングル「僕と花」 / 2012年5月30日発売 / 1200円(税込) / Victor Entertainment / VICL-36705 / レコチョクshoppingへ

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CD収録曲
  1. 僕と花
  2. ネプトゥーヌス
  3. ルーキー(Takkyu Ishino Remix)

※初回プレス分のみ20ページブックレットが付属。通常形態のブックレットは8ページ。

「僕と花」
関西テレビ・フジテレビ系ドラマ「37歳で医者になった僕 ~研修医純情物語~」主題歌

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サカナクション(さかなくしょん)

山口一郎(Vo, G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組バンド。2005年より札幌で活動開始。ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集め、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出場を果たす。2007年5月にBabeStarレーベル(現:FlyingStar Records)より1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアーを行い、同年夏には8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、同年10月に初の日本武道館公演を成功させる。2011年には5thアルバム「DocumentaLy」をリリースし、同作のレコ発ツアーの一環で初の幕張メッセ単独公演を実施。約2万人のオーディエンスを熱狂させた。2012年5月に初の書き下ろしドラマ主題歌を含むシングル「僕と花」を発表した。