ナタリー PowerPush - サカナクション
2010年代を貫く名盤「kikUUiki」誕生
「目が明く藍色」という曲がアルバムを語り尽くしている
──ではアルバムについてじっくり伺っていきたいんですが。まずアルバムタイトル「kikUUiki」の意味から聞かせてもらっていいですか?
淡水と海水が混ざり合う場所を汽水域っていうんですけど、その汽水の「水」を「空」に変えて「kikUUiki」。混ざり合わないものが混ざり合ってる場所。そこにサカナクションらしさみたいなものが生まれてきてるんじゃないかなっていうところから始まったんです。今までの作品は、なんとなく自分たちが好きなものってなんだろうっていうふうに作り始めていってたけど、それが何なのかわからなかった。今回はこの「kikUUiki」っていうキーワードを僕が生み出してから、全てのサカクションらしさみたいなものを「kikUUiki」っていう言葉で解決できるようになったんですよね。だからこのアルバムでは1曲1曲混ざり合わないものが混ざり合っていく。例えばジャンルだけじゃなくて言葉の使い方であったり、言葉とメロディだったり、そのメロディの時代性とサウンドの新しさであったりとか。
──なるほど。
そういう混ざり合わないものを混ぜていくっていうテーマで作っていったんですよね。そして、その全てを網羅して支えてる曲が「目が明く藍色」っていう1曲。これが1曲で「kikUUiki」を語り尽くしてるし、この曲がアルバムの最後のクライマックスにもなってるんです。
──確かにこの「目が明く藍色」はアルバムの鍵になる曲ですよね。1曲の中にいろんな要素が詰まっていて、混ざり合わないものが混ざって成立している。中盤のシンフォニックなコーラスパートは「ナイトフィッシングイズグッド」(2008年発表の2ndアルバム「NIGHT FISHING」に収録)を思わせるところもありますし。これは山口さんの中では自分のルーツを辿ったという感じですか? それとも新しいものに挑戦したという感じ?
古くならないことをやろうとした感じですかね。僕にとっての新しいものっていうのは、決して古くならないもののこと。で、この「目が明く藍色」っていう楽曲はまさにそれを目指していて、いつの時代に聴いても新しく感じるものにしたいと思って。いろんな音楽がこれからいっぱい生まれてきてどういうものが主流になっていくかわからないですけど、そういう中でも決して埋もれないもの。異質なものとして聴こえてくるしスタンダードとしても聴こえてくるもの。そういうものを作りたかったんです。
──壮大な目標ですね。これはいつ頃作った曲なんですか?
原曲は9年前からあったんですけどね。まだアマチュアのときからあって、それをもっとブラッシュアップさせて構成ももっと複雑にして、まあ複雑にしすぎて1回元に戻しましたけど(笑)。
──構成に関して言えばやはり中盤のコーラスの印象が強烈ですよね。最初からこのパートありきで作っていたんですか?
ありきですね。もう作った時点からありました。このパートは単純に言っちゃえば驚きがあるし、その曲への興味をそそる部分だし、実は言葉の面でも意味があったりするんですよ。歌詞の内容もここで大勢のコーラスが入ってくる意味がちゃんとあるんです。この「目が明く藍色」っていう曲は歌詞の中にいろんなギミックがあって、「kikUUiki」の「U」がなぜ大文字なのかっていうのも、実はこの曲の歌詞に隠されてたりするし。
──うーん、深読みのしがいがありますね(笑)。
「目が明く藍色」っていうタイトル自体不思議ですしね。でも曲に対して深読みすることってすごくアートなことでしょう。ポピュラリティがあるものを深読みして探っていって見えてくるものって、僕は怖さだったり暗さだったりする気がするんですね。相反するものが見えてくる気がする。ホラー映画とかもそうだと思うし。そういう、ポピュラリティを深読みして見えてくる恐怖みたいなものって、僕はひとつの表現だと思うし、飽きさせない、ずっと残っていくもののような気がするんです。なんか都市伝説とかってずっと残って伝えられていくでしょう。そういうのは面白いと思うし、人の心をくすぐる。そういうものがこの曲の中に実はいろいろ含まれていたりするんです。
サカナクション
山口一郎(Vo,G)、岩寺基晴(G)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)、草刈愛美(B)からなる5人組。2005年、札幌で活動開始。
ライブ活動を通して道内インディーズシーンで注目を集めた彼らは、2006年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2006 in EZO」の公募選出枠「RISING★STAR」に868組の中から選ばれ初出演。地元カレッジチャートのランキングに自主録音の「三日月サンセット」がチャートインしたほか、「白波トップウォーター」もラジオでオンエアされ、リスナーからの問い合わせが道内CDショップに相次ぐ。
そしてBabeStarレーベルより2007年5月に1stアルバム「GO TO THE FUTURE」、2008年1月に2ndアルバム「NIGHT FISHING」を発表。その後、初の全国ツアー(8カ所8公演)を行い、同年夏には新人最多となる8つの大型野外フェスに出演するなど、活発なライブ活動を展開する。2009年1月にVictor Records移籍後初のアルバム「シンシロ」をリリース。2010年3月に4thアルバム「kikUUiki」を発表し、4月から計15公演に及ぶ全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2010 kikUUiki」を実施。