「レコードの日」堀込泰行|大切な物を手に入れる喜びは変わらない

アナログレコードの魅力を伝えることを目的として、アナログレコードプレスメーカーの東洋化成が企画、Technicsが協賛するイベント「レコードの日」。開催3年目となる今年は全79のアナログ作品がこの祭典に合わせてリリースされ、イベント当日の11月3日は全国各地のレコード店が大にぎわいとなった。

音楽ナタリーでは今回、のんと共に「レコードの日」イメージキャラクターを務めた堀込泰行にインタビューを実施。東京は江東区有明にあるパナソニックセンター東京内Technics(テクニクス)リスニングルームで堀込とD.A.N.のコラボ曲「EYE」の7inch盤などを試聴しながら、レコードの思い出やその魅力について語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 花屋建昭

目立つ曲の方程式から外れたタイプの面白さ

──まずはアナログレコードとの最初の思い出について教えてもらえますか?

堀込泰行

父親がアナログレコードで音楽を聴いていたんですよね。ジャズ、カントリー、ハワイアン、あとはエルヴィス・プレスリーとか。The Beatles以前に若者が聴いていた軽音楽と言うのかな、そういう音楽がよく家でかかっていたんです。年頃になると兄がThe Beatles、The Rolling Stonesなどを聴き始めて、ロックの名盤と言われるレコードもある程度そろっていて。僕はまだ中学生でお小遣いもそんなになかったから、レンタルレコード屋で当時流行っていたWham!やVan Halenの新作なんかを借りて聴いていました。父親のコレクション、兄が持っていたレコード、自分で借りてきたものの3つのジャンルを一緒に聴いていた感じですね。「レコードの日」の取材で、レンタルレコードの話をしていいのかわからないですけど(笑)。

──1980年代末以降はCDが一般的になり、現在はサブスクリプションなども音楽の聴き方として主流になっていますが、堀込さんが考える「これはアナログレコードで聴きたい」という作品はどんなものでしょうか?

最初から最後まで通して聴きたいアルバムは、アナログレコードがいいですよね。CDやデータ音源の場合は好きな曲、聴きたい曲だけを選んだりしてDJみたいな感覚で楽しむことができますけど、アナログレコードはそれができないので。針を動かして好きな曲だけを聴くことも可能だけど、その作業って億劫じゃないですか。レコードの片面を最初から最後まで聴いていると、最初は「地味だな」と思っていた曲がだんだん好きになったりするんですよね。それは曲を飛ばしづらいという環境だから身に付いた感覚だと思うので。

──曲順の妙もありますからね。

そうですね。地味な曲があるからこそ、その次の派手な曲がさらによく聴こえるっていう。長くて退屈な曲が終わった瞬間、間髪入れずに始まる次の曲のイントロがめちゃくちゃカッコいい、とか(笑)。そういう経験を通して「派手でキャッチ―な曲だけがいいというわけではないんだな」ということに気付きました。レコードを聴く中で「目立つ曲の方程式から外れたタイプの曲にも面白いものがたくさんある」とわかったことは、今の自分にとっても大きいと思います。

コレクションをギュッと抱きしめるうれしさはなくならない

──堀込さんの音楽性にも影響している、と。

はい。「全部が全部、サビで気持ちを高ぶらせる必要はないんだな」とか「ノリがいいだけがすべてではない」とか。音楽が好きになっていくと「このまったりした感じがいいんだよ」「この地味さがたまらない」とか思ったりするじゃないですか。いい曲にもいろんな種類があるということを知っているかどうかで、作り手として出てくるものも違ってくると思うんです。それはアルバム全体に対しても言えますよね。「地味な曲ばかりだけど、通して聴いても全然飽きない」というレコードもあるし、「全部が濃厚で聴き終わったときにドッと疲れるけど、すごい大作だな」という作品もあるから。

──アナログレコードの音質についてはどうですか?

堀込泰行

これはアナログに限らない話ですけど、音楽を構成する要素として音質のよさや「音自体に楽しさがある」ということを重視する傾向が明らかに強まってると思うんです。いろいろなアーティストの新作を聴いていても、音質や音色でリスナーを惹き付けようとしている作品が多い気がするんですよね。楽曲のよさや歌詞、アレンジだけではなく、音そのものに魅力がある作品が増えているし、聴き手もそのことに気付いていて。それが新しい音楽の楽しみ方になっているし、今後はそういうことがより当たり前になっていく気がするんです。

──なるほど。

アナログレコードに関して言えば、音質だけではなくて、モノとしての楽しさがありますよね。レコードを取り出して、埃を取って、スプレーをかけて、ターンテーブルに乗せて、針を落として、っていう。人によっては雑誌や本をめくったり、タバコを吸ったり、コーヒーを飲んだりしながら、耳はしっかり音楽に集中していて。A面が終わったら雑誌やタバコを置いて、レコードをひっくり返して、またコーヒーを淹れ直したり。そういう一連の行動にはちょっと儀式めいたところがあると思うんですよ。それがレコードならではの楽しさやありがたみにつながっているし、最近アナログレコードに注目が集まっている理由の1つになってる気がします。

──音源をデータで所有することとのもっとも大きな違いですよね。

お気に入りのレコードだというTommy Conwell & The Young Rumblers「RUMBLE」を手にする堀込泰行。

パッケージされているモノのよさと言うか。いいジャケットは飾りたくなるし、大切な物を手に入れたという喜びを満たしてくれるメディアだと思うんです、レコードは。音楽を聴くだけだったらデータで十分ですけど、アイテムとして持ちたいという欲求だったり、棚の中にレコードの数が増えていくときの楽しさはずっと変わらないと思うので。「レコードの日」のポスターではのんちゃんが両手にたくさんレコードを抱えてますけど、ああいうときって「たくさん音楽を手に入れた」という実感があるんですよ。データに変換しちゃうとわずかな量だけど、それを実際の重さや感触で確かめられると言うのかな。コレクションをギュッと抱きしめることのうれしさはなくならないし、そういう欲求にレコードは応えてくれるんだと思います。

──特に十代、二十代のリスナーにとっては、アナログレコードが持つ「モノとしての楽しさ」が新鮮なのかも。

カセットテープがちょっと流行っていたりしますからね。僕らの世代が8mmビデオのアナログな画質に惹かれていたのと近い感覚があるのかな。

レコードの日
レコードの日

毎年11月3日に開催されるアナログレコードの祭典。アナログレコードの魅力を伝えることを目的として、アナログレコードプレスメーカーの東洋化成が主催、Technicsが協賛している。イベント当日は全国各地のレコード店でさまざまなイベントが行われるほか、この日のために用意された豊富なラインナップのアナログ作品が販売される。

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堀込泰行(ホリゴメヤスユキ)
1972年5月2日生まれ。1997年に兄・堀込高樹とのバンド・キリンジでデビューを果たす。2005年にはキリンジと並行してソロプロジェクト・馬の骨としての活動も行い、2013年4月のキリンジ脱退後は個人名義でのソロ活動を開始。2014年11月には配信シングル「ブランニュー・ソング」を発表した。2016年10月には個人名義による1stアルバム「One」をリリース。自身の作品のほか、ハナレグミ、安藤裕子、一青窈、畠山美由紀、Keyco、松たか子、南波志帆、鈴木亜美といったアーティストへの楽曲提供でもソングライターとして独自の個性を発揮している。2017年11月に発表する新作CD「GOOD VIBRATIONS」では□□□、D.A.N.、tofubeats、シャムキャッツ、WONKらとコラボレーションを果たした。