ナタリー PowerPush - Perfume Clips
関和亮が語るPV制作の裏側
Perfumeのビデオクリップ集「Perfume Clips」がDVDとBlu-rayで発売された。この作品にはメジャーデビュー曲「リニアモーターガール」から「スパイス」までの徳間ジャパンコミュニケーションズ在籍時のPVと、海外向けコンピ「Perfume Global Compilation "LOVE THE WORLD"」の初回限定盤DVDに収録された「FAKE IT」のPV、そして新たな映像「チョコレイト・ディスコ -Historical Live Act Version-」が収められる。
今回の特集では「Perfume Clips」収録映像のうち18曲のPVを監督した、映像作家の関和亮にインタビューを実施。彼が手がけた作品について1曲ずつ、制作エピソードや貴重な裏話などを語ってもらった。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 小坂茂雄
笑顔のアップを撮らないように意識した
──関さんがPerfumeの仕事に携わったのは2004年、インディーズ時代の「モノクロームエフェクト」のジャケットデザインが最初ですよね。
そうですね。まだインディーズではあったものの、アミューズさんが「これから売り出すぞ」という雰囲気になっていて、そのためのアートワーク担当として当時若手だった自分に白羽の矢が立って。
──今も使われ続けているロゴは、このときに関さんが作ったものなんですよね。1つの作品のアートワークを任せられたのって、それ以前にもあったんですか?
キャリアとしては本当に最初の頃でしたね。だから「僕でいいのかな?」みたいな気持ちもあったんですけど、まあせっかく声をかけてもらえたので、ダメって言われるまでがんばろうと思ってました(笑)。「女の子の3人組です」って紹介されたんで、最初は「超トンガって、カッコよくしようぜ」みたいなことは考えてなかったんですよ。だから今見ると当時って、わりとかわいいビジュアルで収まってるんですよね。ただ、「すでにいるアイドルと同じことをしてもダメだろう」っていうのはみんな思ってることでした。「誰が見てもキュート」みたいなことをしてても、その中から抜けるのはたぶん難しいんだろうなって。そういうことはしないようにしようっていう決め事は自分の中にありました。
──どこかレトロでかわいらしい雰囲気があったインディーズ時代のビジュアルから、メジャーデビューを機にアートディレクションの方向性がガラッと変わりましたよね。
メジャーデビューする際に「近未来型テクノポップユニット」みたいなキャッチフレーズが付いたので、それを言っておいて、すごくアクティブな女の子をやってもしょうがないなって(笑)。
──確かに(笑)。
だから「冷たくてクールなんだけど、どこかに人間らしさがある」みたいなイメージを考えていたんですが、ライブのMCでの彼女たちがすごく素朴で人間的だったので、僕たちが作る部分はクールにしなきゃって。特に決め事だったわけじゃないですが、CDジャケットでは笑わないようにしよう、ビデオでは笑顔のアップを撮らないようにしようというのは意識してました。Winkが昔そういうコンセプトでやってたじゃないですか。世代的にそのイメージがあったんですよね。僕が最初に買ったCDはWinkと爆風スランプだったので。
「リニアモーターガール」
──で、そうやってできたのが「リニアモーターガール」のPVですね。
これは「メトロポリス」みたいなイメージで、「彼女たちがこの街を作ってるんだ」とかそういうバックグラウンドを考えながらジャケットやビデオを作った記憶があります。「テクノポップをやってます」っていうのをわかりやすく伝えるのに、近未来的な空間とか架空の街を作れば説明がいらないというか。ひとコマ観たら「あ、テクノっぽい」みたいな(笑)。
──わかりやすいですよね。
アーティストが宇宙船の中で歌ってるとか、そういうビデオはそれまでもあったと思うけど、ここまでやり切って世界観を作りこんだものはなかったような気がするんですよね。一歩間違うとバカっぽく思われそうなことをマジでやってるので。サウンド的にもいわゆるアイドルソングとはまったく違う新しい感覚があったし、振り付けもロボットダンスっぽくて、すべてにおいて近未来っぽさを意識してるんです。普通は女の子が踊るとなると、すごく元気でアクティブなダンスになると思うんですけど、Perfumeはそういうのとは全然違う振り付けでしたからね。
「コンピューターシティ」
──そんなPerfumeの独特なダンスが、次の「コンピューターシティ」のPVではすごくフィーチャーされていますね。
この頃、周りのスタッフや社内の人間が、その存在も含めて彼女たちのことを面白がってくれたんです。「これ、ダンスが面白いね」って。僕は当時、ダンスに集中するよりもどうやって世界観を作り込むかしか考えてなくて、それを聞いて「はっ、そこを面白がってくれるんだ!」ってなって、「じゃあフィーチャーしないとね」みたいな感じで。前作は周りに絵をすごく描き込んでいたので、今度は逆に何もなしにしてみようかなと(笑)。まあ、今思うとよくそんな企画通ったなと思います。
──背景が真っ黒ですもんね(笑)。
確か「黒で撮ります」みたいなことしか言ってなかったと思うんですけど、それでよくやらせてくれたなって。今思うと女の子なのに黒一色ってひどいなと思うんですけどね(笑)。その頃「あえてシンプルな絵にして違うことで惹き付ける」っていう映像の流行があったので、そこに影響を受けてる部分もあります。
──グリッチっぽいエフェクトがまさにそれですね。
そうですね。ちょうど自分の中で、プログラムを組んで映像を生成するのがはやってたんです。映像の編集って1コマ1コマ作ったり、与えられたエフェクトをかけてレンダリングするというのが通常の流れなんですけど、そうじゃない作り方は何かないのかなって思ってて。当時ラップトップでエレクトロニカをやっているミュージシャンが、自分で入力した数値を映像にする試みをやってたんです。半野喜弘さんとかportable[k]ommunity、青木孝允くん、高木正勝くんとか。六本木ヒルズができる前にあったROPPONGI THINK ZONEってスペースでノイズ系ラップトップミュージックのイベントをやってて観に行ったりしてたので、それの影響もあると思います。
──プログラムを演出に活用する手法は、最近のPerfumeにつながっているようにも見えますね。
そういえば今スタッフとして一緒にやってる真鍋大度くんは、これを観て初めて「この子たちは面白い」みたいに思ってくれたらしいです。
「エレクトロ・ワールド」
──「エレクトロ・ワールド」で再びフルCGに戻した理由は?
この曲名で、ちっちゃい部屋の中で踊ってるわけにはいかないと思うんですよね(笑)。やっぱり「エレクトロなワールド」を作らないといけないんじゃないかなって単純に考えて。あと、「コンピューターシティ」みたいなことをもう1回やるっていうのがあんまり考えられなかったんです。それで最初に立ち返ってCGを駆使したものを作ることにしたんですけど、やるからにはやり切りたいなって思って、仲がよかったアニメのスタジオに相談したら、そのスタッフだけですごく盛り上がってしまって。プロデューサーとかも通さないで勝手に作り始めてしまい、やり切った結果怒られたっていう(笑)。
──あはは(笑)。
「おまえら何やってるんだ」みたいな話になっちゃって(笑)。もちろん「作りますよ」くらいは言ったと思うんですけど、内容までは伝えてなくて。絵コンテも一切描いてないですし。
──ええ! そうなんですか。
普通こういうビデオってざっくり作ったものを1回確認してもらって、OKが出てから本編集っていう流れなんですけど、その段取りをぶっ飛ばして最初から全部作っちゃったんですよ。で、「ちょっと観て」って言って3人を呼んだら、それ観てみんな感動して泣いちゃったんです。
──おおー。
映像がきれいで、ストーリーも切ない感じだったりして、自分たちのビデオをこんな感じにしてくれたっていう感動があったみたいで。
──確かにこの美しいCGを観ると、本人が感動するのもわかります。
CGは、その後も一緒にライブの映像とかを作ってくれてる小張泰洋くんというCGアーティストの力が大きいです。打ち合わせをしながら「あ、それいいね!やろう」とか言って、なんのお約束もなく作っていったので。僕の名前は監督としてクレジットされてますけど、ほとんどそのCGの連中が暴走して作っていったような気がしますね。僕はそれに「まあまあまあ」とか「もっとやれもっとやれ」とか言う役(笑)。
──CGムービーってそうやってできるもんなんですね。
本当はできないんですけどね(笑)。コンテを作って、企画書作って、「これを作るにはこれだけ時間と予算がかかって」みたいな話をし出すと、たくさんの労力とお金がかかっちゃうから。僕が若い頃って予算と時間をかけてPVを作ってた時代だったんですけど、それが長く続かないなっていうのはなんとなく思っていて、実際その後に予算がどんどん下がっていったんです。だから今は、あんまり多くの人の意見を取り入れずに、お約束みたいなものを取っ払ってスタッフやクリエイターが現場判断でどんどんやっていったほうがいい時代なんじゃないかなって思って。
──機材の性能が上がってそれができるようになったという背景もあるでしょうね。
それで時間が短縮されていったというのは絶対ありますね。そういう意味ではこの「Perfume Clips」は、ミュージックビデオの急激な成長とデジタルの機材の発展がよくわかる内容だと思います。
- Perfume「Perfume Clips」 / 2014年2月12日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- Perfume「Perfume Clips」初回限定盤ジャケット
- Blu-ray / 初回限定盤 [Blu-ray Disc 2枚組] / 6300円 / TKXA-1020
- DVD / 初回限定盤 [DVD 3枚組] / 5250円 / TKBA-1200
- Blu-ray / 通常盤 [Blu-ray Disc] / 4725円 / TKXA-1021
- DVD / 通常盤 [DVD 2枚組] / 3675円 / TKBA-1201
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収録内容
- リニアモーターガール
- コンピューターシティ
- エレクトロ・ワールド
- チョコレイト・ディスコ
- Twinkle Snow Powdery Snow
- ポリリズム
- Baby cruising Love
- マカロニ
- シークレットシークレット
- love the world
- Dream Fighter
- ワンルーム・ディスコ
- I still love U
- 不自然なガール
- ナチュラルに恋して
- VOICE
- ねぇ
- レーザービーム -FULL Ver.-
- GLITTER
- スパイス
- 微かなカオリ -TV Ver.-
- FAKE IT
- チョコレイト・ディスコ -Historical Live Act Version-
初回限定盤 特典DISC
- Perfume Clips 4倍速オーディオコメンタリー
- マカロニ -A-CHAN Version-
- マカロニ -KASHIYUKA Version-
- マカロニ -NOCCHI Version-
- I still love U -ネタばらしVersion-
- 微かなカオリ -縦型Version-
- TV-SPOT集(25種類)
関和亮(せきかずあき)
1976年生まれの映像作家。1998年より株式会社トリプル・オーに所属。2004年にPerfumeのシングル「モノクロームエフェクト」のジャケットを制作したことを皮切りに、PerfumeのPV監督やアートディレクションを手がけるようになる。その後、数多くのアーティストのビデオクリップ制作に携わり、2010年に公開されたサカナクション「アルクアラウンド」のPVは「第14回文化庁メディア芸術祭」のエンターテインメント部門優秀賞や「SPACE SHOWER Music Video Awards」のBEST VIDEO OF THE YEARを受賞。フォトグラファーやグラフィックデザイナーとしても活動し、NHK連続テレビ小説「おひさま」「ごちそうさん」のタイトルバックを手がけるなど幅広い活躍を見せている。
Perfume(ぱふゅーむ)
あ~ちゃん(西脇綾香)、かしゆか(樫野有香) 、のっち(大本彩乃)により2000年に広島で結成。2003年に活動拠点を東京に移してからは、プロデューサーにcapsuleの中田ヤスタカを迎え、インディーズレーベルで精力的に活動を開始。2005年にシングル「リニアモーターガール」でメジャーデビューを果たし、近未来的な世界観のサウンドとダンスで耳の肥えた音楽ファンの間でも高い評価を獲得する。2007年に「NHK環境・リサイクルキャンペーン」テレビCMに出演し、CMソング「ポリリズム」が大ヒット。テクノポップブームの火付け役となり、2008年には日本武道館、2010年には東京ドームでのワンマンライブを成功させる。2011年にはピクサー映画「カーズ2」の挿入歌&日本語吹き替え版エンディングテーマに、アメリカのスタッフによる指名で「ポリリズム」が抜擢。2012年にユニバーサルJに移籍してアルバム「JPN」のiTunes Store世界配信を実施し、同年4月に「キリンチューハイ 氷結」のCMソング「Spring of Life」のCDシングルをリリースする。10月にアジア4カ国で行われた初の海外ツアーは大成功のうち終了し、翌2013年にはヨーロッパ3カ国での単独公演を実施。フランス・カンヌで開催された世界最大の広告祭「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」に日本人アーティストとして初めてゲストとして招待され、プロジェクションマッピングを駆使したパフォーマンスで喝采を浴びる。同年10月にアルバム「LEVEL3」、11月にシングル「Sweet Refrain」をリリース。12月に東京ドーム、大阪・京セラドーム大阪にて計4日間の単独公演を成功させた。2014年2月には初のビデオクリップ集「Perfume Clips」をリリース。