音楽ナタリー Power Push - パスピエ

直球の次に放つは鋭い変化球

12月に初の日本武道館単独公演を控え、着実に人気を拡大させ続けているパスピエ。彼らから3カ月ぶりのニューシングル「裏の裏」が届いた。今回のインタビューでは、前作「トキノワ」との存在の比較から始まり、アニメ「境界のRINNE」とのタイアップによって得たもの、そして「裏の裏」でも歌われている“あの世”と“この世”の捉え方などを、成田ハネダ(Key)と大胡田なつき(Vo)に語ってもらった。

取材・文 / 宇野維正

「トキノワ」のような直球の次は鋭い変化球を

──今回の「裏の裏」は、現在絶好調のパスピエが、まさにフェスシーズンのど真ん中に送り出す、超アゲアゲのニューシングル。といった第一印象を抱きがちなんですけど、それだけじゃないだろうなと。

パスピエ

成田ハネダ(Key) そうですね(笑)。

──前作の「トキノワ」は、これまでのパスピエのポップな要素もアバンギャルドな要素も全部叩き込んで、それを絶妙なバランスで昇華させたような見事な曲で。ある種、1つの完成形だと思ったんですね。そこからすると、今回はその完成形を意図的に壊しにきたんじゃないかなって。

成田 僕の中で「トキノワ」はパスピエのポップな部分に焦点を当てた曲で、これまで作ってきた「パスピエのポップソング」の流れで、そのど真ん中のいい曲が作れたなってものだったんですね。ただ、基本的に僕らは変化球のバンドだっていう自覚があって。「トキノワ」のような直球を見せたからこそ、やっぱり次は鋭い変化球を投げたほうが効果的なんじゃないかなっていうのが頭の中のイメージとしてあって。それを形にしていったのが今回の「裏の裏」ですね。

──この曲の原型となるものは、けっこう前からあったと聞いているんですけど。

成田 そう。実は原型としてはデビュー前からあった曲で。ただ、それからの5、6年で僕とここにいる大胡田をはじめ、メンバー全員がバンドとしてどんどん鍛えられてきて、音楽的にも膨大なインプットをしてきたから。このタイミングで昔作った曲をリメイクするっていうのは、バンドとして自分たちの成長を知る上でもとても意味のあることだったんです。

大胡田なつき(Vo) 「トキノワ」は、多くの人に受け入れられたいという思いから生まれた、姿勢としてものすごく外を向いた曲だったと思うんですね。でも、今回の「裏の裏」はこれまでの自分たちというか、周りのことはもちろん気にしているんですけど、そこに重点を置いたものではないもの、それを声でも歌詞でもメロディでもサウンドでも出せたかなって。

──サウンド面で耳を引くのは、ベースラインにシンセのフレーズをユニゾンで重ねるという点で、これってある種のEDMの手法ですよね?

成田 はい。EDMへの目配りもそうだし、Passion Pitみたいなダンスミュージック寄りのバンドのサウンドからもモチーフを得ています。彼らの曲に、バンドで録音した音源をぶった切って、それをつないで作ったようなイントロの曲があって。

──あー、ありますね。なるほど。

成田 今の時代って、もう、ただバンドサウンドを鳴らしているってだけでは、なかなか遠くまで届かないなっていう認識があって。そこで、僕らなりにどんなことを付加していくことができるだろうかってことを考えているんです。僕らはバンドだし、バンドでしかできないことをやってるわけだけど、ライブじゃなくてCDだからこそできる音というのも発信していきたくて。レコーディングした素材をもとに、ある種のトラックメイキングみたいな発想で音を作ってみたのが今回の楽曲です。

──そっかそっか、実際に切り貼りして作っているんだ。

成田 ボーカルも、ところどころリバースで再生したものを重ねたりしていて。そういうトリック的な要素を散りばめてますね。

作品を出すってことはハードルをどんどん上げていくこと

──単純に流行りのモードを取り入れるっていうんじゃなくて、それをやるならとことん偏執的にやっていく。まさにパスピエらしい方法論ですね。

成田 曲ごとに音楽的なチャレンジは常にしていますね。音源をリリースした段階では、常に次のことを考えていて。「幕の内ISM」を出せたからこそ、「トキノワ」を出せたわけだし、「トキノワ」を出せたからこそ、「裏の裏」を出せたわけだし。

──そういう文脈は重要ですよね。実際に、「贅沢ないいわけ」「トキノワ」「裏の裏」というふうに、昨年の「幕の内ISM」以降にリリースされた作品における変化や進化をたどっていて思うのは、こうしてシングル単位でバンドに話を聞けるというのは、すごく幸福で、貴重なことになってきたなってことで。

成田 ああ。

──今やバンドって普通にはシングルを出しにくい状況で、実際にパスピエも大きなタイアップというのがその推進力になってはいると思うんですけど。でも、やっぱりこうして好きなバンドがシングルを刻んでいくことの、リスナー側のスリルや楽しさって絶対にあるわけで。

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成田 1つの作品を出すってことは、僕はハードルをどんどん上げていくことだと思っていて。僕らはエンタテインメントの世界でやっているわけで、同じことをやっていちゃ「オッ」って思ってもらえないんですよね。だから変化をし続けないといけないし、でも、そこでそれまでのものを壊しすぎてもいけない。そのバランスの中で枠を広げ続けていければって思っているんですよね。

──毎回自分たちで自分たちのハードルを上げていくのは、それはそれでしんどくないですか?

成田 いや、全然。まだこの先にやりたいこと、試したいことの半分もできてないと思っているから。もし今後、シングルを刻んで、それからアルバムを出すっていうサイクルがこの世の中からなくなってしまうとしたら、それを最後までやっているバンドでありたい。

──素晴らしい宣言だ(笑)。

成田 さっきも言ったように、自分たちは本質的に変化球のバンドだと思うから、そういうバンドにとって、もしアルバムというフォーマットがなくなったら大変ですよ(笑)。1曲1曲がそれぞれ違って、その違いがあるから、ときどき投げる直球だったりスローボールだったりも生きてくるわけで。その過程で、シングルとしていろんな球種を見せていくこともとても重要です。いきなりアルバムで10数曲とかの単位で発表すると、きっとリスナーにとって情報過多になって処理しきれないと思うんですよね。

ニューシングル「裏の裏」 / 2015年7月29日発売 / unBORDE
ニューシングル「裏の裏」
初回限定盤 [CD2枚組] 1500円 / WPCL-12213~4
通常盤 [CD] 1080円 / WPCL-12177
DISC 1 収録曲
  1. 裏の裏
  2. かざぐるま
  3. スパイ対スパイ(オリジナル:ピチカート・ファイヴ)
DISC 2(※初回限定盤付属)収録曲
  1. とおりゃんせ(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
  2. 印象Dメドレー(2015.6.26 Live at なんばHatch)シネマ~△ ~脳内戦争~デモクラシークレット
  3. 気象予報士の憂鬱(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
  4. MATATABISTEP(2015.6.24 Live at STUDIO COAST)
パスピエ TOUR 2015
2015年11月4日(水)
宮城県 Rensa
2015年11月6日(金)
新潟県 新潟LOTS
2015年11月11日(水)
香川県 高松オリーブホール
2015年11月13日(金)
広島県 広島CLUB QUATTRO
2015年11月14日(土)
福岡県 DRUM LOGOS
2015年11月16日(月)
鹿児島県 CAPARVO HALL
2015年11月21日(土)
大阪府 Zepp Namba
2015年11月22日(日)
愛知県 Zepp Nagoya
2015年11月26日(木)
北海道 札幌PENNY LANE24
2015年12月22日(火)
東京都 日本武道館
パスピエ

2009年に成田ハネダ(Key)を中心に結成。メンバーは大胡田なつき(Vo)、成田、三澤勝洸(G)、露崎義邦(B)、やおたくや(Dr)の5名。都内を中心にライブを行い、2010年3月に自主制作盤「ブンシンノジュツ」をライブ会場限定で発表。2011年に1stミニアルバム「わたし開花したわ」、2012年に2ndミニアルバム「ONOMIMONO」をリリースし、卓越した音楽理論とテクニック、ポップセンスで音楽ファンの話題をさらう。2013年3月に初のシングル「フィーバー」、6月にメジャー1stフルアルバム「演出家出演」、2014年6月に「幕の内ISM」と続々と作品を発表し、数々の大型ロックフェスに出演。2015年は4月にシングル「トキノワ」、7月にシングル「裏の裏」をリリース。秋には全国ツアーを行い、12月に初の日本武道館単独公演を予定している。