音楽ナタリー PowerPush - 大森靖子×峯田和伸(銀杏BOYZ)
10年目の邂逅
「女子が元気」に対する違和感
──峯田さんは大森さんの曲は聴きました?
峯田 うん、すごいいい曲作る人だと思う。応援したいっていうか楽しみっていうか。
──今の音楽シーンの中でも、突出した個性を持っていると思うんですが。
峯田 ああ、今は以前に比べてアイドルとかもたくさんいて、女性が楽しくやってる状況なのかな。それはいいことだなって思う反面、ちょっと違和感も感じるけど。
──違和感っていうのは?
峯田 うーん、なんていうんだろう。あれは女性が作る女性の世界じゃなくて、ちょっとどっか男性側の欲望とかから作られる女性の世界じゃないですか。
大森 そうなんです。やっぱりアイドルを作って動かしてる男の人っていうのがいるわけで。私、取材とかで「今は女子が元気ですよね」って言われたりすること多いんですけど、全然そんなことないと思う。すごいやだなって思います。だからアイドルが私のこと好きになったりするわけで。それはその歪みから来てる。
峯田 アイドルをやってる本人たちはすごく一生懸命だと思うんですけどね。でもそれをコントロールしてるのは男で。男の都合のいいように、どっかでなってるんだと思う。女性自身がもうちょっと楽しくなれる状況だといいなって思いますけどね。
──なるほど。
峯田 だから大森さんみたいな人ががんばって、「私でもやれるんだよ」ってところを中学生くらいの子に見せていってほしい。
大森 うん。でも田嶋陽子的なのはイヤですよ(笑)。ああいうのがやりたいわけじゃないです。女性が社会運動すればするほど女性が不自由になっていくんですよ。だからあれとっととやめてほしくて。だってもともと自由なんだから。社会と関係なく自由でいればいい。世界は楽しいじゃん、ってずっと思ってるんです。
卒業文集に「普通の人になりたい」
──大森さんは、自分が女子の思いを代弁してるという感覚はありますか?
大森 よくわかんないですね。そんな自分が女子って感覚があんまないから。自分はなんなんだろうみたいな、ずっとそういう感覚で。小学校の卒業文集でも将来の夢のとこに「普通の人になりたい」って書いてて、そのときからそんなこと考えてたんだって思うんですよ。小4のときから後輩のトイレ覗いたりしてたし……。女の子ってどんな生活して、どんな排便をして、どんなこと考えて生活してるんだろうっていうのをずっと考えてた。その考えてたことを論文にして提出してる気持ちですね、自分の曲は(笑)。
──えっ、その話、だいぶおかしい気がするんですが。
峯田 ずっとおかしいよ、そんなこと言ったら(笑)。
大森 うふふ(笑)。
峯田 でもどっかではあるんじゃない? 「私が女の子たちの背中を押してあげたい」っていう気持ち。
大森 それはそうですね。「女の子たち」っていうとよくわかんなくなっちゃうけど、やっぱり自分が昔欲していたものを同じように欲しがってる人が今いるとしたら、与えたいっていうのはすごいある。
峯田 うん。
大森 今になって思えば、自分はとっとと音楽やってりゃよかったわけじゃないですか。でも自分はかわいくないから音楽やっちゃいけない、かわいい人しか歌手になれないって思ってたんです。それで選択肢から外してたんです。だから「やっていいんだよ」「やっちゃいけないことなんてないよ」って言ってあげられる人になりたいなっていうのは思います。
峯田 俺もそういう気持ちはありますね。「楽器できなくても音楽やれるよ」「誰でもできるよ」みたいな。
──じゃあ「銀杏BOYZ観てバンド始めました」みたいなのはうれしいことですね。
峯田 うん、うれしい。でもだからと言って俺が偉いわけでもねえっていう(笑)。俺も誰かからもらったからね。俺が特別新しいことやったわけじゃなくて、マンガとか映画とか音楽とかからもらって「じゃあ次は俺やるわ」って、そういう感じだったから。
足りないところはお客さんからもらってた
──ところで大森さんをはじめとして、ファンから毎日届くメールを峯田さんは当時どういう気持ちで読んでいたんですか? ヘビーな内容のメールも多かったと思いますが。
峯田 いや、でもそういうのばっかでもなくて、普通に写メ送ってきて「あっ、この子かわいい」とかっていうのもあるし(笑)。エロい人とかもいましたからね。
大森 でしょうね。
峯田 いましたよ。女の子が自分のオナニーしてる動画とか送ってきて。
──最高ですね。
峯田 めっちゃよかった(笑)。あとは、まあ曲のネタになるってとこもあったかな。銀杏始めた頃ってもう25歳で。それで例えば「SKOOL KILL」って曲書いても、自分はもう高校生じゃないじゃん。だから足りないところはお客さんからもらってたかもしれないね、そのメールとか。「あー、この気分、この気分」っていう。
──じゃあ当時の大森さんのメールも、銀杏BOYZを作る“気分”の1つだったのかもしれないですね。
峯田 かもしんないね。わかんないけど。あのときまだTwitterとかもなかったし。10年前くらいがちょうどギリギリだと思うんだよね。受け手と表現する人の区別っていうのがあった。でも今はその棲み分けがなくなってきて、みんな受け手だし、みんな発信できるでしょ。みんなが同じになっていってる。だから俺、前はブログとかもよく更新してたんですけど、ここ最近はやりがいがなくなったっていうか。あの頃の空気って、今思うとすごく面白くて。今は別にわざわざ俺にメールしなくても、Twitterでなんでも書けるし、日本人全員に発信できるわけだし。でもそうやって発信しててもさ、埋めらんないものってたぶんある気がして。
──というのは?
峯田 たぶん人前で表現したり演奏したりとかっていうのは、吐き出したいっていうだけじゃなく、プラス相手を楽しませたいみたいな。エンタテインメントにしたいっていう気持ちなんだと思うんだよね。それがあるかどうかは大きいと思う。そういうのを目指す人は音楽とかやったほうがいいんじゃないかな。
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- メジャーデビューシングル「きゅるきゅる」 / 2014年9月18日発売 / エイベックス・エンタテインメント
- CD+DVD / 3780円 / AVCD-83080/B
- CD / 1080円 / AVCD-83081
CD収録曲
- きゅるきゅる
- 私は面白い絶対面白いたぶん
- 裏
DVD収録内容
- きゅるきゅる(Video Clip)
- 絶対少女ツアーファイナル in 恵比寿 LIQUIDROOM
大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛県生まれのシンガーソングライター。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2012年4月にミニアルバム「PINK」をリリース。2013年3月に1stフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」を発表し、同年5月に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを実施。レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ大成功に収める。その後12月には直枝政広(カーネーション)プロデュースによる2ndフルアルバム「絶対少女」をリリース。レコ発ツアーファイナルを2014年3月、東京・LIQUIDROOM ebisuにて開催する。同年9月にはシングル「きゅるきゅる」でエイベックスからメジャーデビュー。自身がボーカルを務めるロックバンド、THEピンクトカレフでの活動も継続中。
銀杏BOYZ(ギンナンボーイズ)
2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo, G)が、当初ソロ名義で「銀杏BOYZ」を始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、 新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年からはDVD「僕たちは世界を変えることができない」や「あいどんわなだい」「光」といったシングル作品をリリースし、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。