ナタリー PowerPush - NICO Touches the Walls
ありのままをさらけ出した3rdアルバム「PASSENGER」
4人でやればNICOの音になる自信
──ところで去年の夏に、坂倉さん、対馬さん、古村さんも作曲に挑戦したそうですね。今作には坂倉さんが作曲した「マトリョーシカ」が収録されていて、アルバムをより刺激的なものにしています。
坂倉 ありがとうございます。バンドを組んだ頃から曲を作ってみたい願望はあったんですけど、実際に作ったことはなくて。でも2010年前半の活動を通して自分たちのことを見るようになったときに、もっとそれぞれの音を出していこうっていう雰囲気になって。じゃあ俺らしい音ってなんだろうと。それを実際に形にして追求したくなったんですよね。例えばストレートな曲と一言で言っても、みっちゃん(光村の愛称)が考えるストレートと俺が考えるストレートって違う。もちろんフル君(古村の愛称)と対馬君が考えるストレートもそれぞれ違うし。その違いを出していくのは今のNICOだったらありだなって。
──光村さん以外が曲を作るというのは、これまでのバンドの在り方を変えていく革新的なことですよね。
光村 はい。これまでは俺が作った曲を軸に、3人のアイデアを反映させて自分たちのサウンドを作っていくことを考えていたんですよね。だけど全員が曲を書けるようになれば、その方法に固執しなくていいし。ただ最初3人のデモを聴いたときは、4人でやれるのか不安があって(笑)。
坂倉 結構渋い顔してたよね。
──光村さんの中にはないタイプの音だった?
光村 そうそう。新鮮すぎたんです(笑)。でも4人でやればNICOの音になるってことを確かめたかったし、実際に「マトリョーシカ」を作っていくうちにちゃんとNICOの音になったのはすごく面白かった。
それぞれのルーツが反映されたサウンド
──メンバーそれぞれどんなタイプの曲を作るんですか?
光村 坂倉の場合はすごくストレートで。俺も結構ストレートな曲を書いてたつもりなんだけど、もっとまっすぐな球があるってことを坂倉は気付かせてくれた。で、フル君の曲はキュートなところがありましたね。
坂倉 フル君はギタリストだからギターリフから作ってくるんですよ。それでリフを軸に音を重ねていくうちに、フル君が「こういう音がいい」ってリクエストを出してきて、そしたらどんどんポップになって。できあがったものは木村カエラさんの曲みたいな、かわいい感じの音でした。
古村 作ってみて初めて、自分がすごくポップだってことに気付きました(笑)。
──対馬さんの場合はリズムが軸になったり?
対馬 いえ、なんとなくギターを弾きながら作ってますね。ただワンフレーズ決めたらそっから先が浮かばなくて。その壁と戦っているところです。
光村 でもやっぱりワンフレーズだけでも、おのずと対馬君の音楽の好みが出てて。俺の中にはないメロディだし、曲の構成が俺よりはるかに屈折してる(笑)。ドラマーだから音階の上を漂ってるというよりは、キック、スネア、タム、タム、フロアみたいなイメージが沸くようなフレーズですごく面白い。
うれしい誤算の結果、ロードマップは全部書き直し
──4人全員が曲を作るようになることで、ますますバンドの幅が広がりそうですね。
光村 そう思います。それぞれにルーツがあるんですけど、今までは俺のルーツを大事にしてもらってたんですよね。でも全員が曲を作ることで、それぞれのルーツや好みがわかるようになって、アレンジの話をするときにお互いの意見を率直に言えるようになった気がする。
──それはいい変化ですね。
光村 ええ。あとはいい意味で諦めがついた。この4人でやってる以上は、4人の中にあるものしか出てこないんだって。それを止めてしまったり、遠慮しあっちゃうのは、このメンバーでやってる意味がなくなる。だから3人が作曲をするようになったことで、お互いを認め合うきっかけになったし、それぞれの役割が明確になりましたね。
──なるほど。
光村 でも大変ですよ(笑)。おかげでバンドのロードマップは全部書き直しですもん。
坂倉 実は4年くらい先までいろいろ考えてたんだよね(笑)。
──このアルバムによって想定外の方向に進みそうだと?
光村 はい。俺の持論では、どのアーティストも3rdアルバムで本質が出てくると思っていて。だからというわけじゃないけど、当初の予定ではセルフタイトルになる予定だったんです(笑)。できあがってみたら、全然違うタイトルになったし、想像してたアルバムとも違うし。でもうざったいくらいロックバンドとしての俺らが出てる作品ができて、それはうれしい誤算でした。
──このアルバムはロックバンドとしてのNICOの現時点での完成形と言えるかもしれませんね。最後に収録されている「Passenger」は、そんなバンドの現在の心境を表している曲だと感じました。
光村 「Passenger」は今回のアルバムの核にしようとみんなで話して。どの曲の歌詞も自分の内面をさらけだしているんだけど、この曲は照れくさいくらいに出そうと思いましたね。このアルバムに捧げる気持ちで。
──「命の限り 声を枯らして 君を求めて歌うだけさ」という歌詞は一種の宣誓ですよね?
光村 はい。なんでこのアルバムができたのかを歌詞で物語れたし、切実すぎるくらい俺らの思いがこもってる。あと「Passenger」という曲があることで、バラエティに富んだアルバムにケリがつくようにもしたかったんですよね。
──なるほど。最後になりますが、アルバムを出した後の方向性は見えてますか?
光村 歌とメロディを大切にすることはこれまでと変わらないけど、それ以外は自分たちでも読めないですね。それこそロードマップがなくなったんで(笑)。だから4人でやっていく中で出てくるものを素直に表現していきたい。100%音楽でできている自分たちを隠さないで、勝負していきたいなって。その覚悟がこの1年間で4人ともできた気がします。
NICO Touches the Walls(にこたっちずざうぉーるず)
2004年4月に光村龍哉(Vo, G)、古村大介(G)、坂倉心悟(B)の3人で結成。同年7月に対馬祥太郎(Dr)が加入し、現在の編成となる。2005年から渋谷と千葉・柏を中心にライブ活動をスタートさせる。2006年2月に初のミニアルバム「Walls Is Beginning」をインディーズレーベルから発表。その後「SUMMER SONIC」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」などの夏フェスやライブイベントへの出演を経て、2007年11月にミニアルバム「How are you?」でメジャーデビューを果たす。2008年9月に1stフルアルバム「Who are you?」、2009年11月に2ndフルアルバム「オーロラ」をリリース。2010年3月には初の日本武道館ワンマンライブを開催し成功を収める。エネルギッシュなライブパフォーマンスに定評があり、多くのリスナーを魅了している。