ナタリー PowerPush - ナノ
正体不明のバイリンガルシンガー その全貌に迫る
自分の特徴は英語じゃないかと気付いた
──そこから、動画サイトに自分が歌った曲を投稿するようになるまでには、どのような過程があったんですか?
MyspaceやYouTubeを通じて自分の音楽をネットで公開することが当たり前になってきた頃に、偶然ニコニコ動画と出会って、そこからすぐ「歌ってみた」にたどり着いて。自分はそれまでネット音楽の世界とは無縁だったんですけど、ニコ動に出会ったことで、プロじゃないのにプロみたいなアーテイストが山ほどいるんだと知って、衝撃を受けました。それで、そういった人たちの曲を聴けば聴くほど、「自分もこの曲を歌ってみたい」と思うようになって、挑戦してみたんです。
──最初に投稿したのは2010年12月29日、DECO*27さんの「モザイクロール」を英語詞でカバーしたものでした。あえて英語詞で歌ったのは、自分が得意としてるもので勝負したいって気持ちがあったんですか?
自分が投稿しようと思った頃は、「モザイクロール」が発表されてから既に半年くらい経ってたんです。「今からこの曲を普通に歌っても、何も起こらないな」と思ったときに、「自分の特徴は何か?」って考えて。ニコ動の歌い手さんってみんな、声質だったりキャラクターだったり、何かしらの特徴がある人が多いんです。それを自分に当てはめたとき、英語じゃないかと気付いて。だったら英語詞に訳して自分なりに歌ってみようと思って、試してみたのがきっかけです。
日本人が聴きやすい洋楽
──「モザイクロール」を投稿した後の反響は、ものすごいものがありましたね。
本当にあれが初投稿だったので、誰もナノっていう人を知らないわけで。でも、奇跡的に再生回数が増えて「この人誰?」みたいな感じに注目してもらえるようになりました。ただ、自分では「何が良かったのかな?」ってここ1年間考えていて。自分は英語で歌うほうが楽だけど、影響を受けてる音楽が邦楽なんですよ。だから、邦楽の歌い方とか発声の仕方とか、邦楽ならではのカッコ良さを英語詞と絡ませた、日本人が聴きやすい洋楽になってるんではないかと勝手に分析してます。
──メロディは日本人ならではのものだけど、そこに英語詞とネイティブな英語ボーカルが乗ることで、リスナーには新鮮に聴こえたんでしょうね。ちなみに、英語詞ってことで海外からの反響はありましたか?
最初の頃は日本人からの反響が多かったですけど、最近は海外の人から「日本の曲を英語で歌ってくれてありがとう」ってコメントも増えてます。
──ちなみに、これまで公開した曲の中で日本語で歌った曲はありますか?
本当に数少なくて、1~2曲程度だと思うんですけど。これだけ英語詞で活動してしまうと、日本語で歌うと違和感があったりしますね(笑)。リスナーの方からも「え!? ナノさんが日本語で歌ってる!」って言われるし。日本人なんですけどね(笑)。
──それから、昨年6月にリリースされたbuzzGさんのアルバム「祭囃子」の収録曲「西へ行く」でボーカルを担当しましたが、ナノさんにとってこれが初の本格的なレコーディングだったんですか?
そうです。最初どうなるのかと不安しかなかったですね。buzzGさんをはじめ、真矢さん、Geroさん、岸尾だいすけさんと豪華なメンツの中、自分だけ無名で場違いだなと思って。でも、たとえ無名でも対等に聴いてもらえる場をいただけたのは、すごくありがたかったです。
「magenta」を世に出す前は反響が怖かった
──そして、いよいよデビューアルバム「nanoir」がリリースされます。今作の選曲はどのようにして決まったんですか?
まず最初に決まったのが1曲目の「magenta」で、このアルバムのためにダルビッシュPさんと書いた曲なんです。アルバムのコンセプト自体も「magenta」を軸にして、マゼンタという色にほかの曲の違う色が混ざり合うことで、虹色のアルバムにしていこうと考えてました。
──「magenta」は既に先行配信されていますが、聴いた人からの反響は耳にしましたか?
「magenta」を世に出す前は、それこそダルビッシュPさんと「本当どうなるんだろう。怖いね?」って話していて。だけど、配信が始まったらたくさんの人が聴いてくれて、みんな「カッコいい!」と言ってくれてビックリしました。もちろん自分ではカッコいい曲だと思っていたんですけど、ニコ動では未発表のオリジナル曲だったので不安も大きくて。でも、ダルビッシュPさんにいい曲を書いてもらって、自分も自分の感覚でうまく歌えたので、そこだけは自信を持ってました。
──勢いのあるロックチューン「magenta」を筆頭にエモやパンク、ラウドロックの流れにあるサウンドが続くかと思うと、また違ったカラーの楽曲が入ってくる。しかも曲がカラフルなだけでなく、歌声も曲によって表情が違って聴こえて、一瞬「あれっ、違う人が歌ってる?」と思う瞬間があるんですよ。
激しい「Beautiful ground」のあとに「glow」っていうバラードが入ってますけど、確かにこの2曲は歌い方がガラッと変わるんですよね。なので「違う人?」って感じてもらえるのはすごくうれしいですね。
──また、「Beautiful ground」は日本語詞ということもあって、そこでも驚かされます。
英語詞の曲が続く中、急に日本語詞の曲が入ってきたら「えっ?」って思わないかなって最初は不安だったんですけど、歌ってみたら意外と違和感がなくて。最近では英語詞と日本語詞を取り混ぜているバンドも少なくないので、違和感なく楽しんでもらえると思います。
CD収録曲
- magenta [ナノ×ダルビッシュP / オリジナル曲]
- ヒステリ
- GALLOWS BELL
- Beautiful ground [ナノ×ゆよゆっぺ / オリジナル曲]
- glow
- 想イ出カケラ
- Dive In Your Eyes [ナノ×buzzG / オリジナル曲]
- Just Be Friends
- EMPTY SHEL [オリジナル曲]
- メランコリック [ナノfeat.neko]
- 第一次ジブン戦争 [ナノfeat.__(アンダーバー)]
- Calc. ~Piano Live Version~ [Piano:松永貴志]
ナノ
アメリカ・ニューヨーク州出身、7月12日生まれ、血液型B型というプロフィール以外は明かされていない、正体不明のバイリンガルシンガー。2010年12月29日に動画投稿サイト「ニコニコ動画」に、人気VOCALOID楽曲「モザイクロール」を自作の英語詞でアレンジし投稿。この動画がわずか3日で、サイト内ジャンルランキング1位を記録した。その後も数多くのVOCALOID楽曲の英語詞アレンジや洋楽カバー曲を投稿し、卓越した歌唱力と堪能な英語力でリスナーを魅了。2011年6月に発売されたbuzzGのアルバム「祭囃子」にゲストボーカルとして参加し、大きな注目を集めた。2012年3月に初のアルバム「nanoir」で待望のメジャーデビューを果たす。また、テレビアニメ「ファイ・ブレイン~神のパズル」第2シリーズのオープニングテーマに、新曲「Now or Never」が決定したことでも注目を集めている。