ナタリー PowerPush - 中島愛

旅立ちの前に

2008年、テレビアニメ「マクロスF」のランカ・リー役で声優デビューを果たし、「ランカ・リー=中島愛」名義の楽曲「星間飛行」で一気に注目を集めた中島愛。2009年に本人名義での音楽活動をスタートさせて以来、9枚のシングルと2枚のアルバムを作り上げ、そのハイクオリティな音楽は幅広いリスナー層に高く評価されてきた。しかし彼女は昨年末に突然、本人名義での音楽活動を無期限休止すると発表した。

約5年間の活動を締めくくる作品としてリリースされる3rdアルバム「Thank You」はそのタイトルの通り、彼女がこれまで支えてきてくれたファンやスタッフへの感謝の思いを込めて作り上げた1枚だ。インタビューでは、アルバムの発売と3月のラストライブを控える現在の心境をしっかりとした言葉で語ってくれた。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 笹森健一

 
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“続ける勇気”ではなく“立ち止まり、見つめ直す勇気”を

──どこから聞いたものかという感じですが……まずは音楽活動の休止について(参照:中島愛が音楽活動休止、3rdアルバム&3月にラストライブ)、改めてお話してもらえますか?

中島愛

このお仕事を始めたとき……「マクロスF」でランカ・リー役をいただいてデビューが決まった頃、もっとさかのぼれば2003年に事務所に所属した頃からずっと、何かターニングポイントがあると必ず立ち止まって振り返ることを自分の中のルールにしているんです。立ち止まるべきときに立ち止まり、見つめ直すことはずっと考えていて、そのタイミングが今回だったのかなって。マクロスのオーディションは高校3年生の頃だったんですけど、そのときも一度、事務所に所属して5年目、そして高校卒業という節目でけじめをつけて「このオーディションを最後にしよう」って決心したんです。

──結果オーディションに受かって、今の活動がスタートしたと。

はい。それから5年経って……充実した日々の中で、このままの自分で音楽活動を続けることが本当に正しいことなのか、ずっと考えていて。「マクロスF」という大きな作品に関わらせていただいて、1つの作品が区切りを迎える中で、じゃあ私は区切りを迎えることができているのかと。「ランカ・リー=中島愛」としてデビューさせていただいて、すごく恵まれたスタートだったからこそ、恵まれすぎた環境の中に今の自分のままで身を置き続けるという選択肢が、自分の中になかったんですよね。現状が不満だから新しい場所に行きたいとか、例えば名義を変えて再デビューしたいとか、そういうことではないんです。ただ単純に、今の環境に甘えたままになってしまうのかなという懸念がずっとあって。

──大ヒットしたアニメでデビューしたという恵まれた状況は確かにあると思うし、個人名義での活動も、非常に優れたサウンドプロダクションチームが周りにいて、それは本当に恵まれていると思うんです。でもそれは、この音楽を表現するボーカリストの存在があるからこそだと思うので、今話してもらった心境は理解しつつも、もったいない!と思っちゃいますね。休止発表の反響も大きかったですし、残念がるファンの声は把握されてますよね。

そうですね……。でもそういう気持ちを抱えたまま歌い続けるのは失礼なことだと思うので、今回は“続ける勇気”ではなく“立ち止まり、見つめ直す勇気”を選びたいなと思ったんです。

──2012年11月の中野サンプラザ公演「5th Anniversary Live MeguMagic」から1年間は、5周年に合わせてさまざまな企画を行ってましたよね。この段階から活動を休止することは考えていたんですか?

スタッフの皆さんとは、普段から会議室じゃない場所でもなんでも密に話すチームなので、自分の思っていることや、どんな曲が好きとか、そのときどきの気持ちはそのつど話しているんです。だからそういう意志があるというお話は早い段階から話してました。私の悪いクセだと思うんですけど、デビューしたときから「次はないかもしれないんだから」と考えるところがあって。

──ずいぶん慎重というか、ネガティブ思考ですね(笑)。

1枚出せたからといって次が出せるとは限らないし、一度ライブができても次またやらせてもらえるとは限らないし。ここまでたくさんの作品を出させていただいていることが、私にとっては奇跡なんですよね。シングルが9枚出て、アルバムが3枚もあって、ライブもツアーもあって……。かなり驚きの出来事で。5年間、幸運な巡り合わせが続いたからこそだと思うんです。その恵まれた輪の中なら私は存在できるけど、この輪を離れたらどうなるのかなという不安があって。そこまで悲観しなくてもと言っていただくこともありましたし、深く考えないようにするのも試みたんですけど、できなかったんですよね。だから5周年イヤーという節目の中で、区切りというものをすごく意識していました。

リハのセッションから生まれた“アイドルが歌うプログレ”

──3rdアルバム「Thank You」がひとまず最後の作品となるわけですが、1stアルバム「I love you」、2ndアルバム「Be With You」と並べると、あらかじめ3部作として作られていたかのような。

5周年の締めくくりに一番伝えたいことという気持ちで「Thank You」というタイトルにしたんですけど、これはかなり早い段階で付けました。3部作という意識はなかったけど、これまで作ってきた流れの終着点というか。

中島愛

──この作品で一旦ピリオドを打つ、という意識はやはり楽曲制作をする上で大きかったのでしょうか。

制作をする上では、5周年の集大成であるということが何よりも大切なテーマでした。なので、暗に最後だという意味が込められた曲は1つもないんです。

──実際1曲目からいつも通りというか、今まで以上に強烈な曲でスタートしますけど(笑)。オープニングナンバーの「愛の重力」は、今こんな曲が歌いこなせる、しかも本人が好き好んでやるなんて中島さんぐらいしかいないからこそ、なおのこと休止は惜しいなあとも思ってしまうんですよ。

ありがとうございます。大好きですし、ド真ん中ですね。

──この曲を書いた西脇辰弥さんは、5周年ライブでバンマスを担当されてましたよね。

はい。プロデューサーと西脇さんで「“アイドルが歌うプログレ”みたいな曲がやりたいよね」って話されていて。「どう思う?」って言われて即「やりたいです!」みたいな(笑)。プログレと言っても、構成はプログレで中身はフュージョンとかAOR全盛の頃の音楽をスパイスにした楽曲だということで。そんな話になった大元のきっかけは、いつかのライブのリハーサルで……曲に入る前にバンドさんが音合わせで自然とセッションを始めたりするんですけど、あるときバンドさんの演奏を聴いて「あ、この曲知ってる」と思って勝手に小さい声でコーラスを当ててセッションに参加したんです。そしたら西脇さんが「なんでこの曲知ってるの!?」って興味を持ってくださって。そんなことからその時代の曲についてのキャッチボールが始まって。シンセが多用された感じが好きって言ったら「気が合うねえ!」って(笑)。

──はははは(笑)。

そういう一連の流れがきっかけで生まれた曲なので、私の趣味ド真ん中なんです(笑)。そのライブのリハーサルと同時期に西脇さんがデモを作ってくださって。聴いてすぐに「絶対1曲目にしたいです!」みたいな(笑)。

──普通なら「アイドルが歌うプログレ」なんてアイデア出さないでしょうし、イントロだけで1分も尺を取らないですよ(笑)。たぶんどんな球投げても打ち返すだろうな、というポテンシャルを感じてのことなんじゃないでしょうか。

きっと1stアルバムの頃ならできなかったでしょうし、西脇さんは生で歌う私をずっとそばで見てきてくれていて、この音だったら出る、このリズムだったらできるって確信を持って作ってくださるからこそチャレンジできるんだと思います。こういったサウンドにチャレンジするということは難しい挑戦だと思いましたが、自分の中で1回アイドルソングとして濾過することで歌えると。

──80'sアイドルマニアの中島さんらしい発想ですよね(笑)。確かにアイドルソングならではの他ジャンルの取り込み方というか。突飛な感じでプログレ / フュージョンをやってみましたではなく、あくまで“ラブソング”の範疇で楽しめる曲になっている。

そうなんです。なので、歌詞も柔らかい表現になっていて。トータルで自分らしさを大事に歌うことができたので、すごくいい経験になりました。

3rdアルバム「Thank You」 / 2014年2月26日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD2枚組] 4095円 / VTZL-77
通常盤 [CD] 2940円 / VTCL-60362
収録曲
  1. 愛の重力
    [作詞 : 尾上 文 / 作曲・編曲 : 西脇辰弥]
  2. Carry Out!
    [作詞 : L2 / 作曲・編曲 : 長岡成貢]
  3. マーブル
    [作詞 : 岩里祐穂 / 作曲・編曲 : Rasmus Faber]
  4. あの日の海
    [作詞・作曲 : 矢吹香那 / 編曲 : 島田昌典]
  5. Wish
    [作詞 : 木村有希 / 作曲・編曲 : 木村有希・黒岩大樹]
  6. 風色のフィルム
    [作詞・作曲・編曲 : 矢野博康]
  7. Mamegu A Go! Go!
    [作詞・作曲・編曲 : 北川勝利 / ホーン編曲 : 西脇辰弥]
  8. Megu2 Magic
    [作詞・作曲・編曲 : 木村有希 / ストリングス編曲 : 長谷泰宏]
  9. そんなこと裏のまた裏話でしょ?
    [作詞 : 西直紀 / 作曲 : hirao(SpiralS) / 編曲 : mukai(SpiralS)]
  10. ありがとう
    [作詞・作曲 : 尾崎亜美 / 編曲 : 佐藤準]
  11. Flower in Green
    [作詞・作曲・編曲 : Rasmus Faber]
  12. とうめいにんげん
    [作詞・作曲・編曲 : コトリンゴ]
初回限定盤 特典CD「B面コレクション+1」収録曲
  1. パイン
    [作詞・作曲 : 春行 / 編曲 : 川口圭太]
  2. 天使の絵の具
    [作詞・作曲 : 飯島真理 / 編曲 : 桜井康史]
  3. 陽のあたるへや
    [作詞・作曲・編曲 : 宮川弾]
  4. ナイショのはなし
    [作詞 : 中島 愛・西 直紀 / 作曲・編曲 : 窪田ミナ]
  5. 星空
    [作詞 : 伊藤利恵子 / 作曲・編曲 : 西脇辰弥]
  6. パンプキンケーキ
    [作詞・作曲 : 矢吹香那 / 編曲 : 鈴木智文]
  7. 忘れないよ。
    [作詞・作曲 : 矢吹香那 / 編曲 : 清水信之]
  8. 素直
    [作詞・作曲 : Castella / 編曲 : 窪田ミナ]
  9. マーブル~Rasmus Faber Remix~ Produced, mixed and mastered by Rasmus Faber
    [作詞 : 岩里祐穂 / 作曲・編曲 : Rasmus Faber]
ライブBlu-ray「Megumi Nakajima 5th Anniversary Year's Final Live『メグミー・ナイト・フィーバー』」 [Blu-ray Disc 2枚組] 2014年2月26日発売 / 8190円 / FlyingDog / VTXL-17
「Megumi Nakajima 5th Anniversary Year's Final Live『メグミー・ナイト・フィーバー』」
「Megumi Nakajima 5th Anniversary Year's Final Live『メグミー・ナイト・フィーバー』」
中島愛(なかじまめぐみ)
中島愛

1989年6月5日、茨城県生まれ。2007年に行われたアニメ「マクロスF(フロンティア)」の歌姫オーディション「Victor Vocal&Voice Audition」でヒロインのランカ・リー役に抜擢され、2008年6月に「ランカ・リー=中島 愛」名義によるシングル「星間飛行」で歌手デビューを果たす。2009年1月には初の個人名義によるシングル「天使になりたい」を発表。声優として「マクロスF」「けんぷファー」「バスカッシュ!」「こばと。」「セイクリッドセブン」「輪廻のラグランジェ」などのアニメ作品に参加しながら、ソロアーティストとして国内のみならず海外でも積極的にライブ活動を行っており、2013年11月には東京・中野サンプラザにてデビュー5周年のアニバーサリーイヤーを締めくくるワンマンライブ「Megumi Nakajima 5th Anniversary Year's Final Live『メグミー・ナイト・フィーバー』」を成功に収めた。同年12月にオフィシャルサイトなどを通じ、2014年3月末日をもって本人名義での音楽活動を無期限休止することを発表。休止前最後の作品となる3rdアルバム「Thank You」を2月にリリースし、3月に東京・日本青年館にてラストライブ「Megumi Nakajima FINAL LIVE 『Thank You』」を行う。