音楽ナタリー PowerPush - Gotch× サウンドエンジニア 中村研一

MY SOUND ROOTS presented by Sony's Headphones

ハイレゾだから伝わるライブの魅力

アーティストが自身のルーツである楽曲をハイレゾ音源で聴き直しその魅力を改めて語りつつ、自身のハイレゾ楽曲もハイレゾ向けヘッドホンで体験する動画コンテンツ「MY SOUND ROOTS」がソニーヘッドホンのYouTube公式チャンネルで公開された。

「MY SOUND ROOTS」の1回目に登場したのは、Gotchと、長年ASIAN KUNG-FU GENERATIONのエンジニアを務める中村研一。動画で2人は、Gotchの“サウンドルーツ”であるボブ・ディラン「Blowin' in the Wind」(参照:mora)や、Gotchが12月3日にリリースするライブアルバム「Live in Tokyo」(参照:Gotchライブ音源をアナログ、CD、ハイレゾで)をソニーのハイレゾ向けヘッドホン・MDR-1Aでリスニングしている。

今回ナタリーでは動画に収まりきらなかった2人の言葉から、ハイレゾだからこそ感じ取れる細やかなサウンドや空気感についてやハイレゾで音源をリリースする意義、またMDR-1Aの魅力についての言葉をピックアップした。

取材 / 熊谷朋哉 文・構成 / 加藤一陽 撮影 / 笹森健一

Gotchインタビュー“音楽って、みんなが思ってるより真四角じゃない”

“50年前の瞬間”が蘇る

──「MY SOUND ROOTS」でGotchさんは、自身の“サウンドルーツ”としてボブ・ディランの「Blowin' in the Wind」をチョイスしていました。その理由として、「ソロ作を作っていく中でディランを聴き返す機会が増えたから」と話していましたが。

はい。ディランの映画を観直したり、詩集を買ったりもしています。いろいろと音楽活動をしていく中で、フォークっていうスタイルにものすごく興味が湧いてきているんです。いろんな人の“暮らしの中にある音楽”っていうか……それでディランとかウディ・ガスリーとか、そういうアーティストの楽曲をもっとちゃんと味わってみたいなって。それで今回は「Blowin' in the Wind」を選びました。

──「MY SOUND ROOTS」でGotchさんは「Blowin' in the Wind」のハイレゾバージョンをMDR-1Aで聴いて、そのサウンドに驚いているようでしたね。

Gotch

「Blowin' in the Wind」って楽曲自体はものすごくシンプルだし、レコーディングも当時の限られた技術の中で行われていたものなんだけど、ハイレゾで聴くとものすごく“目の前にいるような感じ”で聴けるというか。ギターやハープが入ってきたときに、もう本当に50年前の“ある瞬間”が時空を超えて耳元に広がっていくような感じがありました。だまされたと思って1回味わってみてほしいですね。きっと「うわっ」って思いますよ。

──そもそもGotchさん自身、音楽をどのように聴くことが多いですか?

普段はよくアナログを聴いているんですけど、やっぱりアナログって何回も聴いてると、どうしても盤がすり減っていくんですよね。だから過去の音源がハイレゾでアーカイブされることは、ものすごく意味のあることだと思います。リスニングは基本的に自分の制作環境で聴くことが多いですね。ヘッドホンも使いますけど、正直苦手なヘッドホンもあるんです。重低音が大きくて、元の音源に手を加えたような音になってしまっているものとか。それを考えると、MDR-1Aはナチュラルでいいですよね。いい音で聴けるし、オーディオマニアの方のようなリスニング環境をそろえるよりもリーズナブルだし。

──Gotchさんは普段、MDR-1Aと同じシリーズで前モデルのMDR-1Rを使っているんですよね。比べてみていかがでしたか?

「Blowin' in the Wind」のハイレゾバージョンを聴いて思ったのは、MDR-1Aのほうが高音が出ていて、解像度が高いな、と。どちらもコードが着脱式なので、コードを交換したりしていろいろ試してみたんですが、MDR-1Aは本体だけでなくコードも一新しているとのことで、コードを変えるだけでも音の違いがわかりましたね。

演奏の揺らぎを実感してほしい

──「MY SOUND ROOTS」ではご自身の「Live in Tokyo」も試聴していましたが、ライブ音源をハイレゾでリリースする理由は?

もともとライブ会場の空気感をなるべくよく捉えた音源を作りたいと考えていて、その手段の1つとしてハイレゾ音源の制作にも対応するレートでライブ録音していたんです。で、それをアナログなりハイレゾなり、いいと思えるサウンドでリリースできればと思っていたんですけど。結局ハイレゾ音源を作ってみたら、それがよかったんですね。

──結果として、アナログ、CD、ハイレゾという3種のフォーマットでリリースすることになりました。それだけライブ盤にこだわりがあるのですか?

僕、ライブアルバムが好きなんです。例えばWilcoの「Kicking Television: Live in Chicago」っていうライブ盤があるんですけど、そのCDは観客が興奮していく様とかがしっかり収められていて、ものすごく臨場感があって。音に集中しながらそういう空気を味わえるって、すごくいいなって思うんですよね。だからライブDVDよりなぜかライブCDとかライブレコードのほうが好きなんです。

──そうなんですね。

これから先、もしかしたら全公演のライブ音源をハイレゾで配信するなんてことだってできるかもしれない。自分の好きなバンドとかがそういうのリリースしてくれたら、「あー、俺あのときのあの公演行ったんだよ」って追体験するために買ったりしちゃいそうですから。もしそういうのが実現したら、音楽ファンとしてはいい時代になるなって思ってますね。

──「Live in Tokyo」のハイレゾバージョンをMDR-1Aで聴いたとき、Gotchさんはすごく驚いていましたね。

Gotch

聞こえすぎているくらいでしたから(笑)。そもそも聴き手にできる限りいい音で聴いてほしいと思って作ったから、すごくいいです。僕がバンドのみんなとやろうとしたことが、しっかり記録されているというか。

──やろうとしたこととは?

音楽って人間がやってることだから、みんなが思ってるより真四角じゃないっていうか……ライブって、誰かが興奮したらそれにあわせてテンポが上がっていくこともあるし、演奏がイマイチまとまらないときもあるし、それがキュッと1つになっていく瞬間もある。そういうところに演奏する喜びがあるし、僕にとってはそういう部分が音楽なんです。演奏するときは、それくらいプリミティブというか、原始的な何かが宿っていたほうがいいと思っていて。

──なるほど。

演奏って、ミュージシャンからするとおしゃべりみたいな感覚なんですよ。話がものすごく弾むときもあれば、なんか「あいつ寒いこと言ってない?」みたいな瞬間もあるし(笑)……そういうコミュニケーションというか、音と音が集まったり離れたりしてゆらゆら揺らいでいく。さらにそこに観客たちの思いも重なっていく。オーディエンスが興奮したら演者も興奮するし、オーディエンスが緊張したらミュージシャンも緊張する。僕は「Live in Tokyo」に、ライブのそういう部分を収めたかったんですね。僕が思う「音楽ってこういうもんなんだよ」みたいな部分が、リスナーに届けばいいなって。だからなんか……うん、聴いた人に「あー、人間がやってることなんだな」っていうのをわかってもらえたらうれしいです。

──MDR-1Aで「Live in Tokyo」を聴くと、そういう部分も楽しめそうですか?

ええ、そうですね。ハイレゾ音源や、それに対応するヘッドホンみたいな新しい技術がアーティストの魅力や個性を生かすためにあってくれるっていいですよね。そしてこのMDR-1Aなら、そういう部分がより伝わると思います。

中村研一 エンジニアインタビュー“抜けがいいから、録ったままに近い音”

これ、僕がミックスしたんですよね?

──中村さんは「Blowin' in the Wind」を聴いてどういった印象を受けましたか?

僕、いつもは古い音源を聴くと音が曇って感じたりするんですけど、この音源では「古い音だな」っていうのを感じませんでしたね。MDR-1Aで聴いているからかもしれませんが、ハイレゾバージョンの「Blowin' in the Wind」は、去年とか一昨年に録音したものだよって言われても全然通用するようなクリアさがありました。

──そうなんですね。

中村研一

あとはディランの息づかいや喉が鳴っている感じも生々しいですし、昔の録音ならではのノイズすらもリアルに聞こえましたね。アコギの低音もしっかりしていますし。

──中村さんはGotchさんの「Live in Tokyo」をミックスしていて、普段とハイレゾバージョンでは何か違いを感じましたか?

はい。エンジニアって、ミックス時のエフェクトのかけ方に“手癖”みたいなものがある人が多いんですけど。今回「Live in Tokyo」をミックスする際、最初はハイレゾだからっていうのを意識しないでいつも通り手癖を生かしつつ作業をしていたら、あるところで「何かが違うな」って思ったんです。

──何が違ったんですか?

1つひとつの音の抜けがよくて、エフェクトやフェーダーをいじらなくてもすべての音がしっかりと聞こえてくるんです。それぞれの音がちゃんと見えるっていうか。だから結果的にエフェクトはかなり薄めです。録った音そのものに近い音が収められているというか。

──「Live in Tokyo」の制作にあたって、エンジニアとしてどういった音を目指していましたか?

Gotchの温かさや優しさみたいなものが伝わる感じと言いますか、そういうものを目指しました。

──それそういったミックスの意図は、MDR-1Aで感じることができましたか?

ええ。感じられると思いました。奥行きや広がり、音の伸び……すべてが上増しされているような感じがあるんですよね。

──「MY SOUND ROOTS」で中村さんは、「Live in Tokyo」ハイレゾバージョンをMDR-1Aで聴いたときに「これ、僕がミックスしたんですよね?」と驚いていましたよね?

「こんなにワイド感があるような作りをしていたんだ」って、ちょっと自分でびっくりしちゃって。あとは低音に芯があるし、中高域もしっかりと前に出てきます。抽象的になってしまうんですけど、やっぱり美味しいものを食べたときって、顔がニヤってなるじゃないですか。僕はMDR-1Aで「Live in Tokyo」を聴いたときにそうなりました(笑)。

MY SOUND ROOTS Contents Index
第1回 Gotch×中村研一
第2回 茂木欣一(東京スカパラダイスオーケストラ)×渡邊省二郎
第3回 スキマスイッチ
特別企画 美濃隆章(toe)“ハイレゾ音源”ってどんなもの?
Pick Up Headphone
Sony MDR-1A
Sony MDR-1A
低域から100kHzの超高域までを再生する広帯域40mmHDドライバーユニットを搭載。耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン。
  • 価格:オープンプライス
  • 形式:密閉式 / ダイナミック型
  • 周波数特性:3Hz~100kHz
  • インピーダンス:24Ω(@1kHz)
  • ドライバーユニット:40mmドーム型
  • ケーブル:1.2m着脱式 / 片出し
  • 重量:約225g(ケーブル除く)
  • カラーバリエーション:2色(ブラック、シルバー)
Pick Up Music
ボブ・ディラン「Blowin' in the Wind」
アルバム「The Freewheelin' Bob Dylan」Sony Music Japan International Inc.(※24bit / 96kHz FLACでの配信。販売はアルバム単位のみ)
「The Freewheelin' Bob Dylan」

1963年にボブ・ディランが2ndアルバム「The Freewheelin' Bob Dylan」の収録曲として発表。Peter, Paul and Maryがカバーしてヒットし、ディランの名を世界的に知らしめた。1960年代のアメリカを代表する楽曲として、リリースから50年以上経った現在でも人気が高い。邦題は「風に吹かれて」。

Gotch ライブアルバム「Live in Tokyo」only in dreams
「Live in Tokyo」
アナログ盤 2014年11月19日発売 [アナログ+CD] 3888円 / ODJP-002
CD盤 2014年12月3日発売 [CD] 2300円 / ODCP-008
ハイレゾ音源 2014年12月3日発売 / 2300円 ※フォーマット:24bit / 48kHzのWAV
収録曲
  1. Humanoid Girl
  2. The Long Goodbye
  3. Can't Be Forever Young
  4. Stray Cats in the Rain
  5. Aspirin
  6. Route 6
  7. Blackbird Sings at Night
  8. Only Love Can Break Your Heart(ニール・ヤング カバー)
  9. Great Escape from Reality
  10. Lost
  11. Nervous Breakdown
  12. A Shot in The Arm(Wilco カバー)
  13. Sequel to the Story
  14. A Girl in Love
  15. Wonderland
  16. Baby, Don't Cry
Gotch(ゴッチ)
Gotch

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo, G)のソロプロジェクト。2010年に自主レーベル・only in dreamsを発足し、2012年8月にライブ会場と通販限定でアナログ7inch「LOST」を発表した。2014年4月にはジョン・マッケンタイア(Tortoise、The Sea and Cake)をミックスエンジニアに招いた初のソロアルバム「Can't Be Forever Young」を発売。11月にはこのアルバムを携えた全国ツアーの東京公演を収めたライブアルバム「Live in Tokyo」をアナログでリリース。12月には同ライブアルバムをCDとハイレゾ音源で発売する。また音楽活動と並行し、自ら編集長を務めるメディアコンテンツ「THE FUTURE TIMES」を発行している。

中村研一(ナカムラケンイチ)
中村研一

山口県出身、1972年生まれのサウンドエンジニア。日本工学院八王子専門学校卒業。フォリオサウンドスタジオ、グルーブワンを経て2011年よりフリーランスに。木村カエラ、Base Ball Baer、RADWIMPS、ゆず、チャットモンチーなどを担当するエンジニアとして知られる。ASIAN KUNG-FU GENERATIONとはデビュー当時より作品作りをともにしており、11月にリリースされるGotchの「Live in Tokyo」も担当している。


2014年11月17日更新