ナタリー PowerPush - 水樹奈々

未来へつながる“歌謡曲”の力

冒頭3曲はアルバムの心臓部分

──前作発売時のインタビュー(参照:水樹奈々「ROCKBOUND NEIGHBORS」インタビュー)でも「非常にハイカロリーなアルバム」というお話をしましたけど、今作も全15曲という相変わらずのボリュームで(笑)。

あはは(笑)。今回もそうですね(笑)。今回も。

──盛りだくさんではありますが、ぜひ1曲ずつ制作過程などをお聞きしたいなと。まずは1曲目の「VIRGIN CODE」。シンフォニックなハードロックで、かつ歌謡曲がベースにある、水樹奈々の王道とも言える楽曲で。ここから頭3曲、エネルギーの過剰な楽曲の畳みかけ具合はいかにも水樹さんらしいですね。

はい。アルバムの心臓部分ですね、まさに。

──幕開けにすごくふさわしい楽曲ですけど、制作段階から「これはオープニングだな」という感じはありました?

ありました。でもこの曲ができあがったのはアルバム制作の最終段階で、2月末なんですよ(笑)。「VIRGIN CODE」と「アパッショナート」は最後まで「タイトル未定」で、ギリギリまで練りに練っていました。上松(範康。Elements Gardenの中心人物で、水樹の楽曲を数多く手がける)さんには「10枚目のアルバムを飾る、ドカーン!とぶちかますような曲をお願いします。できるだけ削ぎ落として、直球で」とだけ伝えて。きっと1曲目とは思っていたのですが、曲の最終的な姿を見て全体の曲順を決めようと思っていて。でも、聴いた瞬間に「オープニングはこの曲しかない!」って(笑)。

──続く2曲目の「GUILTY」も盛り上がりをグッと煽るような曲だけど、サウンド的にはこれまでの水樹作品にはなかった、変化球のダンストラックですよね。

ダンスチューンが2曲目に来るというのもあまりない流れだったし、あれだけド派手な1曲目の後だと、並大抵の曲では2番バッターが任せられないと思ったんです(笑)。

──きれいに3番バッターにつなげなくちゃいけない(笑)。

それだけのパワーのある子を持ってこないとなって考えたときに「GUILTY」だなって。

水樹奈々流“多国籍メタル”の誕生

──そして3番バッターが、アルバムのリードトラックでもある水樹さん作詞・作曲の「アパッショナート」と。この曲はハードロックというより、もうメタルですよね(笑)。

メタルですね(笑)。

──すごく気になったのが、水樹さんはもともとメタルを想定してこの曲を書いたのかどうかなんです。

メタル想定で作りました(笑)。三嶋さんから、まず「今回は10枚目だから、記念すべきアルバムのリード曲はお奈々が書きなさい」と言われて。そんな大役を、と思いつつ「がんばります!」と答えたら「メタルでお願いね」って(笑)。新しい扉を開けることに意味があるということで。でも私メタルはあまり聴いてこなかったし、できるんだろうかって悩んで悩んで……でも、いろんなメタルの曲を聴いているうちに、自分なりの共通項が見つかったんです。メロディラインがどことなく歌謡曲なんですよ。

──歌謡曲であり、ある意味演歌とも共通するものがあるんですよね。マーティ・フリードマンさんも演歌とメタルの近似性についてよく話しています。北欧メタルとか。

私が聴いてたのもまさに北欧メタルなんです。初めて聴くものなのに、どこか懐かしさがあって。「なんだろうこの心地よさは……あっ、歌謡曲なんだ!」って。ただ歌謡曲のようなメロディをメタルアレンジにするだけではつまらないと思ったので、民族楽器の音色を取り入れたオリエンタルなムードのある楽曲はどうだろう?って考えたんです。北欧系のバグパイプや南米のスパニッシュギター、バンドネオンとか。アルパも入ってますし、いろんな地域の音色が混じっているメタルってあまり聞いたことがないし素敵かなって。

──多国籍メタル(笑)。ドラムはスラッシュビートで、ギターはライトハンドで、かつその上に各地の民族楽器が鳴っているという。この過剰さは「水樹奈々のメタル」だなと思いました。

やったー!(笑)

「民衆を導く自由の女神」のように

水樹奈々『アパッショナート』MUSIC CLIP(Full Ver.)

──ビデオクリップも凝った映像で。

そうなんです。フクロウを携えて(笑)。

──フクロウって鳥類の中でもミステリアスな生き物ですよね。なぜフクロウを?

これは監督のアイデアですね。監督が「フクロウを乗せたい」っておっしゃって(笑)。「アパッショナート」を聴いて歌詞を読んだ率直なイメージで絵コンテを起こしていたら、羽根が生えて飛び立つイメージが浮かんできて、鳥を登場させたいと考えたときに浮かんだのがフクロウだったんだそうです。

──雄々しく羽ばたく鳥ではなく、あの怪しいフォルムのフクロウを携えている。それが監督の思い浮かべた「アパッショナート」のイメージだったと。

はい。監督は「歌詞が脚本だと思っている」といつもおっしゃっていて、そこから映画を撮るように自分なりの解釈を映像に起こしてくれるんです。

──水樹さんはどういうイメージでこの歌詞を書いたんですか?

「SUPERNAL LIBERTY」のリード曲ということでイメージしたときに、ドラクロアの絵画「民衆を導く自由の女神」が浮かんだんです。フランス革命の時代における自由は、抑圧された中から自由を手にするという過酷なものですが、それを現代に置き換えると、自分の可能性を自分で封じているようなところがあると思ったんです。自分を解放することで得られる自由を歌詞で描けたらなって。それは私がこの数年間で感じたことでもあったし……。私は自分を表現するのがヘタなタイプの人間なので(笑)、歌を歌っているときが一番素直でいられると思っていたんです。でも初めて自叙伝(2011年1月刊行「深愛」)を書いたときに、自分で作った枠の中で自由になっていただけだったんだなって気が付いて。そこを一歩飛び出してからの3年間は、毎日が楽しくて楽しくて。「こんなことができたんだ、私」ということにいっぱい気付いた時間だったんですよね。実感した思いや「こうありたい」という願望を言葉にしました。

──ちなみにタイトルの「アパッショナート」は、英語で言うところの「パッション」と同じ……。

はい。「情熱的に」のイタリア語なんですけど、譜面に記される音楽用語でもあるんです。

──それが「Appassionato」ではなくカタカナ表記なのが、また歌謡曲っぽいですよね(笑)。子供の頃によく見た、意味はわからないけど響きに魅力を感じるタイトルというか。中森明菜さんの「ミ・アモーレ」ってなんだろうみたいな。

そうそう、そうなんです(笑)。イタリア語表記じゃなく、カタカナでわかりやすく書くのがいいなと思って。

ニューアルバム「SUPERNAL LIBERTY」 / 2014年4月16日発売 / KING RECORDS
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3888円 / KICS-93036
初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / KICS-93037
通常盤 [CD] 3024円 / KICS-3036
CD収録曲
  1. VIRGIN CODE
    [作詞:Hibiki / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  2. GUILTY
    [作詞:SAYURI / 作曲:藤末樹・Ramon Riu / 編曲:角田崇徳]
  3. アパッショナート
    [作詞・作曲:水樹奈々 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  4. 笑顔の行方
    [作詞:吉田美和 / 作曲:中村正人/ 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  5. アンティークナハトムジーク
    [作詞:藤林聖子 / 作曲・編曲:古川貴浩]
  6. Fun Fun★People
    [作詞:菜穂 / 作曲・編曲:h-wonder]
  7. FATE
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:陶山隼]
  8. Vitalization -Aufwachen Form-
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:上松範康・菊田大介(Elements Garden)]
  9. 哀愁トワイライト
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:宇佐美宏]
  10. セツナキャパシティー
    [作詞・作曲:丸田新 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  11. Ladyspiker
    [作詞:しほり / 作曲・編曲:中野領太]
  12. Rock you baby!
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:遠藤直弥 / 編曲:角田崇徳]
  13. Million Ways=One Destination
    [作詞:前山田健一 / 作曲:伊藤賢治・前山田健一 / 編曲:伊藤賢治]
  14. 僕らの未来
    [作詞・作曲・編曲:矢吹俊郎]
  15. 愛の星 -two hearts-
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)・上松美香]
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • オリジナルドキュメンタリー「なつのカケラ ~ 水樹奈々 2013夏の出来事」-SPECIAL EDITION-
  • 「SUPERNAL LIBERTY」PHOTO SHOOTING
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。2013年には台湾にて初の海外公演を行い、同年末には5年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2014年4月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SUPERNAL LIBERTY」をリリース。