音楽ナタリー Power Push - マキタスポーツpresents Fly or Die

マキタスポーツがV系アーティストになった理由

マキタスポーツpresents Fly or Dieは、独自の音楽分析で一躍知名度を上げたマキタスポーツが、「ダァ様」ことDar'k~nessの名で自らボーカリストとなって活動するヴィジュアル系ロックバンドだ。彼らはもともとテレビ東京系「ゴッドタン」の人気コーナー「芸人マジ歌選手権」の中であくまでネタとして誕生したバンドだが、その後本格的にライブ活動を開始。ロックフェスなどさまざまなイベントに出演しながらファン層を拡大し、1月20日に1stアルバム「矛と盾」をリリースする。

このアルバムにはアニメ映画「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」の主題歌「とぅ・び・こん・にゅ」や、大森靖子が作詞を担当した「あいしてみやがれ」、そして「芸人マジ歌選手権」にてすでに披露されている「残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ」などを収録。バラエティ番組の企画から生まれたバンドというイメージを打ち砕く、100%本気のヴィジュアル系ロックを聴くことができる。

Fly or Dieがヴィジュアル系に真摯に取り組む意図はなんなのか。そもそも彼らはなぜ数ある音楽ジャンルの中からヴィジュアル系を選んだのか。首謀者であるマキタスポーツに話を聞いた。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 西槇太一

ようやく原点の音楽活動に戻ってきた

──まずFly or Dieを始めることになった経緯を教えてください。

マキタスポーツ

Fly or Dieはテレ東の「ゴッドタン」の「マジ歌選手権」っていうコーナーから生まれたバンドで、わりと好評だったのでその後もいろいろやらせてもらうようになりました。でも僕はもともと「マキタ学級」っていうバンドでずっと活動してて、Fly or Dieはそのメンバーでやってるんですよ。だからほかの「マジ歌」に出てる出演者たちとはちょっと立ち位置が違うんですよね。番組用に用意されたバンドメンバーたちを引き連れて出演したわけじゃなくて、Fly or Dieは番組の企画より先に実体があったので。「マジ歌」で最初にやった「Virgin Marry」っていう曲も、15年ぐらい前からマキタ学級でやってる曲なんです。ただ、当時のタイトルは「Virgin Marry」ではなくて「おかあさん」だったんですけど。

──「おかあさん」は2013年に発売されたマキタさんのソロアルバム「推定無罪」に入っていますよね。

そうです。ちょうどマキタ学級を始めた15年くらい前に、ヴィジュアル系ロックがオーバーグラウンドで評価されるようになって、LUNA SEA、L'Arc-en-Ciel、GLAYみたいな人たちがすごいセールスを上げてるのを見て、彼らを題材にしたパロディソングをやりたいと思って作ったのが「おかあさん」です。

──そんな昔からやっている曲を「マジ歌」で歌うことになったのはなぜですか?

番組のプロデューサーから「なにか『マジ歌』でできるものはありませんか?」って相談をいただいたときに、「マキタ学級にこういう曲があるんで」って話をしたら気に入ってもらえて。もともとは6分くらいの曲だったので、テレビ向けに短く圧縮して、さらに番組にあわせて面白くなるように歌詞や曲調をリアレンジして「Virgin Marry」を作りました。

──その後Fly or Dieとしてのパーマネントな活動を開始したのは、番組で手応えを感じたからですか?

Fly or Dieは番組発の企画ではあるんですが、僕はライブを通じてずっと「笑いを含むエンタテインメントショー」を作ってきたので、それまでの音楽活動とあんまり齟齬なくやれてるんですよ。自分としてはニッチでマニアックなことだけをやってるつもりはないし、僕がやってる音楽エンタテインメントってもっと可能性があるはずだと思ってるんです。でも以前まで僕がやっていたことは、大衆性がないというか、批評的な部分が強すぎてお客さんを選んでしまっているところが強くあったので、自分でも「つまらないな」って限界を感じたんですね。だからちょうどあの頃、思い切って何か方向転換を図りたかったというのはあります。

──それまでのバンドに行き詰まりを感じていた部分があったんですね。

実は何年か前に1度、メンバーに「バンド活動を休止させてほしい」って言ったんです。僕1人でバンドの広告塔になるために、メディア人としていろいろやれることをやろうと思って。

──将来のバンド活動のために、一旦バンドを休止して芸能の活動に力を入れたと。

そうです。例えば、僕の曲に「上京物語」っていう長渕剛さんのパロディソングがあるんですけど、もともとは別に長渕さんの扮装で歌ってたわけではなくて、バンドがライブで演奏するセットリストの1曲として素のまま歌ってたんです。それをテレビ向きに変えることで、お茶の間で名前を売って音楽活動にお客さんを呼ぼうとしたわけです。「おかあさん」を「Virgin Marry」に変えて「マジ歌」でやったのもそういうことで。だから今の自分の気持ちは「ようやく原点の音楽活動に戻ってきた」というのがホントのところです。

理屈っぽいやつばっかりでもう限界だと思った

──もし「マジ歌」に出ていなかったら、バンドを再開したとしても今のようなキャラクターではなかったかもしれませんね。

マキタスポーツpresents Fly or Dieのライブの様子。(撮影:はぎひさこ)

でも「マジ歌」に出る話とは関係なく、「バンドが復活するときは、お化粧をするなりして変わりたい」っていう気持ちがあったんです。本音を言うと「なんで今までお化粧をしてこなかったんだろうな」って思うところもあって。前にLUNA SEAの真矢さんとお話したときに聞いたんですが、真矢さんが音楽活動を始めたときはヴィジュアル系という言葉はなくて「お化粧系」と呼ばれていたんです。この呼び名には、質実剛健なことを美徳とする風潮の中で男が化粧してバンドをしていることへの蔑みが込められてたんですけど、それについて真矢さんは「いや、そもそもモテたくてバンドやるんだからさ」「俺らも化粧してキャーキャー言われたいじゃん」って言ってたんですよ。これを聞いて僕は「素直じゃなかったな」「モテたくてバンド始めたくせに、なぜ化粧することを選ばなかったんだろう」ってことに気付いちゃって(笑)。

──なるほど(笑)。

あと、大衆向けの道化としてのキャラクターを演じてみたくなったっていうのもあります。RCサクセションのライブで忌野清志郎さんが突然メイクしてステージに上がったみたいな、あるいは小沢健二さんの王子様キャラみたいな。その選択肢の1つがV系というキャラだったんです。ただ、バンドのメンバーに「お化粧したいんだけど」とは非常に言いづらかったですけどね。例えば、長年連れそった奥さんに「この制服を着てほしいんだけど」とか急に言えないじゃないですか(笑)。それと同じような感覚があって。

──わかりやすい例えです(笑)。

やっぱりミュージシャンとして人前に立ってパフォーマンスをやるからには、突き抜けた表現をしたいんですよね。僕はそれまで眉間にシワを寄せたような気難しい曲とか、すごくリテラシーの高い人たちに向けたニッチで批評成分が強い曲とか、「突き抜ける」っていうのとは真逆な音楽ばっかりやってきたから。それだとお客さんも似たような感じになっていくんですよ。理屈っぽいやつばっかりで、女の子が全然いないし。

──はははは(笑)。

これは非常に寂しかったです(笑)。僕が作るフロアの雰囲気が「わかる人にわかる」っていうものになっていった結果、やってる自分自身が心底つまらなくて退屈を味わってしまった。もう限界だと思った。

──それを打開するために選んだのがV系だったと。

それもあるんですけど、お化粧をするとメンタル面が変わるんですよ。自分の中で抑制して、あんまり表に出しちゃいけないと思っていた「カッコつけたい」っていう気持ちが、ブーストをかけたみたいに大袈裟に出せる。それで笑う人は笑うと思うんですけど、うっかり「カッコいい」って思っちゃう人もいるんですよね。「突き抜ける」っていうのはそういうことなんです。

マキタスポーツpresents Fly or Die 1stアルバム「矛と盾」2016年1月20日発売 / 日本コロムビア
CD 3240円 / COCP-39407
アナログ盤 “Dark’~ness Special Version” 4860円 / COJA-9302
CD収録曲
  1. 約束
  2. ダーク・スター誕生
  3. 矛と盾
  4. とぅ・び・こん・にゅ
  5. ロンリーワルツ
  6. 怨歌~あんたじゃなけりゃ
  7. 普通の生活
  8. 愛は猿さ
  9. 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
  10. あいしてみやがれ
  11. The theme of F.O.D
アナログ盤“Dark’~ness Special Version”収録曲
SIDE A
  1. The theme of F.O.D
  2. ダーク・スター誕生
  3. 矛と盾
  4. ロンリーワルツ
  5. 愛は猿さ
SIDE B
  1. 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
  2. 約束
  3. 普通の生活
  4. 怨歌~あんたじゃなけりゃ
  5. あいしてみやがれ
マキタスポーツ presents Fly or Die
(マキタスポーツプレゼンツフライオアダイ)
マキタスポーツ presents Fly or Die

テレビ東京系バラエティ番組「ゴッドタン」の企画から誕生した、マキタスポーツ扮するDar'k~ness(Vo)率いるヴィジュアル系ロックバンド。メンバーはDar'k~nessのほか、背☆飲(G)、♨︎堕(B)、魅蛙(Key)、内野くん(Dr)という編成。番組内での活動にとどまらず、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」「COUNTDOWN JAPAN 15/16」といった大型フェスなどさまざまなイベントでライブを展開している。2015年4月にはBSスカパー!で放送された連続ドラマ「PANIC IN」では「あいしてみやがれ」が主題歌として使用され、同年9月公開のアニメ映画「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」では主題歌として「とぅ・び・こん・にゅ」を提供。2016年1月には1stアルバム「矛と盾」をリリースする。