音楽ナタリー Power Push - マキタスポーツpresents Fly or Die
マキタスポーツがV系アーティストになった理由
ドリフのような普遍的な音楽
──Fly or Dieとしてのアルバムを1枚完成させてみて、感想は?
僕自体の体力が弱まってきてるのか(笑)、すごくコンセプチュアルなものとか、企画性がしっかりしているものを作るのは疲れますね。ライブも1曲入魂みたいな気分でやってますしね。当初は曲の合間にV系様式美を利用したコントを入れるとか、そういうことも考えてたんですよ。いつもライブでやってることなんで。でもそれをやると嘘っぽくなるような気がしたからやめたんです。それに、笑いって鮮度があるから「1回聴けば十分」みたいになって、やがて聴いてもらえなくなるのがキツいなって。
──あー、確かに何度も聴く人はコント部分を飛ばすかもしれないですね。
子供の頃からスネークマンショーとかが好きだったんですけど、あれの何が好きだったのかっていうと、合間にYMOが流れたりするDJ感だったりして。桑原茂一さんが作ったあの世界観自体がオシャレで好きだったんですよ。でもコントをずっと聴き続けてるかっつうとそうでもねえしなあって。そもそもあのコント、めっちゃくちゃ面白かったのかっていうと、甚だ疑問ですし(笑)。
──ははは(笑)。でもリアルタイムで接した人は面白がっていたはずですよね。
時代的なものもあったと思いますね。あれだけ笑い転げてた「オレたちひょうきん族」を今DVDで観ても、たぶんダメなんですよね。ロジカルにコントを作ってるドリフは今観ても面白いけど、時代性とか文脈みたいなものがリテラシーとしてないとダメなギャグは、時間が経つと笑えなくなる。
──確かにそうかもしれませんね。
僕が好きなタイプの笑いはそういう移ろいやすいものだったりするんだけど、音楽はドリフのような普遍的なものにしたいんです。何回聴いてもドキドキするポップスをちゃんとロジカルに作りたい。僕が音楽活動で笑いを目的にしないのは、笑いと音楽でそれぞれ目指してるものが違うからなんです。
──笑いとしてフレッシュさを保ちつつ音楽的にも耐用年数が長い、みたいに2つを両立させるのは難しいんですかね。
タモリさんの最初のアルバム(1977年発売「タモリ」)って、お笑いでありつつ音楽的であろうということをしてたんだと思うんです。ネタとしてはオチもなくナンセンスで、どこが面白いかわからないようなものもいっぱい入ってる。でも音楽的にエモーショナルな瞬間があったりして、そのおかげでぼんやりと面白くなってくる。あれはたぶん意識的に理詰めで作られたものだと思う。僕はあれを音楽のアルバムだと思って聴くようにしてるんですよ。ネタとして聴くと飽きちゃうかもしれないけど、音楽作品だと思うと何度もずっと聴ける。
次は海外進出
──Fly or Dieをこれからどうして行きたいと思ってますか?
ロックとかヴィジュアル系とか、そういうくくりを取っ払って越境したいです。V系って音楽的には雑食でどんどんボーダーレス化してるけど、なんとなくイデオロギーのようなものが分かれてる感じがあるじゃないですか。V系はほかのジャンルと比べても特に島意識が強いと思う。そういうのにお構いなく、ジャンル間を反復横跳びしたいですね。僕は越境者として、いろんなジャンルの外圧みたいな存在になれたらいいかなと思ってます。
──1つのシーンの中で生まれ育った人が周りを囲む垣根を壊すのは難しいかもしれないけど、マキタさんみたいに外部から来た人がかき回していくほうが、もしかしたらシーンに影響を与えやすいかもしれないですね。
そうですね。内側で島意識を守ろうとする人もいると思うんですけど、僕みたいな、真ん中にいる人じゃない人の役割もあると思うんです。ジャンルを背負っちゃうことの責任って、同時にすごい退屈さも生んでしまうものなんです。だから思想とか理念とか関係なく、いろんなことに無責任である人のほうがシーンを活性化して面白くできると思うんですよ。
──ちなみにマキタさんの中で、Fly or Dieに次ぐ新しい音楽プロジェクトを構想していたりしますか?
ああ、ありますあります。例えば海外に出て活動してみたいとか。
──あー、なるほど。マキタさんが考える日本のポップスの公式が、海外にどのように通用するのかっていうのは面白そうですね。
僕はわりと今まで、本を書いたりとか、ラジオでパーソナリティとしてしゃべったりとか、言葉を使っていろいろやってきたんですけど、 今は身体表現にすごく関心があるんです。言葉に縛られずやれる表現に挑戦してみたいって。もちろん音楽もそのうちの1つだとは思うんですけど、それだけではない、笑いを含む総合的な音楽エンタテインメントショーを英語圏や中国語圏でやってみたいと思ってます。The Beatlesとかエルヴィス・プレスリー、マイケル・ジャクソンとかみんなが知ってる世界的なアンセムを崩して、笑いを潤滑油に使いながらのショーをしたいんです。Fly or Dieも海外でやってみたいし。
──この先マキタさんがどうなっていくのかを、すごく楽しみにしてます。
僕という存在が消えたあとに、僕のやったことが全部インスタレーションに見えればいいなと思ってるんです。ともすれば僕のことを器用貧乏だと揶揄する人もいますけど、だったら完全なる器用貧乏で終えてやろうって思います。
- マキタスポーツpresents Fly or Die 1stアルバム「矛と盾」2016年1月20日発売 / 日本コロムビア
- CD 3240円 / COCP-39407
- アナログ盤 “Dark’~ness Special Version” 4860円 / COJA-9302
CD収録曲
- 約束
- ダーク・スター誕生
- 矛と盾
- とぅ・び・こん・にゅ
- ロンリーワルツ
- 怨歌~あんたじゃなけりゃ
- 普通の生活
- 愛は猿さ
- 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
- あいしてみやがれ
- The theme of F.O.D
アナログ盤“Dark’~ness Special Version”収録曲
SIDE A
- The theme of F.O.D
- ダーク・スター誕生
- 矛と盾
- ロンリーワルツ
- 愛は猿さ
SIDE B
- 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
- 約束
- 普通の生活
- 怨歌~あんたじゃなけりゃ
- あいしてみやがれ
マキタスポーツ presents Fly or Die
(マキタスポーツプレゼンツフライオアダイ)
テレビ東京系バラエティ番組「ゴッドタン」の企画から誕生した、マキタスポーツ扮するDar'k~ness(Vo)率いるヴィジュアル系ロックバンド。メンバーはDar'k~nessのほか、背☆飲(G)、♨︎堕(B)、魅蛙(Key)、内野くん(Dr)という編成。番組内での活動にとどまらず、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」「COUNTDOWN JAPAN 15/16」といった大型フェスなどさまざまなイベントでライブを展開している。2015年4月にはBSスカパー!で放送された連続ドラマ「PANIC IN」では「あいしてみやがれ」が主題歌として使用され、同年9月公開のアニメ映画「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」では主題歌として「とぅ・び・こん・にゅ」を提供。2016年1月には1stアルバム「矛と盾」をリリースする。