音楽ナタリー Power Push - マキタスポーツpresents Fly or Die
マキタスポーツがV系アーティストになった理由
V系は「観客本意の芸能」
──ヴィジュアル系アーティストとして2年間活動してみて、何か新しい発見はありましたか?
今まで僕がやってこなかったことが実はすごく詰まってるなと気付かされました。ある種アイドルにも共通するんですけど、V系は「観客本意の芸能」っていう感じがして。アーティストが「僕のやることを見てください」っていうんじゃなくて、お客さんがしてほしいことがものすごく考えられてる。お客さんを異世界や非日常に案内するために、いろんな予定調和とか様式美を用意してあげている。バンギャと演者の主従関係が逆転してるんですよ。
──ああ。
彼らはライブをしながらすごくマーケティングリサーチをしてるんです。工夫と行き届いたおもてなしで、お客さんがしてほしいことをどのようにかして達成してみせる。人気がないボーカリストは簡単に変えますしね。
──一般的なギターロックバンドとは別物ですか?
そう思います。どちらかというとホストの世界に似てるんですよ。ライブのフロアの雰囲気は極めてサパー的。「コール選手権」化してきてる印象です。
──その部分を突き詰めるとバンドである必要がなくなりそうですね(笑)。
まさに。お客さんが求める方向にカスタマイズしていくことに敏感なジャンルなので、生バンドである必要性がどんどんなくなってきた結果、ゴールデンボンバーのようなバンドが出てきたわけで。僕はV系っていうのは音楽ジャンルというよりもビジネスモデルだと思ってます。お客さんというわがままなマゾヒストを、サービス満点なサディストがしっかり満足させてあげるという構図。やっぱり様式美があるので僕も一応お客さんを罵ったりするんですけど、「メス豚め!」っていうとみんな「キャー!」って喜ぶんですよ。これって実は、僕は言わされてるんじゃねーかって気がしてきますよね。
Fly or Dieは嘘のない音楽
──今回のアルバムを作る上で意識したことは何かありますか?
誰もが楽しめる音楽をやることが、今の世の中的に一番カウンターになるんじゃないかなと思ってるんです。それぐらい、今はコミュニティが分断されていて、人の好みがいろいろ細分化されてるわけじゃないですか。それぞれの分野に対して機能的な音楽はいっぱいあるけど、僕はそういう垣根を取っ払ったうえでみんなが楽しめる音楽にチャレンジしてみたいと思ってました。
──確かにその気持ちは今回のアルバムを聴いて感じました。あまり言い方はよくないかもしれないけど「普通にいいな」と。センスが尖ったリスナーだけに届くような音楽ではなかったと思います。
それは意識してました。
──予想以上にシリアスな内容だなとも思ったんですが、例えば、よくあるノベルティソングみたいなものを作る気はなかったんですか?
ないですね。僕は笑いが目的なんじゃなくて、笑いはあくまで手段なんです。ほかの音楽ネタをやってる方と僕との違いはそこだと思います。僕は「ノベルティソングがなぜ面白く聴こえるのか」っていうことについて、構造的に分析して自分なりの公式を見つけて、本(2014年刊行「すべてのJ-POPはパクリである【現代ポップス論考】」)を通して提示してきたので、今その構造にハマった「笑える曲」を作るのは少し違うのかな、と。僕が考えるに、ノベルティソングっていうのは「人格 / 企画」っていう分数表示の構造になっていて、分母と分子のズレが面白さになっているんです。Fly or DieはあくまでキャラクターとしてV系をやってるんですけど、やってることはマキタ学級というバンドの曲なんで、マキタスポーツが歌う曲として嘘のない音楽なんです。
──なるほど。
「残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ」みたいに、完全にノベルティソングと言えるような曲もやってますけどね。あれは自分の中で公式に基づいて計算して作った曲ですよ。
──“典型的なアニソン”のパロディ、という感じの曲ですよね。
そうですね。あと「歌うますぎる人って面白いでしょ?」っていう曲です。歌がうまい人たちの“歌うま合戦”がどんどんインフレーションしていく、っていうネタですね。
──ははは(笑)。ただ「マジ歌」であの曲が披露されたときはみんな「歌がうますぎ」ってことで笑っていましたが、たぶんラジオや有線で音源だけを耳にしたら、みんなきっと「普通にカッコいい曲」として認識すると思うんですよね。
あの曲はノベルティソングのつもりで作ったものの、実は僕もすごく気に入ってるんです。「Virgin Marry」もそうですが、笑いながら聴いてくれるお客さんがいる一方で、うっとりと聴いてる人もいて。僕自身も「いい曲だなあ」って思いながらうっとりとして歌ってるんですよ(笑)。歌を聴いて笑ってる人もいるのはありがたいですけど、歌う側がそういう気持ちを持つことは大事だと思ってます。
紅白を目指さないで何が表現者か
──今まで評論家的な視点でJ-POPを分析してきたマキタさんが、実際にJ-POP作りにまじめに取り組むというのは、けっこう勇気がいることなんじゃないかという気もするんですが。自分の作品に対して、「ヒットの法則みたいなことをいろいろ言ってたわりに、たいしてできてねえじゃん」みたいに反応される可能性もなくはないわけで。
まあまあまあ、そうですね。でもそれは引き受けざるを得ないですね。仕方がないことかなと思います。
──それをもってしても、バンドで表現したいことがあったという。
はい。このアルバムのタイトルをなぜ「矛と盾」にしたかというと、今の時代「誰もが楽しめる音楽」っていうのはすごく矛盾したことだと思ってて。でも僕は今、その「誰もが楽しめる音楽」が一番やってみたいことなんです。
──先ほど「誰もが楽しめる音楽をやることが、今の世の中的に一番カウンター」って言っていましたね。
「みんなが楽しめるものを作る」っていうのは困難で難しいことだけど、今取り組まないといけないことだと思ってます。時代にないものを作ろうとしないで、何がアーティストなんですかって思うんですよ。
──完成した今回のアルバムを自分で聴いてみて、そこに達したものになっていると感じますか?
どうだろう。僕が今感じていることとか、自分の中にある批評精神とか、心の高まり、表現したいこととかを詰めたものにはなってるって自分では自信を持って言えます。それが時代に対してハマったものなのかどうかはわからないけど、僕は「みんなで楽しんでいただけるようなもの」というつもりで作りました。自分の頭の中では「これで紅白に出たい」とか思ってます。
──おお。
紅白っておかしな場じゃないですか。選挙で例えれば全国一区ですからね。ああいう場を目指さないで何が表現者か、と思います。
──マキタさんから見て「紅白歌合戦」のどこに魅力を感じます?
あのデタラメなキュレーションに、日本中のお茶の間でツッコミを入れてるんですよ。SNSとかを使って「わー、演歌歌手がここぞとばかりにはりきっちゃってる(笑)」って。出演者がボケで視聴者がツッコミという構造。でも出たほうが勝ちなんだから、アーティストはボケに振り切ったほうがいいんですよ。たぶん星野源くんなんかは、あの場が面白いってわかってたから出たんじゃないですかね。
次のページ » ドリフのような普遍的な音楽
- マキタスポーツpresents Fly or Die 1stアルバム「矛と盾」2016年1月20日発売 / 日本コロムビア
- CD 3240円 / COCP-39407
- アナログ盤 “Dark’~ness Special Version” 4860円 / COJA-9302
CD収録曲
- 約束
- ダーク・スター誕生
- 矛と盾
- とぅ・び・こん・にゅ
- ロンリーワルツ
- 怨歌~あんたじゃなけりゃ
- 普通の生活
- 愛は猿さ
- 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
- あいしてみやがれ
- The theme of F.O.D
アナログ盤“Dark’~ness Special Version”収録曲
SIDE A
- The theme of F.O.D
- ダーク・スター誕生
- 矛と盾
- ロンリーワルツ
- 愛は猿さ
SIDE B
- 残響FANATIC BRAVE HEART featuring 鈴木このみ
- 約束
- 普通の生活
- 怨歌~あんたじゃなけりゃ
- あいしてみやがれ
マキタスポーツ presents Fly or Die
(マキタスポーツプレゼンツフライオアダイ)
テレビ東京系バラエティ番組「ゴッドタン」の企画から誕生した、マキタスポーツ扮するDar'k~ness(Vo)率いるヴィジュアル系ロックバンド。メンバーはDar'k~nessのほか、背☆飲(G)、♨︎堕(B)、魅蛙(Key)、内野くん(Dr)という編成。番組内での活動にとどまらず、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」「COUNTDOWN JAPAN 15/16」といった大型フェスなどさまざまなイベントでライブを展開している。2015年4月にはBSスカパー!で放送された連続ドラマ「PANIC IN」では「あいしてみやがれ」が主題歌として使用され、同年9月公開のアニメ映画「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」では主題歌として「とぅ・び・こん・にゅ」を提供。2016年1月には1stアルバム「矛と盾」をリリースする。