ナタリー Super Power Push - きゃりーぱみゅぱみゅ

なんだこれ!?な2ndアルバム「なんだこれくしょん」

国民的ポップアイコンは音頭にたどりつく

4thシングル「キミに100パーセント / ふりそでーしょん」初回限定盤(左)、通常盤(右)ジャケット。

今回のアルバムはたいへん密度が高く、さまざまなバリエーションの楽曲が収められていて、以前にも増して“テーマパークアルバム感”が全面に打ち出されていますね。データファイル配信の時代に、アルバムを(その意味を問いながら)フォトブック仕様のパッケージで販売するというコンセプト=芸風も彼女がアーティストアイデンティティを確立した要因だと思います。特に冒頭の「なんだこれくしょん」には驚かされました。1曲目から“音頭”ですから(笑)。僕は国民的ポップアイコンは絶対に音頭にたどりつくと思っているんです。音頭をリリースしているのはみんな国民的アイドルで、例えばドラえもん、オバケのQ太郎、アラレちゃん、ちびまる子ちゃん、三波春夫、北島三郎、そしてTHE BEATLES(=金沢明子の「イエローサブマリン音頭」)、さらにはのりピー。ほかにもたくさんいると思いますが、要するに音頭というのは死者を供養する行事である盆踊りのための音楽で、独唱者は司祭であって、合いの手には老若男女、大人も子供もヤクザも商店街のおじさんもサラリーマンも参加する。皆がハレの日を共有するための音楽だし、そもそも祭り自体が感謝と祈りの装置ですし、ケの日常を耐え忍んでようやくはじける非日常の空間で、信頼における象徴がその空間を先導する必要がある。音頭にたどりついたということは、きゃりーもその地位に立っている証拠です。しかもこの「なんだこれくしょん」は音頭で始まって、途中からエレクトリカルパレードのように変調します。音頭でもありマーチでもある。しかもその展開が数十秒の間に行われるというまさに異形の楽曲です。

2013年6月、江崎グリコ「アイスの実」記者発表会で「アイスの実ックスマシーン」を手にポーズを決めるきゃりーぱみゅぱみゅ。

そして先述した「み」という曲もとことん振り切れた楽曲です。これは冒頭がファンコットで、中盤からゴルジェな展開をみせる驚愕のトラックで、忘我的境地に達するためのマントラでもあります。このアルバムにはそうした呪術的とも言える要素が多分にありますし、これはきゃりーぱみゅぱみゅが意味の世界から解放されたエクストリームな側面を持っているからこそ成立するものだと思います。今回のアルバムには純ナンセンスギャグとしか思えないような、究極の忘我領域まで突き抜けようとする新たなエネルギーを感じます。

テクノコンテクストから考えるきゃりーぱみゅぱみゅ

きゃりーぱみゅぱみゅのことを海外のテクノアーティストがどう捉えているのかという話も興味深いと思います。例えばサージョンはPerfumeの大ファンで、東京ドーム公演を観るためにわざわざ来日するほどのカルト信者です。そんな彼に「きゃりーぱみゅぱみゅはどう思う?」と尋ねてみたんですが、彼は「わからない」って言うんですね。確認したのはきゃりーぱみゅぱみゅのデビュー当時だったのですが、逆にそのときに僕はPerfumeがエレポップではなく、正統なテクノミュージックの歴史的文脈の上にも存在しているのだ、と再発見したわけです。

5thシングル「にんじゃりばんばん」初回限定盤(左)、通常盤(右)ジャケット。

それはつまり彼らがかつてYMOにエキゾチシズムを感じていたようにPerfumeに異国情緒を感じることができている。日本人女子3人が放つダンスと電子音楽、そして真鍋大度くん率いるライゾマティクスのプロジェクションマッピングとのコラボレート。そのアミューズメント / アートフォームに彼はテクノを感じている。つまりサージョンはあの時点ではまだきゃりーぱみゅぱみゅのエキゾチシズムを解析できていなかったのではなく、彼が言う「わからない」は、それがテクノの文脈から逸脱しているという意味だったんですね。つまりきゃりーぱみゅぱみゅはシュトックハウゼンの意思を継承するエレクトロニックミュージックの系譜には位置付けられるが、テクノではないということです。

原宿という異国に流れるエキゾチカ

エレクトロニックポピュラーミュージック(いわゆるエレポップではなく)の歴史を紐解くと、マーティン・デニーもディック・ハイマンも、エキゾチックミュージックのコンポーザーは皆MOOGの登場によってシンセを導入したという経緯があります。つまり当時、エキゾを表現するにはすでにシンセサイザーが必要だった。彼らはそれまでにハワイやオセアニアやハイチなど、さまざまな地域の楽園を理想的に夢想しながらエキゾチカを作曲していました。まだ海外旅行が自由化されておらずハワイに行くのも大変だった時代、現地に行けないその思いを音楽に託して我々日本人も未知の楽園を疑似体験していた歴史があります。そしてエキゾの探求の果てにあった装置が、なぜシンセサイザーだったかと言えば、つまりは究極のエキゾ=宇宙を表現するために、エスキヴェルのテルミンを超えて、当時の音楽家がシンセを求めたからです。宇宙=誰も行ったことがない世界。未踏の領域。世界地図にない空間。宇宙こそが究極のエキゾだという結論を見出して、その後このジャンルは衰退していきました。

2012年5月、1stアルバム「ぱみゅぱみゅレボリューション」のシリンダー広告が掲げられたラフォーレ原宿を背に、記念撮影するきゃりーぱみゅぱみゅ。

では今世紀におけるエキゾはどこにあるのか? 結論を言えばもうどこにもエキゾはないわけです。なぜならGoogle Earthでどの地域も観覧することができる(NASAとの連動で火星も月も青雲も)。だからインターネット以降のエキゾは逆にどんどん深堀りして、どの国のどの地域のどの地点なのか?というウルトラローカリズムの探求以外なくなった。そしてきゃりーぱみゅぱみゅの場合、それが原宿だったということです。きゃりーぱみゅぱみゅは原宿というエキゾチシズムを体感するためのアイコンでもあると。ならば原宿という街は実態を持たない街と言い切ることもできる。つまり逆エキゾチカです。きゃりーぱみゅぱみゅが夢想する世界が原宿で、だから彼女が原宿だと言ってしまえばそこが原宿であるわけです。つまり、きゃりーはハワイでありニューギニアであり宇宙でもある。その世界のBGMをコンポーズしているのが中田ヤスタカくんで、つまりきゃりーぱみゅぱみゅの音楽は“HARAJUKU”という“異国”に流れるエキゾチックミュージック。そんなカオスモスがこのアルバムの中で呼吸しています。

宇川直宏(うかわなおひろ)
宇川直宏

1968年生まれ、香川県出身。グラフィックデザイナー、映像作家、ミュージックビデオディレクター、VJ、文筆家、京都造形大学教授、そして“現在美術家”などなど、幅広く極めて多岐にわたる活動を行う全方位的アーティスト。2010年3月に個人で開局したライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」は、開局と同時に記録的なビューアー数を叩き出し、国内外で話題を呼び続ける。現在彼の職業欄には「DOMMUNE」と記載されている。2013年7月13日には千葉・幕張メッセにおいて東日本大震災被災地支援イベント「FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013」を開催。

2ndアルバム「なんだこれくしょん」 / 2013年6月26日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+DVD+フォトブック] / 3800円 / WPZL-30633~4
通常盤 [CD] / 3150円 / WPCL-11518
CD収録曲
  1. なんだこれくしょん
  2. にんじゃりばんばん
  3. キミに100パーセント
  4. Super Scooter Happy
  5. インベーダーインベーダ—
  6. ファッションモンスター
  7. さいごのアイスクリーム
  8. のりことのりお
  9. ふりそでーしょん
  10. くらくら
  11. おとななこども
初回限定盤DVD収録内容
  • 「ファッションモンスター」ビデオクリップ
  • 「ふりそでーしょん」ビデオクリップ
  • 「にんじゃりばんばん」ビデオクリップ
  • 「インベーダーインベーダー」ビデオクリップ
きゃりーぱみゅぱみゅ

1993年東京生まれ。フルネームはきゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ。高校生のときから原宿系ファッションモデルとして活動し、キュートなルックスとブログでの奔放な言動が話題を集める。2011年8月にはワーナーミュージック・ジャパンから中田ヤスタカ(capsule)プロデュースによるミニアルバム「もしもし原宿」でメジャーデビュー。2012年は5月に1stフルアルバム「ぱみゅぱみゅレボリューション」をリリースした後、初の全国ツアー、初の日本武道館ワンマンライブ、「NHK紅白歌合戦」初出場と怒涛の快進撃を続ける。2013年も1月、3月、5月にシングルを発表し、2月からはヨーロッパ、アジア、アメリカを回る初のワールドツアーを開催するなど、より精力的に活動。6月には2ndアルバム「なんだこれくしょん」をリリースした。