ナタリー PowerPush - 喜多村英梨

人気声優アーティスト、本格ヘヴィメタルを歌う

声優・喜多村英梨が1stアルバム「RE;STORY」をリリースした。1stシングル「Be Starters!」、2ndシングル「紋(しるし)」、3rdシングル「Happy Girl」と、所属レーベル・スターチャイルドからこれまで3枚のシングルを発表してきた彼女が今回のアルバムで選択したジャンルは、本格派のロックとヘヴィメタル。新録9曲はいずれも、高速ドラムとゴリゴリとした硬質なベースの上にハードに歪ませたギターリフが乗るサウンドを基調としており、さらにはジャズ調の「Baby Butterfly」やデジロックを彷彿とさせる「LOVE & HATE」など、ジャンルを横断する遊び心十分の楽曲も用意している。

今回ナタリーでは、喜多村に音楽的ルーツや声優としての職業意識など、これまでのキャリアを振り返ってもらうことで、この大胆な路線転向の理由と、そのヘヴィメタルサウンドの魅力に迫ってみた。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 笹森健一

(いい意味で)残念系の夏をエンジョイしてました

──オリンピックってご覧になってました?

ホントにインドア派というか、スポーツとかを努めて追いかけたりするタイプじゃないんですよ。みんながオリンピックで盛り上がってるときも、ひとりでiTunes Storeを漁って新しいアーティストを見つけたり、絵を描いたり、ゲームをしたり、自分の出ていないアニメとか洋画の吹き替え版を観て声優さんを当ててみたり、残念系の夏をエンジョイしてました。本人的には「いい意味で残念系」って言い張りながら(笑)。

──あはははは(笑)。そういうキャラって子供の頃からですか?

そうですね。芸能人の名前よりも声優さんの名前をたくさん知ってる感じというか(笑)。ドラマもみんなが観ているような旬のものは観ていたし、そういう作品が嫌いだったわけじゃないんですけど、TSUTAYAに行ってアニメを借りて観てるほうがはるかに多かったので、昔からスポーツに限らず三次元は弱いかもしれないですね。

──そんな少女が最初にハマった音楽って?

個人的には小さいときからアニメが大好きだったのでアニソンを聴きつつ、休み時間みんながドッジボールとかをしている時に、ひとりで教室で自由帳にマンガを描いたりポエムを書いたり、そのマンガやポエムの世界に合うBGMを探したりしてました。そこまでやり込むタイプではないんですけど、ゲームも好きだったから格ゲーなんかに使われそうなロックやメタルみたいなバンドサウンドとか、ゲームミュージックのオーケストラバージョンのカバーとか、ジャズやボサノバでのカバーなんかを聴いてみたり。あと、それとは別に母親が昔バンドを組んでいたこともあって、自分の聴いている音楽を娘である私にも聴かせていたというか、強要してきたというか(笑)。母親の薦めるR&Bとか、サウス系のヒップホップとか打ち込みモノとかフュージョンなんかを聴かされ、ダンス教室にも通わされてて。で、そういうのもカッコいいなってことで、二次元的なサントラや特典目当てのアニソン目当てでTSUTAYAやHMVやタワレコに行っても、それだけ買ってくるんじゃなくて、いろんなジャンルの試聴コーナーで漁って、気になったら名前も読めないような海外のアーティストさんのCDも買ったりもするようになってました。

──雑食だったということ?

ええ。誰か特定のアーティストをアイドル視するというよりは、私にとって音楽ってどこか自分のBGM的な存在なんですよ。自分が今置かれている環境や気持ちとか、やっていることによって聴くジャンルが変わる、みたいな。寝るときも音楽を聴きながらじゃないとムリって感じだから、よくヘッドホンを断線させてましたし(笑)。今も結構そうで、隙あらば音楽を聴いていることが多くて。デッキのアンプにBOSEの低音用のスピーカーを噛ませて「どんだけ重低音効かせてんねん」みたいな感じでいっつも爆音で聴いてます(笑)。

──ソフトだけじゃなくてハードにもこだわりますか(笑)。

「機械できなーい」ってキャラではないですね。小学生の頃から結構そうで、MDが流行った時代、ビデオを持ってなかったから、アニメを録音して挿入歌の部分だけ切り貼りして聴くみたいなこともしてましたし。それこそスポーツをするとか、身体を動かすっていう意味では男勝りなところはなかったんですけど「女の子はヒラヒラした服で」「パステルカラー命」「キラキラしたペンを集めましょう」みたいなことはどこか鼻で笑ってたような子供だったんで(笑)。中性的なキャラになって男と女両方のオイシイとこ取りをしたいというか、「男の手は借りん!」「女ともつるまん!」って感じというか。孤高の狼を気取ってみたかったんです。そんなクソガキ、ただの厨二でした(笑)。

自分の歌にできるかもって思える曲が好き

──その孤高の狼時代に特に好きで聴いていたアーティストって?

いや、今も狼、ナウ孤高の狼なんで(笑)。

──すみませんでした! じゃあ孤高の狼誕生の頃は特に誰のファンでした?

狼誕生の瞬間の一番のヒットは梶浦由記さんですね。当時放送していた「NOIR」っていうアニメが大好きで。歌モノもあるけど、サントラ的というかインストっぽいというか。神秘的でシンフォニックな弦楽器を基調としたような楽曲、ちょっと民族モノだったり、異世界な雰囲気だったりを漂わせた曲が多くて。ボーカルも日本語の歌詞もあるんですけど、梶浦語みたいな、意味はないんだけどメロディに乗せやすい、独特の発声の音がボーカルになっている曲が多いんですよ。そうやって世界観を制限しすぎないところが、孤高の狼のBGMにぴったりだな、って(笑)。

──好きなアーティストであってもやっぱりBGM的に聴いていた、と。

そうですね。ひとりのクリエイターさんの音楽ではありつつも、ボーカリストに引っ張られない曲が好きでしたね。梶浦さんの曲にしても、梶浦さんの楽曲であり、ボーカリストさんの楽曲ではあるんですけど、言葉で世界観を縛らないから自分の歌にもできる感じがするんですよ。ボーカルモノって、ボーカリストさんその人だけのものをお客さん、リスナーとして共有する感覚があるじゃないですか。もちろんそれをカラオケで歌うっていう楽しみ方もあるんですけど、第三者である自分にとっては結局のところ自分のものじゃない。でも、梶浦さんの楽曲やボーカルの入っていないサントラなら「もしかしたら自分がこの音楽の主役になれるんじゃないか」って思えるんです。言葉に縛られない、日本語じゃないからっていう理由で洋楽を聴き出すようになったのも、直接的ではないんですけど、梶浦さんの影響だと思います。

──具体的にはどんな洋楽アーティストを?

まずは自分と同世代の若いアーティストさん、例えばブリトニー・スピアーズとか、あとはバンドサウンド的というか、ポップスなんだけどわりと当たりの強い音楽をやっている人、アヴリル・ラヴィーンとかヒラリー・ダフとかにハマって。そこから例によってTSUTAYAやHMVやタワレコでいろんな曲を聴き漁った結果、北欧メタルにいくという(笑)。サウンドはもっとゴリゴリしてるけど、アレンジはシンフォニックで、ボーカルはクリアな女の人っていう、ミスマッチ感のある融合みたいなものがすごく気持ちよくて。その後、邦楽にもハマるんですけど、そのときもヴィジュアル系。Janne Da Arcとか、Acid Black Cherryとか、DIR EN GREYとか、the GazettEとか、あと解散しちゃいましたけど、Kagrra,とか、男性ボーカルなんだけど、歌詞は女性的でちょっと耽美的っていうのが一番琴線に触れましたね。

──アヴリル・ラヴィーンしかり、北欧メタルしかり、ヴィジュアル系しかり、女性的なボーカルを求めた理由ってなんなんですかね?

やっぱり「自分のものにできるかも」というか、ボーカリストに自分を投影しやすいっていうのが一番の理由ですよね。キーの高さ的に歌えるかもしれないっていうのがあったり、同じ女の人同士だけど、その人は私のもっていない引き出しをもっていたり、逆にこの人にはない引き出しが自分にあるんじゃないかって思えて。ヴィジュアル系も男性なんだけど、キーが高いし、反対に当時の私は女性っぽくない、ハイキーなんて出ないと思ってたから「男性ボーカリストでキーの高いヴィジュアル系なら私のものにできるぜ!」っていうところからハマって、ヴィジュアル面もコスプレではないんですけど、割とカジュアルじゃない。昔からそういうやりきってる感、非日常感のあるものに惹かれるタイプだったので、それを音楽で表現しているのもすごいな、と。

ニューアルバム「RE;STORY」/ 2012年7月25日発売 スターチャイルド

収録曲
  1. re;story
  2. Veronica
  3. 足跡
  4. alive
  5. Baby Butterfly
  6. LOVE&HATE
  7. brand-new blood
  8. Be Starters!
  9. →↑
  10. Happy Girl
  11. My Singing
  12. Be A Diamond
喜多村英梨FIRST TOUR 2012 「RE;STORY」

2012年11月3日(土・祝)
愛知県 名古屋BOTTOM LINE
OPEN 17:00 / START 18:00

2012年11月4日(日)
大阪府 umeda AKASO
OPEN 16:00 / START 17:00

2012年11月11日(日)
神奈川県 横浜BLITZ
OPEN 17:00 / START 18:00

料金:5985円(ドリンク代別)
※3歳以上有料
一般発売:2012年10月7日(日)
オフィシャルHP先行予約:2012年9月9日(日)23:59まで

喜多村英梨(きたむらえり)

「キタエリ」の愛称で知られる声優・アーティスト。2003年に声優としての活動を開始し、出演作品は「フレッシュプリキュア!」「まよチキ!」「魔法少女まどか☆マギカ」「お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!! 」など多数。2011年からスターチャイルドレコードより3枚のシングルをリリース。2012年7月に1stアルバム「RE;STORY」を発表した。


2012年8月28日更新