ナタリー PowerPush - 喜多村英梨

人気声優アーティスト、本格ヘヴィメタルを歌う

このアルバムは「自分タイアップ」作品

──でも今回のアルバムは、タイアップモノで力を発揮する声優アーティストの作品ながらノンタイアップでのリリースですね。

なので今回は「自分タイアップ」(笑)。これまでのシングル曲は「○○っていう作品の名刺になる曲を喜多村も一緒に作りましょう」ってことだったんですけど、「RE;STORY」は「喜多村英梨の名刺代わりになるアルバムを作りましょう」っていう話なので、新録の9曲では私の意思や今考えていること、感じていることっていうような、喜多村英梨の世界観を歌わせてもらおうかな、と。

──1stアルバムなのにタイトルを「再び」「改めて」の意味である「RE」から始めたのも、そういう思いも込めたからだったりします?

ええ。シングル3枚は自分を作品に寄せていった上で作り上げた物語でもあるんですけど、アルバムは自分タイアップ。よりオリジナルというか、パーソナルな喜多村英梨という人間像をあらためて綴ったものなので「再び、改めて喜多村の世界を物語る」っていう意味で「RE;STORY」っていうタイトルにさせてもらいました。

──そのタイアップ元、クライアントである喜多村さんは新たな物語をつづるにあたって、楽曲制作陣にどんな発注をしたんですか?

「自分のやりたい音楽はバンドサウンドなんだ」と。上モノに打ち込みを使った曲もあるし、CDではあるんだけど、聴いた人がライブに来たような感覚になってほしいから、ボーカルだけが主役なんじゃなくて、ちゃんとひとつひとつの楽器の音の輪郭がわかるようにしてください、っていうことをまずお願いしました。具体的に言うと、基本的に声優さんの楽曲ってソロの尺が短めなんだけど、間奏のギターソロは長くしてほしいとか、リフもしっかり聴かせてほしい、っていった感じですね。

──確かに早弾きし放題だな、ツーバス踏み放題だな、とは思いました(笑)。

「やっぱりメタルといったらツーバス踏まなきゃ」「シンコペーション命でしょ」って(笑)。ただのミーハーな意見かもしれないんですけど、とにかく自分の思っていること、やりたいことっていうのが明確にあったので、デモの段階からかなり口出しさせてもらって作り上げました。歌詞や楽曲の世界観についても、例えばリード曲の「re;story」なら、主役・喜多村英梨っていうドラマのオープニングテーマ、これから喜多村英梨が自己改革していく心情を自分が好きで聴いている北欧メタルやシンフォニックメタルに乗せたい。これはまだ女性声優さんでやってる方もいないし、人と違うこと、しかも自分の大好きなことをできるチャンスだ、っていうお話をさせていただきました。ハッタリでもいいから新しいと思ってほしかったんですよ。

──全然ハッタリなんかじゃないと思います。バラードが1曲もないあたりにも、ホントに声優さんのアルバムというイメージを捨て去ってでも高速メタルをやりたかったんだな、って気合を感じますし。

それもライブ感というか、「お前ら、休憩できると思うなよ」っていうメッセージなんですよ(笑)。

──ヘッドバンギングし続けろよ、と。

あはははは(笑)。ただ、実は聴いてくださる層を限定したかったわけでも特になくて。もちろんヘドバンしてくれるのもうれしいんですけど、自分自身、メタルやV系も好きならアニソンも大好きなので、二次元的なもの、例えばパンパパンヒュー!や、ロミオ、ロマンスみたいなオタ芸が好きな人でも、そういうノリ方をしてもらえるようにはしたつもりでいます。だから「女子の同志、ついてこい!」「V系ヲタ集まれ!」っていう楽曲もあれば、爽やかで疾走感のある「alive」みたいな曲も作ってみましたし、作詞させていただいた「→↑」や「Be A Diamond」なんかは海外アーティストさんのコンサートをイメージして作ってます。海外のライブ映像を観ていると、公式カラオケ大会みたいになってるじゃないですか。

──大合唱ってことですか? それこそ喜多村さんが観ていなかったオリンピックの開会式で「Hey Jude」がそうなったように。

そうですそうです。「オレの歌、私の歌を聴け!」っていう歌い方も好きなんですけど、コール&レスポンスしてほしい、一緒に歌ってほしい、っていう気持ちがあって。特に「→↑」はサビとか限られたパートだけじゃなくて、最初から最後までコール&レスポンスできるように作ってます。で、「LOVE & HATE」は「キル・ビル」みたいな洋画のエンドテロップと一緒に流れる曲というか、「近未来女戦士闘う」っていう映画をイメージした、それこそ自分タイアップソング、というか妄想タイアップソングになっていたり(笑)。

──確かにメタル寄りではあるけど、ゴリゴリのデジロックですもんね。

だから「これはメタルアルバムです」とか「特定の層にだけ聴いてほしい」とか「こうしてほしい」っていうのは特にはないんですよね。数打ちゃ当たるじゃないですけど(笑)、いろんな人の琴線に触れるように曲を作ったつもりなので、振り上げるのが拳なのかペンライトなのかは、その方のご自由に、っていう感じですね。実際制作陣と話していたのが、全曲とも必ずシンプルで心に残りやすいワードを強調しよう。「大事なことなので2回言いました」って感じで(笑)、中毒性のあるようなサビを入れましょうっていうことと、ヘドバンもできれば、手扇子もロマンスもできる、っていうふうにいろんな層の方なりの楽しみ方のできる曲にしましょう、ってことでした。逆に言えば、アニソンや声優さんの曲が好きな人たちに「こういう世界もあるんだぜ。一緒に楽しもうぜ」っていうメッセージでもあるんで。

──あっ、やっぱり。確かにいわゆるアニソンファンに「メタルってカッコいいでしょ。面白いでしょ」ってプレゼンするアルバムでもあるんだろうな、とは思ったんですよ。

ええ。「同志求む」っていう気持ちはありますね。特に私がいろんな人を演じる役者だからなのかもしれないんですけど、人の気持ちは十人十色だと思っていて。自分タイアップとして作ってはいるんですけど、自分の歌い方や作り方は十色のうち一色。聴いた人がまた別の楽しみ方を見つけてくれるといいな、って。「これ、私も歌いたい」「オレならこう歌う」っていうくらい曲を愛してくれるのであれば、喜んで嫁に出そうかな、と。ウチの子ですが、もうメッチャなめまわしてください(笑)。

──孤高の狼になりたての頃の喜多村さんが梶浦由記さんをそう聴いていたように、リスナーには自分の曲として聴いてもらいたいってことですか?

そうですね。もちろん「喜多村だからいいよね」とは言われたいんですけど、喜多村バージョンとして聴いてくれればいいなって感じなんですよ。自分のエゴを貫き通して、ボーカルから曲に至るまで、紛れもなく「喜多村の『RE;STORY』」を作ったんですけど、リスナーの方々には自分のものとして吸収してもらいたい、主役としてこの曲に興味を持ってほしいっていう感覚はあって。そういうふうに人の心を動かせる曲を作れることが大前提だとは思ってます。

ライブはもうひとつの「RE;STORY」が出来上がるチャンス

──ところで「Be A Diamond」と「→↑」の2曲で歌詞を手がけられていますけど、作詞は初めてですか?

初めてではないですけど、そんなにたくさん書いたことはないですね。

──その割にこなれてるというか、芸達者ですよね。

ありがとうございます(笑)。

──「Be A Diamond」の冒頭の「愛言葉は『大好き』」っていうツカミはキャッチーだし、「→↑」はご自身も言うとおり、大合唱できそうな詞になっている上に、タイトル自体目を引くものになっている。で、これなんて読むんですか?

前向き、上向きっていうところから「前、上へ」。で、英語の「My Way」にもかけてある、と。今おっしゃったように実際「えっ?」って目を留めてほしかったんですよね。あと、友達にメールを送っているような感覚も出してみたかったというか。実際、メールを送るとき「○○じゃない?」じゃなくて「○○ぢゃない?」って書いてみたり、「かわいいょ愛してる」って、言葉尻の「よ」を「ょ」にしてみたり、正しい日本語みたいな立場から見たら「どういう教育してんねん?」みたいな表記をよく使うんですけど(笑)、それを歌詞カードに載せることで、コミカルさというか、親近感みたいなものを表現してみたくて。プラス、「→↑」に関しては、ライブでやるとき、サビの「強引に前→上へ↑」「Go→ing my way↑」のところで、お客さんにも歌詞カードの表記の通りに腕を前から上に突き上げてほしいな、っていう意図があって作ったりもしています。

──そして11月には「→↑」を始め、アルバムの楽曲を引っさげてのツアーに出ることになっています。こういうライブにしてみたい、っていうイメージはありますか?

まだまだアーティストとしては未熟で精一杯やらせていただくという感覚というか、ガムシャラな気持ちしかないので、どうこうしてやろうっていう気持ちはないんですけど、もうひとつの「RE;STORY」が出来上がるチャンスだとは思っていて。「お前ら、こういうことやろうぜ! 楽しもうぜ!」っていう意図で作ったアルバムが皆さんの手に届いた上でのライブということで、最後、応用編というか、この曲たちを使ってどうやって遊ぼうかっていう楽しみはあるんですよ。「自分が思い描いたとおりにコールが返ってくるのか」「いろんな層のファンの人が集まってくれて、それぞれいろんな楽しみ方を体現してくれるのか」っていうワクワク感やドキドキ感は今から感じてますね。

ニューアルバム「RE;STORY」/ 2012年7月25日発売 スターチャイルド

収録曲
  1. re;story
  2. Veronica
  3. 足跡
  4. alive
  5. Baby Butterfly
  6. LOVE&HATE
  7. brand-new blood
  8. Be Starters!
  9. →↑
  10. Happy Girl
  11. My Singing
  12. Be A Diamond
喜多村英梨FIRST TOUR 2012 「RE;STORY」

2012年11月3日(土・祝)
愛知県 名古屋BOTTOM LINE
OPEN 17:00 / START 18:00

2012年11月4日(日)
大阪府 umeda AKASO
OPEN 16:00 / START 17:00

2012年11月11日(日)
神奈川県 横浜BLITZ
OPEN 17:00 / START 18:00

料金:5985円(ドリンク代別)
※3歳以上有料
一般発売:2012年10月7日(日)
オフィシャルHP先行予約:2012年9月9日(日)23:59まで

喜多村英梨(きたむらえり)

「キタエリ」の愛称で知られる声優・アーティスト。2003年に声優としての活動を開始し、出演作品は「フレッシュプリキュア!」「まよチキ!」「魔法少女まどか☆マギカ」「お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!! 」など多数。2011年からスターチャイルドレコードより3枚のシングルをリリース。2012年7月に1stアルバム「RE;STORY」を発表した。


2012年8月28日更新