ナタリー PowerPush - キノコホテル
集団中毒!ようこそキノコホテルへ。メジャー震撼のデビューアルバム完成
行動力があったんじゃないかしら
──今回のアルバムは、2008年の1stシングル「真っ赤なゼリー/静かな森で~キノコホテル唱歌~」以来のレコーディング作品ですね。レコーディングスタジオが中村宗一郎さんのPEACE MUSIC(ゆらゆら帝国、ギターウルフ、SCOOBIE DOなどの作品を輩出)だったり、プロデューサーが昭和40年代の音楽に精通したサミー前田さん(音楽プロデューサー/DJ)だったりと、好きな人から見たらもう間違いない布陣というか。
サミー前田 ぼくが初めてキノコホテルを観たのは、最初のシングルがCD-Rで発売された直後のステージだったんです。そのCD-Rを購入してみたら、すでに中村宗一郎っていうクレジットが入っていて。中村さんとは一緒に仕事してたので「キノコホテルやってるんですか?」って話したら「いきなり電話かかってきて、3時間ぐらいで録音したよ!」って。
──最初に中村さんにオファーしたのは直談判ですか?
東雲 そう。
前田 中村さんは、そう簡単にレコーディングを引き受けないことで有名なんですよ。アーティストを選ぶ人だから。音聴いた上でオファーを断られたアーティストもいっぱいいますからね。
──どういうやりとりを経て引き受けてもらったんですか?
東雲 とにかくちょっとお話をさせてくださいとお伝えして、押し掛けていったわけです。びっくりされたんじゃないかしら。「えっ? ……君たちはまず何をやりたいの?」という話から始まって、そのうち好きな映画の話などで少し盛り上がったところで、「とりあえずいきなり録るっていうのもアレだけど、いろいろ面白い楽器が使いたければ貸してあげるし、また日を改めて遊びに来たら?」みたいなことをおっしゃっていただいて。その日はこちらも手ぶらだったし。それで1カ月後ぐらいに改めてお邪魔したら、中村さんが「もう、録っちゃおうよ!」とすでにマイクのセッティングなどを始められていて……。
──急展開ですね。
東雲 ちょっと音を出したら「これ試しに録ってみない?」って言われて。とにかく早い。サクサクサクサクと。「あ、わかりましたぁ……」みたいな感じで録って、その段階ではまさかそれがシングルになるとは思っていなかったのですけど、中村さんが「これ、いっそ売っちゃいなよ!」と。
一同 アハハハハハ(笑)。
東雲 全員レコーディング自体が初めてで、もう何が何だかわからないまま終わった(笑)。とても面白い時間だったけど。それで「せっかくだから、出す?」なんて話していたのが2007年の12月で、翌年の1月か2月にはもうCDに。
──そもそも、なぜPEACE MUSICにお願いしようと思ったんですか?
東雲 ツテはまったくなかったんですけど、ちょうどレコーディングをしたいと考えていたときに、キノコホテルをよく観に来ていたギタリストの方からアドバイスをもらって行ったんじゃなかったかしら。
──その行動力はすごいですね。
東雲 フットワークが軽かったわねぇ、あの頃は。
──あの頃は(笑)。1、2年くらい前の話ですよ。
東雲 若かったからねぇ(笑)。
まだまだいくらでも余地はある
──では今回のアルバムについては、中村さんからはすんなりOKを?
東雲 そうですね。今回は間にサミーさんに入ってもらって。
──サミーさんとしては、ライブを観たり音源を聴いたりしているうちに「自分でプロデュースをしたい」と?
前田 最初に観て「これは!」と思って、まずはイベントにお誘いしようと考えたんです。結局すぐに「アルバム作りましょう」という話になって。僕もインディーレーベル(ボルテイジレコード)をやってるんですけど、キノコホテルはインディーズではもったいないなと思ったんです。ちゃんと広く世の中に知られるべき音楽だろうと。それで各レコード会社の人たちにプレゼンしたら、いくつか声はかけてもらったんですが……。「この人たちはコントロールされない人たちですよ」ということを伝えて「音とビジュアル面は本人たちがすべて作ります」ということを条件に当たっていきました。
──それこそ昔のGSだと、バンドで録音したものに勝手にストリングスを加えられていたり(笑)。
東雲 そういうのだけはご勘弁願いたいわ……。
──結果的にはライブで演奏しているとおりの音というか、思いのままに作られたアルバムになっているのではないかと感じました。仕上がりには満足していますか?
東雲 おととしの12月に今の4人が揃って、音を録ったのはその8カ月ほど後ですから、今聴けばそれは「ここはこうできた」だの「ああすればよかった」というのはいくらでもあります。今作ればまた全然違うものになるのではないかしら。
──では、ここから先の展望もすでに見えている?
東雲 そうですね。それこそステージングから、曲の雰囲気まで、まだまだいくらでも変貌の余地はあるし、わたくしなりの世界を広げて行きたいと考えているけど。
キノコホテル
2007年6月、支配人のマリアンヌ東雲(歌と電子オルガン)を中心に結成。幾度かのメンバーチェンジを経て、2008年12月には現在のメンバーであるイザベル=ケメ鴨川(電気ギター)、エマニュエル小湊(電気ベース)、ファビエンヌ猪苗代(ドラムス)が揃った。都内を拠点に精力的な実演活動を行いながら、自主制作でシングル「真っ赤なゼリー」、会場限定CD「キノコホテル実況録盤」、映像作品「キノコホテルの夜明け~初期実演会」、CD&DVD「サロン・ド・キノコ~実況録音盤」を発表。オリジナル楽曲はすべてキノコホテル支配人・マリアンヌ東雲が手がけており、その独特の世界観は各方面から高い評価を集めている。2010年2月3日に1stアルバム「マリアンヌの憂鬱」で徳間ジャパンコミュニケーションズよりメジャーデビュー。