ナタリー PowerPush - 木村竜蔵

BL作家・ごとうしのぶと“愛”のトーク

木村竜蔵が2ndミニアルバム「恋愛小説」をリリースする。自身が今まであまり触れてこなかった“恋愛”をテーマに編んだ6曲の作品集は、繊細な心象描写の歌詞とそれを表現するまっすぐな歌声に胸をつかまれる1枚。リードトラック「25時の月」は、累計部数500万部を超えるBL小説「タクミくんシリーズ」で知られる作家・ごとうしのぶがPVの脚本を担当したことでも注目が集まっている。

ナタリーでは今回、男性シンガーソングライター×BL作家という異色コラボに至った経緯やPVの制作秘話を聞くため、木村とごとうの対談を企画。この日が初対面だった両者だが、次第に打ち解け、最後には木村からのサプライズも飛び出す和やかなひとときとなった。

取材・文 / 川倉由起子 撮影 / 佐藤類

MVでボーイズラブ? 木村竜蔵 新曲「25時の月」

恋愛小説を読み漁る中でBLにたどり着いた

──今日が初対面という2人。木村さん、表情が硬めですがちょっと緊張されてます?

木村竜蔵

木村 そうですね(笑)。本当にさっきお会いしたばかりなので……。

ごとう 私のほうはCDや映像の資料をいただいて、エンドレスに観たり聴いたりしていたので。一方的になんとなく親しい気持ちになってました。すいません、勝手に(笑)。

木村 いやいやいや、ありがとうございます。

──今回のコラボは木村さん側からのオファーだそうですが、木村さんはどんなきっかけでごとうさんの作品を知ったんですか?

木村 最新ミニアルバムのタイトルが「恋愛小説」なんですが、それを作るにあたって何度も本屋さんに通い、いろんな恋愛小説を読み漁ってみたんです。で、恋愛模様にもさまざまな形があるなあと思っていたら、BL(ボーイズラブ)というジャンルにもたどり着いて。そこで初めてごとう先生の作品を読ませていただきました。

──BLというジャンルに対する印象、ごとう先生の作品の感想はいかがでしたか?

木村 BLを読むのは初めてだったんですけど、登場人物の嫉妬やさまざまな感情の揺れ動きが男同士のそれというより女性的だなって。あと実は他の作家のBL作品も読んだんですが、ごとう先生の小説はなんとなく夜のイメージだなって。「タクミくんシリーズ」は男子寮のシーンもあるし、必然的に夜が舞台になってたりすると思うんですけど、他の方と比べて特にそういう印象を受けました。

ごとう おー、ありがとうございます。あまり面と向かって感想をいただくことがないのでうれしいですね。私のほうは今回、「25時の月」のPVの脚本のオファーをいただいて初めて木村さんの音楽を聴いて。新曲プラス以前発売されたCDも全部いただいたんですけど、その時点でふんわり全体のイメージというか、こういう世界観を作れられる方なんだなーっていうのはつかめました。木村さんの曲って歌詞全体を通して見ると、「25時の月」をはじめ主人公がすごく繊細なんです。そのへんも脚本を書くときのポイントになりそうだなと思いましたね。

初めて歌詞の中に“愛”を使った

──男性の木村さんには、BL小説に描かれる愛はどう映ったんですか?

木村 恋愛にはいろんな形がある……とはよく言われることですけど、人それぞれ、いろんな事情とか時には障害も抱えながら恋愛をしてるのかなって思うんです。年の差だったり、相手に家庭があったり、それこそ相手が同性だったり。そういう目線でいくとBLもすごく自然なことというか、小説として自然に読めるものだなって。

──なるほど。

木村 あと今回のアルバムは全編ラブソングということもあり、いろいろな恋愛について考えてる時期が長かったんですね。そんな中でできた「25時の月」はサビで何度も「愛してる」って言ってるんですけど、僕、今まで「愛してる」という言葉を歌詞で使ったことがなくて。もともとラブソングを多く書くほうじゃないけど、書いたとしても「愛してる」はあえて使わないようにしてたんです。

──それはどうしてでしょう?

木村竜蔵

木村 自分の中で好きと愛の違いにハッキリ答えが出たわけじゃないし、そういう不安定なものを使いたくなかったっていうのが大きいかな。でも恋愛について考える中で、皆さんいろんなものを抱えて恋愛をしてるんだろうなって感じて……。なんとなく、相手への気持ちが何かひとつ超えた瞬間に、いろんな事情や障害も全部吹っ飛ばせるものなのかなって思ったんです。そのときに初めて「愛してる」って言葉を言えるのかなって。そういう気持ちを込めたのが「25時の月」なんですけどね。

ごとう 私も若い頃から小説を書いてて、だんだん言葉の奥行きみたいなものを感じ始めてくると、とにかく“愛”は使いにくいなって。だからここ数年の本にはほとんど出て来ないと思うんですけど。私も木村さんと同じように、言うのは簡単だけど、安易に口にしちゃいけない言葉という感覚があって。

木村 はい、わかります。

ごとう 世間的には愛も恋も一緒みたいに使われてますけど、家族のことは恋って言わないじゃないですか? たぶん愛ですよね。それって、家族にはそこに問答無用に覚悟があるからだと思うんです。何かあったときに自分を犠牲にしてでも助けようって自然に思うことができるから。でも赤の他人にその覚悟ができるまで深く気持ちを育てていくのは大変難しいこと。だから“愛”というのは覚悟が必要な一言で、それを簡単には使えないっておっしゃった木村さんの人柄を、私は今、間接的に感じましたよ。ああ、誠実な方なんだなって。

木村 いやいや、そんな(笑)。でも確かに“好き”とか“恋”が愛に変わるときって、世間体とか何か守ってきたものが一気に取っ払われる瞬間なのかなって。そういうときに1日の24時間さえも越えると思ったので、タイトルに「25時」って付けたんです。

ごとう あー、なるほど! 実際は越えてるんだけど、気持ちの中では当日なんですね。

木村 はい。相手の誕生日や何かの記念日かもしれませんし、絶対その日のうちに会いに行かなきゃって感じですね。

木村竜蔵(きむらりゅうぞう)

木村竜蔵

1988年生まれのシンガーソングライター。演歌歌手・鳥羽一郎の長男として、幼い頃から音楽やエンタテインメントが身近にある環境に育つ。高校在学中の2006年にインディーズで初作品となるシングル「愛しい人よ / Flower」を発表し、ライブ活動を続けながら音源を次々に発表。2012年9月にクラウンレコードからミニアルバム「6 本の弦の隙間から」でメジャーデビューする。2013年1月には1stシングル「舞桜」を発売し、その後に全国各地の桜の名所で弾き語りライブを敢行。2014年4月には、恋愛をテーマにしたミニアルバム「恋愛小説」をリリースする。