ナタリー PowerPush - 木村竜蔵

BL作家・ごとうしのぶと“愛”のトーク

多少規制がかかっているほうがやりやすい

──ここからは、お互いの質問タイムにしたいと思います。ジャンルは違えど、同じモノ作りをするクリエイターとして、気になることはありますか?

木村竜蔵

木村 さっき「小説に縛りがあったほうが……」という話が出ましたが、やっぱりそっちのほうが書きやすいですか? 僕も今回はラブソングに挑戦するという縛りを1つ作ったんですけど、まっさらな状態よりそっちのほうが作業しやすいなって思ったりして。

ごとう そうですね。漠然としてるより多少規制がかかってるほうがやりやすいです。というか、人間は脳がそういうふうにできてるみたいなんです。子供たちに「自由になんでもしていいよ」と言っても意外と発展しないけど、ある程度いくつかマストを与えると、そこを基準にどんどん広がっていくっていう。

木村 へえ、そうなんですね。じゃあ執筆されるときはまず何個かマストを決めて?

ごとう そうですね。でも登場人物が勝手に生み出していくものもあるんですよ。例えば日本人男子って決めたら、英語ペラペラではまずないなとか。もしペラペラなのであれば帰国子女の設定にする、みたいな。ひとつ決めると、そこからの連鎖でマストが出てくることも多いですね。あと、おそらく私が書くときに一番大事なのは何色にしたいかってことだと思うんです。温かい世界を描きたいのか、クールな感じにしたいのか、オレンジな感じなのか暗い感じか……みたいななんとなくのトーンがあって、それを元に作る感じですね。

木村 その“色”の大元はどこから出てくるんですか?

ごとう たぶんそのときに一番心魅かれてる何かですね。

──ちなみに、ごとうさんの小説は実体験が元になっていることもありますか?

ごとう 体験してなくてもできるものもあるし、体験しないと描ききれない何かもおそらくあると思います。ただこうして書く仕事に就いて思うことは、感情や感じるものがいっぱいあって、たくさん揺れ動く若い時期にいろんなものを残しておくと、何十年後か振り返ったときの財産になるだろうなって。やっぱり、その時々にしか感じられないものってあると思うんですよ。それがたとえ全部空想だったとしても、それはそれで価値があると思います。

匂いが曲作りの羅針盤になる

ごとう じゃあ次は私から聞かせていただきますが、今まで詞や曲って何本くらい書かれてますか?

木村竜蔵

木村 曲は世に出てないものも含めると50くらいですかね。断片的なものも入れると200はあると思います。さっきごとう先生は“色”が大事っておっしゃいましたけど、それでいくと僕は匂いなんですよね。実際に感じるわけじゃなくても、文章や音楽からにじみ出るもの、映像から醸し出される匂いみたいなものが1つの方向性として僕の羅針盤みたいになっていくんです。

ごとう それはジャンルを問わない? 香ばしくても臭くても、いい匂いでもなんでもいいんですか?

木村 はい。多いのは季節的な匂いなんですけど、春とか埃まじりの雨のあととか。降り始めも好きですね。

ごとう いいですよねー。自分も田舎育ちなんで水分の匂いに敏感で。あと本屋さんの匂いも好きかな。こんなに多種多様の紙を使ってるのに、なんでいつも本屋は同じ匂いがするんだろう?って。

木村 ああ、確かに。あと僕は銀行の匂いとかも好きですね。

──木村さんは、そういう何か匂いを感じたときが楽曲を作るスタートになるんですか?

木村 それが入口になる場合もあるし、どういう曲にしたいかなって考えたときに「こういう匂いがするようなもの」って決めてアウトプットにするときもあります。

ごとう なるほど。じゃあ、「25時の月」はどんな匂いだったんですか?

木村 緑や水分があるんだけど、どこか都会的というか。冬でも夏でもない季節の中間というか、湿った夜空みたいな匂いでしたね。

対談の締めは木村の生歌披露

──残念ながらそろそろ締めの時間です。が、その前に木村さんは何か準備されているものがあるそうで……。

木村 はい。せっかくなのでぜひ曲を聴いていただけたらなと思い、ギター持ってきたんです。もし、お時間ありましたら。

ごとう え! いいんですか? うれしいです。木村さんのライブってどういう雰囲気なのかなあと思っていたので。

左から木村竜蔵、ごとうしのぶ。

木村 じゃあ歌わせていただきますね。「25時の月」。

(1曲聴いて)

ごとう (拍手)わー、ありがとうございます! すごーい! 素敵ですね。

木村 会議室で歌うのは緊張しました(笑)。

ごとう こちらこそこんなに至近距離で聴かせていただいて。貴重なひとときをありがとうございます。歌とアコースティックギターを同時に聴くことが私の中ではあまりないので、両方の音がグッときましたね。

木村 僕のほうこそ今日は初めてお会いして、曲まで聴いていただいて。ごとう先生はもともと音楽をされてた方だし、自分の曲がどう思われてるのかな?って少し怖かったんですけど、すごく理解していただけたんだっていうのがわかってうれしかったです。あと表現の仕方は違うけど、少なからず共通する感覚みたいなものをお話の中で感じられたのが印象的でした。貴重な時間をありがとうございました。

ごとう いえいえ。こちらこそ楽しかったです。今日はありがとうございました。

木村竜蔵(きむらりゅうぞう)

木村竜蔵

1988年生まれのシンガーソングライター。演歌歌手・鳥羽一郎の長男として、幼い頃から音楽やエンタテインメントが身近にある環境に育つ。高校在学中の2006年にインディーズで初作品となるシングル「愛しい人よ / Flower」を発表し、ライブ活動を続けながら音源を次々に発表。2012年9月にクラウンレコードからミニアルバム「6 本の弦の隙間から」でメジャーデビューする。2013年1月には1stシングル「舞桜」を発売し、その後に全国各地の桜の名所で弾き語りライブを敢行。2014年4月には、恋愛をテーマにしたミニアルバム「恋愛小説」をリリースする。