ナタリー PowerPush - 平井堅
純国産R&Bの金字塔「JAPANESE SINGER」
ソングライティングに対して執着する部分はある
──ただ、その思いはわかるんですが、それでも平井さんは曲を書き続けていますよね。それはなぜなんでしょう?
そこが面倒くさいところで(笑)、例えばコンペで曲を選べる場合もあるんですけど、そんなときに曲に注文つけちゃうんですよね。「僕だったらもっとこういうメロにする」とか言い出して。だからいざ与えられると欲が出るっていうか。そういうことがあると、自分もソングライティングに対して執着する部分があるんだなって気付いて、自分でも驚いたりするんですけど。
──確かにコンペをやっても、例えば「R&B」みたいな曲はほかの人からはなかなか出てこないでしょうしね。
これは自分でも結構がんばったなって思いますね(笑)。憧れはすごくあるんですよ。シンガーソングライターっていうものに対する憧れはあるんですけど、でも自分は違うなって思うんです。
──それはやっぱり昔の歌謡曲の人たちへの憧れなんでしょうか。昭和の歌謡曲は、プロの職業作曲家がいて、歌手は歌に徹するというスタイルでしたよね。
うん、それに対する憧れもあるし、それの何が悪いの?っていう開き直りもあるし、いろんな感情があるんだと思います。
──ところで平井さんが今回のアルバムで個人的に一番気に入っている箇所はどこですか? メロディでも歌詞でもいいんですけど。
えーと、僕、このアルバムは自分にしては珍しく家でよく聴いてるんですけど、例えば「お願いジュリー☆」とか「R&B」とかはやっぱり自分でも達成感がありますね。ですけど、なぜかじわっと胸が熱くなるのは12曲目なんです。「夢のむこうで」っていう曲。今の自分に向けて書いてる曲なんですけれども。この曲の……ここですね(歌詞カードを指さす)。
──「旅のおわりに 心の中をよぎるのは / 輝ける過去や 栄光ではなく 手をふる君の笑顔」。いいですね。大げさじゃない、さりげないフレーズなのに胸に響きます。
ここの2行はすごくジーンと来ますね(笑)。「自分にとって人生で大事なものってなんだろう」って、いつも考えてることを歌った曲だからだと思うんですけど。
めちゃくちゃ勇気を出して自分の一番弱い部分を歌詞にした
──アルバムがまもなく発売になりますけど、ズバリ、ヒットしてほしいですか?
あはははは(笑)。そりゃあイエスでしょう、ノーなわけないですよね! そりゃあ売れてほしいです。たくさんの人に聴いてほしい。そりゃあもちろん。
──自分で満足いく作品ができたから売れなくてもかまわない、みたいな気持ちはありませんか?
うーん、やっぱりそれは言っちゃいけない気がして。「こんなにいいアルバムできたんだから1枚でも100万枚でもかまわないぜ」なんて心境に、なれるもんならなってみたいですけど。やっぱりそれはないですね。
──ですよね。平井さんの曲はやっぱりたくさんの人に届いてこそ、だと思います。
うん、とても難しいことだけど、それを目指したいと思ってます。ただ最近思うのは、アルバムの最後の「あなたと」っていう曲に「命ある限り謳う 誇りだけは守り抜く / 何より大切なこの誓いの どちらかを捨てろと痛む心が呟く」っていう歌詞があるんですけど、それはもう僕が歌手になってからずっとずっと葛藤してることで。歌手としては楽曲を聴いてもらって評価されるっていうことから当然逃げちゃいけないんだけども、その結果、評価が低かったときに、僕は歌手・平井堅としてではなく人間・平井堅としても自分が価値の低い人間だって感じてしまって、自分を追い詰めてしまうことがすごくあるんです。
──でもそれは……。
そう、そうなってくると人間辞めなきゃいけなくなっちゃうんですね。だから、この2行っていうのは僕は今回のアルバムでめちゃくちゃ勇気を出して吐露した部分で、自分の一番弱い部分を書いてるんです。僕は人として生きていきたいから、評価からは逃げたくないけど、その評価が僕の価値ではないし、そこは自分自身のために忘れたくないなって、今すごく思ってるんです。
──はい。
それで今までずっと悩んできたから。売れなかったら僕は生きてちゃダメなんだとか、恥ずかしい人間なんだとか思ってしまうのは精神的に良くないから、ちゃんと事実と向き合って、その上でしっかりと生きていく。自分を愛してあげなきゃなって、そんなふうに思ってます。
CD収録曲
- Sing Forever
- いとしき日々よ
- CANDY
- お願いジュリー☆
- 僕は君に恋をする
- さよならマイ・ラブ
- R&B
- Girls 3x
- アイシテル
- BLIND
- Miss サマータイム
- 夢のむこうで
- あなたと
初回限定盤A DVD収録内容
<ライブ映像>
「Ken Hirai 15th Anniversary Special!! Vol.4」@京セラドーム大阪(132分・18曲)
初回限定盤B DVD収録内容
<ビデオクリップ>
- CANDY
- 僕は君に恋をする
- Sing Forever
- アイシテル
- いとしき日々よ
- 夢のむこうで
平井堅(ひらいけん)
1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションに入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも2作発表。フェイバリットアーティストはダニー・ハサウェイ。