多面性で楽しませるのが自分にとってのエンタテインメント

──素晴らしいアルバムが完成しましたね。

ありがとうございます。

──このアルバムを作る際、最初に描いてたコンセプトはどういうものだったんですか？

僕の場合、アルバムのコンセプトみたいなものはいつもあんまりなくて、毎度毎度とにかく好き勝手に、バリエーション豊かなものを作っていく感じなんです。まず既発のシングルは全部入れたいっていうのが強くあるんで、だから今回もまずシングル曲を並べて、それ以外の空席に、シングルでは出せなかったものを散りばめようっていう考え方ですね。

──じゃあアルバムではシングル曲とは色の違うものを作っていった？

シングルはバラードや真面目な曲が多かったので、とにかくアップテンポの曲をたくさん入れたいという気持ちはありました。あとはサンバをやりたい、ファンクをやりたい、歌謡ポップをやりたい、ハウスをやりたい、みたいな感じで、1曲1曲のコンセプトを決めて作っていきました。空白に色を塗っていくというか。

──平井さんの中で「アルバムというのはバリエーション豊かなものであるべきだ」というような意識があるんですか？

そうですね。もちろん何か強いコンセプトに基づいたアーティスティックなアルバムにも憧れるんですけど、そもそも自分のことをあんまりアーティストだとも思ってないので（笑）。もっと単純な欲として、シングルをきっかけにこのアルバムを手にした人に「平井堅ってこういう曲も歌うんだ？」って知ってほしい。多面性とか娯楽性とか、そういうもので楽しませたいっていうのが自分にとってのエンタテインメントなんですよね。

タイアップにネガティブな感情は全然ない

──平井さんの中でのシングルとアルバムに対する意識の違いについて、もう少し詳しく伺いたいんですが。

やっぱりシングルっていうのはキラキラしてるのが理想ですね。みんなに口ずさんでもらえる、いわゆる俗なもの。

──流行歌的な？

そうですね。流行歌であってほしいっていう思いは、自分がそういう時代を生きてきた人間としてやっぱり強くあります。みんなに認知されて、みんなが口ずさみ、その時代を象徴するような曲。それがシングルっていうものだと思うし、時代錯誤な意見かもしれないけど、僕の理想ですね。

──平井さんの場合、シングル曲にはタイアップがつくことが多いですよね。依頼を受けて曲を作る場合は、制作の仕方も変わってきますか？

いや、ほとんどの場合、制作内容については口出しされないんで、そういう意味では恵まれているというか。まあそうじゃなくても、僕はタイアップには全然ネガティブな感情はなくて。自然発生的にできる曲っていうのもたまにありますけど、具体的なお題を与えられて曲を書くのがとても好きなんですよね。だから依頼主の意向にあわせて自分のやりたいことを曲げる、みたいなことはないです。

──じゃあシングルは売れ線の曲を作って、アルバムで本当にやりたいことをやるといったようなこともない？

全然ないですよ。13曲全部シングルにしたいと思って作ってるので、全部同じくらい強い曲だと思っているし、僕自身はどの曲にも同じ熱量を込めてますから。

アルバムには尖った部分が不可欠

──それにしてもこの「JAPANESE SINGER」というタイトルは非常にストレートですよね。

確かに、アルバムタイトルもジャケットデザインもキャッチコピーも、すごくど真ん中っていうか本気、って自分で言うのもなんですけど（笑）。でも特に前作の「FAKIN' POP」は、タイトルもジャケ写もちょっと皮肉っぽく揶揄した感じがあったので。

──そうですね。

でも今回は本気の意志みたいなものが込められている反面、「生まれてこのかた、純国産」って言っといてこんな日本人っぽくない顔してたり、「日本人なのにR&Bを歌ってる」っていう歌があったり、キラキラしたJ-POPアルバムでありながら、どファンクの曲もやってたり、そういう尖った部分も実は入ってて。ある種ねじれてるところはあると思います。

──そういった多面性も平井さんにとって不可欠な部分なんですね。

真面目だけど、半分バカもやるっていうことですよね。僕の体の中をパカって開けたら、真面目なもの、エッチなもの、ちょっとおキャンなものっていう、その3つしか入ってない。

──あははは（笑）。

だからこのアルバムは、僕という人間をそのまま音にしたらこうなった、っていう感じなんですよ。

──例えば「いとしき日々よ」や「夢のむこうで」のようなバラードシングルが街で流れて、平井さんの真面目な部分だけがイメージとして肥大化していくということもあると思うんです。そういう現象に対して「それだけじゃないんだよ」と言うために、アルバムがこれほどのバリエーションを持っているのかな、という印象は受けました。

そうですね。それは大いにあると思います。