ナタリー PowerPush - 鴉
激動の1年を経て放たれる彩り豊かなニューシングル
不安な時期に作った渾身のデモ音源
──カップリングの「向かい風」は、先程のお話によると「風のメロディ」と同じ頃に作られたんでしょうか?
近野 いや、もっと前です。アルバムが違うってぐらい時期が離れてますね、俺の中では(笑)。
渡邉 前作、前々作ぐらいかな。
近野 「向かい風」を作ったのはちょうど信頼していたメンバーが辞めたときだったんです。今まで精力的にガーッて進んでたのに一旦止まんなきゃいけなくなって、「このままゆっくり生活なんかしてたら、俺多分バンド辞めるだろうな」って思っちゃうぐらい不安になって。おまけに、卓さんは別の用事があって、俺だけ1カ月くらいぽかっと予定が空いちゃったんですよね。なので、その間はとにかく毎日打ち込みで曲を作ったんです。この機会に新しい曲を作ってガラッと新しいライブをしたいって思ったのもあったし、自分は短期間でどのくらい進化できるのか知りたかったって気持ちもあった。結局、その1カ月間に11曲ぐらい作りました。しかも今聴くと気持ち悪いぐらい作り込んであるんですよね。デモなのに。左右にちゃんとギターの音を振ってあって真ん中にオブリガートを入れてあったり、ハモリがガンガン入ってたり。本チャンの音源かよっていうぐらい音がいっぱい入ってる、今の根性じゃ絶対作れないような渾身の打ち込みを作ったんです。そのデモ音源に収録した最後の曲が「向かい風」なんです。
──そういう時期に作られたからでしょうか。この曲で象徴されているのは“焦燥感”だと思ったんですが。
近野 んー……今思うと、焦燥感もありつつそこから抜け出したかったみたいなところもありつつ。やっぱり、その時の自分って尋常じゃなかったと思うんですよね。しかも曲は全く暗くないという。
──確かに「風のメロディ」とはベクトルが違いますが、ポップですね。
近野 この曲も「風のメロディ」と同じで、ライブにまた別の色を持ち込める曲だと思うんですよ。今までのライブではこんなに明るい曲はやってこなかったから。いろんな曲を作って、演奏できるほうが幅も広がるし、楽しいって思えるんです。
今回のシングルが一番鴉っぽい
──「ココニナク」もまた他の2曲とは毛色の違うナンバーですね。
近野 これは昔からライブでやっていて。
渡邉 3月の無料ライブでも演奏したしね。
──あの頃からライブで演奏していた曲を今音源にするというのは、今まで積み重ねてきた中から鴉らしい曲を切り出したということですか?
一関 鴉というバンドが持ってた元々の色に、また違う色が足された感じですかね。
近野 でも俺は、リリースした中では今回のシングルが一番鴉っぽいんじゃないかなって思ってる。あんまり人に気を遣ってないところとか(笑)。
──この先ライブでこの3曲を聴きたいなぁと感じさせてくれるシングルだと思います。ちなみに、ライブで演奏していくことでアレンジが変わることもありますか?
渡邉 ちょこっと変えますね。ドラムは少しフレーズを増やすぐらいですけど。むしろ、ライブで演奏自体が変わっていくことが多いですね。「ここを激しくするんだ、俺!」みたいな新しい発見があったり。だからまたライブをするのが楽しみです。
鴉(からす)
近野淳一(Vo,G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなるスリーピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」をリリース。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。