6月に自身3枚目のピアノソロアルバム「共鳴する音楽」を発表したH ZETT M。彼がソロアルバムを制作したのは、2013年1月発表の「魔法使いのおんがく」以来およそ4年半ぶりとなる。今回音楽ナタリーではニューアルバムのコンセプトに触れつつ、自らが率いるトリオバンド・H ZETTRIOとの意識の違いについてH ZETT Mにインタビューを実施。楽曲の制作方法やルーツなど、彼の音楽活動全般に関する話題についても語ってもらった。
取材・文 / 柳樂光隆 撮影 / 小原泰広
ソロとH ZETTRIO、それぞれの曲作りの違い
──「共鳴する音楽」はおよそ4年半ぶりのソロアルバムになりますが、曲は書きためていたものですか? それとも、新たに書き下ろしたんですか?
両方ですね。2012年に出した「未来の音楽」と同じく、ピアノだけで楽曲を作りました。日常的に曲を書いているんですけど、このアルバムを作るにあたって新しく書いた曲もありますし、レコーディング当日にバーッと書いたものもあります。今回はピアノで鳴らすとどうなるのかということを考えながら制作しました。
──並行してH ZETTRIOとしても活動されていますけど、トリオ用の曲とソロ用の曲は分けていますか?
基本的には「曲」という認識で一緒なんですけど、トリオのほうはビュッフェ、ソロはランチプレートみたいなイメージ。トリオは僕以外のメンバーであるH ZETT NIRE(B)とH ZETT KOU(Dr)の音楽性も入ってくるんで、そこから作り出すっていうところもありますね。
──ソロは作曲に関しても、自分1人ですべてをコントロールしたものになると。
そうですね。最初からできあがったものをイメージして書くって感じです。
──例えば、トリオのときはリズムセクションがいるじゃないですか。どういうところから曲を書くことが多いですか?
曲自体の構想は、最初からメロディーとリズムとハーモニーを一体化して作ってしまいますね。
──最初から曲の全体像が頭の中にあって、書きながら、それを整えていくのですか?
全体像を1人で作ることもあるし、ベースとドラムにラインを考えてもらうこともあります。トリオだと楽器を分けていきますけど、ソロでは全部の音をピアノで表現するスタイルです。
──ライブのときは、ピアノの上にぶ厚い譜面が置いてありますよね。けっこう譜面に細かく書かれてますか?
譜面を書くこと自体はそこまで意識してないんです。スケッチと言うか、メモのように書き残していくからどんどん量が増えるんですよ。
──ライブ中もほとんど楽譜は見てないですしね。
記憶力が悪いんで、ちょっと心配なときもあるんですよね。そのために見たりはします。
「もう始まっている」のが作曲で、「まだ何も始まっていない」のが即興
──H ZETT Mさんの曲は聴く人によって、即興の部分が多いようにも聴こえるだろうし、きちんと楽譜を書いて、それを忠実に再現しているようにも聴こえると思うんです。
クラシック的な要素を考えると、ちゃんと楽譜通り弾きたいという気持ちが出てくるんですけど、ジャズのようにどう即興的に展開するかっていうところも考えてます。その両方を行き来できたら楽しいし、切り替えができたら面白いかなって気がしますね。
──あとで崩すかどうかは別にして、最初から設計図はフルで書かれたりしますか?
テイストにもよるんですけど、具体的に曲の展開を決めていきたいときは書きます。その中でも「ここからは即興にしとこう」っていう場面を作ったりはしますね。今回のアルバムだとDISC 2の「DO浮遊サマータイム」から「ネクタイしめて」までがジャズのように即興で作ったゾーンで、それ以外はかっちり設計図を作りました。どこまでが作曲でどこまでが即興かと言うと、ぱっと思い付くまでは同じで、それを楽譜に書けば作曲、すぐ弾いちゃってそのままレコーディングしたら即興だと思うんです。「もう始まっている」のが作曲で、「まだ何も始まっていない」のが即興という感じがします。
──確かに、いきなりその場で曲を書いて録音したら、即興みたいなものですよね。
あとは「果てしないカーブ」みたいに、即興中に思い付いたものを譜面にパっと書いてレコーディングした曲もありました。パラって書いて、パラって弾いて、パラっと録音してOKみたいな。
──逆にすごく錬って作ったものもあるんですよね。
「フレーズ同士のつながりを意味のあるものにしよう」というふうに曲の進行を考えるときは練りますね。DISC 1の「ショーがはじまる」「踏み出すニュー」とかはまさにそんな感じ。あとは「すました日常」「水の流れ」「高貴な連帯」もそうですね。「ショーがはじまる」は、もともと8小節くらいのフレーズがあったんですけど、そのフレーズは17歳くらいの頃に思い付いたもので、それを編曲して、展開して広げていったんです。「踏み出すニュー」は僕がパーソナリティを担当しているラジオ番組があるんですけど、番組のジングル用に用意した5秒くらいのフレーズを展開していった曲ですね。どの楽曲も作った時期はバラバラなんですよ。
──自分の中にずっとあったアイデアをモチーフにして、曲に仕上げることもあるんですね。
だから、作曲方法はごちゃ混ぜですね。
──トリオの場合はほかの2人からもアイデアが出るだろうし、彼らが広げてくれたり足したりもすると思いますし、H ZETT Mさん自身もシンセで音を足したりできますが、ピアノ1台だけだとできることは限られると思うんです。それでも今作はアイデアをひねり出した感がなくて、軽やかですよね。
ピアノだけとか、ドラムとベースも加えるとか、楽器編成を頭に入れて音楽をやるっていうよりも、まずは音楽があって、それをピアノでやってみるっていう考え方なんです。「ピアノ1台か、どうしようかな」って考えたことはなかったですね。ピアノは弾いていると面白いし、限界を感じなくて。それに鍵盤が88個あるんですけど、8は横にすると無限マークになるし。やってみたいことがいっぱいありますね。
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今は難しく考えなくても、キラッとしたところを発見できる
- H ZETT M「共鳴する音楽」
- 2017年6月21日発売 / apart.RECORDS
-
[CD2枚組]
3240円 / APPR-3014~5
- DISC 1
-
- ショーがはじまる
- 極秘現代
- 踏み出すニュー
- すました日常
- 水の流れ
- 高貴な連帯
- 果てしないカーブ
- 争う不可思議
- クジラが泳ぐ
- 雫の模様
- 地平線
- 確かな日々
- 新しいチカラ(2017 ver.)
- DISC 2
-
- 未完成ワールド
- 忘却の彼方
- ランドスケープ
- 永遠は見つからない
- DO浮遊サマータイム
- ほろ酔いバランス
- 嬉しさを抱きしめて
- ネクタイしめて
- あしたのワルツ
- 反骨のマーチ
- 宙に消えた
- Wonderful Flight
- 喜びのテーマ
- H ZETT M「ピアノ独演会2017秋 -共鳴の陣-」
-
2017年9月24日(日)
東京都 文京シビックホール 大ホール
- H ZETT M(エイチゼットエム)
- 青鼻が特徴のピアニスト・音楽家。2007年にアルバム 「5+2=11」(ゴッタニ)でソロデビューを果たし、以降「未来の音楽」「魔法使いのおんがく」といったピアノソロアルバムを発表。2013年にはドラムにH ZETT KOU、ウッドベースにH ZETT NIREを迎えたH ZETTRIO名義での活動を開始し、計3枚のオリジナルアルバムをリリースした。2017年6月に約4年半ぶりとなるピアノソロアルバム「共鳴する音楽」を発売。ソロのワンマンライブ「独演会」を不定期に行っているほか、椎名林檎、藤原さくら、木村カエラら多くのアーティストたちの楽曲にも鍵盤奏者として参加している。