10人が聴いた「Vu Jà Dé」

10人が聴いた「Vu Jà Dé」

ここでは、「Vu Jà Dé」を聴いた著名人10人による解説文を掲載する。十人十色のテキストを通して、「よく知っていることなのに、初めて知る・体験するような印象を受ける感覚」を意味する言葉をタイトルに冠したアルバムの世界、そして細野晴臣という1人のアーティストの魅力を感じ取ってほしい。

ウィスット・ポンニミット

ウィスット・ポンニミット

細野さん、生きてくれるだけで十分ありがたいこと。それに新しいCDを出してくれるなんて、うれしいしかない。僕は大人になって、やっとおじいちゃんおばあちゃんに感謝をするということがわかるようになったけど、残念なことに今田舎に帰って会いに行っても、もうみんなは生きてない。
でも細野さんは生きてる! しかも歌ってくれる!
すごい! すげえ! スーパーパワー! 一緒にいて怖くなっちゃうおじいちゃんではない、細野さんは。

CDを聴いて、「ふーん、楽しそうだね、細野さん、ふふ」と思った。孫たちの前で全然気取ってなく、自分の「楽しい」を話してくれる。友達になれる若いおじいちゃんやー と思って、だんだん深く入り込んで 、時間を戻して、生まれる前の細野さんを感じる。ミステリーだけど安心。

音楽は2種類。パワーをくれる音楽と、パワーを吸う音楽。
細野さんのくれるパワーは、ファイヤーみたいな激しいパワー、人に勝ちたいパワー、負けたくないパワーじゃなくて、自分ままで自信を持って、自然を認める勇気、安心をくれる音楽。
それが人生の一番大事なパワーだってわかるようになった僕にとって、細野さんの音楽は人生の大事なバイブレーションです。

ウィスット・ポンニミット
1976年、タイ・バンコク生まれ。1998年にバンコクでマンガ家としてデビューし、2003年から2006年まで神戸に滞在する。2009年にマンガ「ヒーシーイットアクア」で「文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞」を受賞。現在はバンコクを拠点にマンガ家、アニメーター、アーティストとして活躍している。主な作品には「マムアン」シリーズ、「ブランコ」などがある。2016年にはくるりの楽曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」のミュージックビデオを手がけた。
沖田修一

沖田修一

映画の主題歌(※1)をお願いしたのが、数年前。僕としては、細野さんという名前は特別で、まさか自分が仕事できるとは思えなくて、会ってからも、目の前にいることがとても不思議でした。映画の曲なのだからそれに合わせた歌詞がいいということで、僕も少しだけ映画にまつわるキーワードを書かせてもらったのですが、できた曲はそれはもう細野さんの世界で、聴きながら一人感動し、とてもうれしくなりました。細野さんの新しいアルバム「Vu Jà Dé」に、その曲の、新しく録り直したもの(※2)が入っているのを聴いて、また映画とは違った楽しみ方をしております。映画とは全然違う! 「Vu Jà Dé」を聴いていると、どこか旅でもしたくなります。それも1人旅の雰囲気でしょうか。居心地のいい歌声が、何か違う場所へ連れていってくれるような気もします。映画もよく旅に例えられますが、それで言えば、「Vu Jà Dé」は、1本のよい映画を観たような、そんな気持ちにさせられてしまいます。ずっと聴いていたいような。恐らく居心地がいい旅から帰りたくない、そんな気持ちと似ているような気がします。

※1. 2016年公開「モヒカン故郷に帰る」の主題歌「Mochican」
※2. DISC 2「Essay」のM9「Mochican ~Vu Jà Dé ver.~」

沖田修一(オキタシュウイチ)
1977年生まれ、埼玉県出身の映画監督。日本大学芸術学部卒業後、自主短編映画「鍋と友達」で「第7回水戸短編映像祭」でグランプリを獲得する。2006年に「このすばらしきせかい」で長編監督デビューを飾り、以降「南極料理人」「キツツキと雨」「横道世之介」などでメガホンを取る。2016年には「モヒカン故郷に帰る」の監督、脚本を担当したほか、Netflixドラマ「火花」の監督を務めた。
角張渉

角張渉

細野さんの最新作のレビュー……光栄すぎて手が震えますね。この10年、SAKEROCKやキセルなどでお世話になったり、「CIRCLE」(※1)をはじめ、いろいろなところで細野さんの音楽に勝手ながら触れさせてもらってますが、今作は細野さんが2005年に出演した「HYDE PARK MUSIC FESTIVAL」以降の活動、録音の真骨頂なんじゃないか!と勝手に盛り上がっております。何よりDISC 1のカバーの最高さ! そしてDISC 2が最高すぎてうれしさ爆発! わかっていたことですが、こうやって今聴いているってのが興奮します。だって僕は細野さんの歌声が大好き。だから聴いているだけでワクワクしてますが、今作は特にアレンジ、音質、ミックスなどなど、「わあ~」って声が出るくらい素晴らしいです。大らかな雰囲気の中にライブ感がしっかりある。だけれども、実に緻密な作りで、上品で、とても洒脱。おこがましくなりますが、すごく格好いい。そう、カッコいいんです。僕らの世代にとってもだし、もっと上の世代にとっても、若い世代にとっても。「Vu Jà Dé」、細部にまで丁寧に、でもラフのよさを忘れずに。いろいろなアイデアをユニークに試していたり。それでいて何度も何度も聴き返せる魅力。ホント素敵な作品です。

※1. 毎年5月に福岡県で開催されている野外フェス。細野が毎年出演している。

角張渉(カクバリワタル)
音楽レーベル・カクバリズム代表。1978年、宮城県出身。1999年に安孫子真哉(ex. 銀杏BOYZ)と共に自主レーベル・STIFFEENを立ち上げ、2001年11月にリリースしたFRUITYの音源集「"Songs" Complete Discography 」がスマッシュヒットを記録する。2002年3月にカクバリズムを設立し、第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7inchアナログシングル「Big Stomach, Big Mouth」をリリース。以降SAKEROCKやceroなど多彩なアーティストの作品を次々と世に送り出す。現在、レーベルの15周年を記念したツアー「カクバリズム15Years Anniversary Special」を開催した。
小西康陽

小西康陽

細野晴臣さんの新作をひと足先に聴かせていただきました。2枚組ということで、聴く前には少し身構えてしまったが、これはつまりレコードのA面とB面の二面、という趣きだった。もちろん、レコードの片面よりはいくぶん長いけれども、リラックスしていて楽しい曲が次々とやってくるから、まったく長いと感じさせない。

アルバムのオープニングを飾る「Tutti Frutti」はリトル・リチャードとスリム・ゲイラードの合体、なのだろうか。おなじみリトル・リチャードの「わんばぱるばっぷらんばんぶん」というフレーズは出てくるものの、メロディはまったく異なる。かといってスリム・ゲイラードの同曲を自分はメル・トーメの「Musical Sounds Are The Best Songs」という傑作アルバムの中のレパートリーとして知ったのだが、その曲とも違う? 早くセルフライナーノーツというのを読みたくなってくる。

乱暴に言うなら、アルバム1枚目は「泰安洋行」(※1)のB面の世界、アルバム2枚目は「トロピカル・ダンディー」(※2)のB面の世界か。もちろん、そんなにきっちりと分かれているわけではないが。

かつて「トロピカル・ダンディー」というアルバムを新譜として聴いたとき、「A面でアルバムのコンセプトが完結してしまった」「B面を準備する余裕がなかった」という作者の言葉をまるごと信用して、A面とB面の聴く比率は5対1くらいだったのだが、実はあのB面に作曲家・細野晴臣さんの真骨頂があったことをこの新作の2枚目を聴いてようやく理解する。数年前に観た神代辰巳の「宵待草」(※3)もやはり音楽が際立っていた。今回のアルバム2枚目に収められた器楽曲もまた素晴らしい。なぜか昭和30年代の(音羽の)キングレコードを連想させる音楽。例えば林光とか湯山昭とか。聴きながら「音楽教育」「情操教育」という言葉について考えたりするうち、あっという間にアルバムは終わってしまう。ラストの美しいインストゥルメンタルを聴いて「アヤのバラード」(※4)という曲を思い出してしまった。いつかインスト曲だけ10inchのレコードで出してください。

一方、歌手としてはいよいよ独自の境地にいる。こんなテネシー・アーニー・フォードのようなバリトンの声で歌うポップシンガーは、もしかしたら今世界中で細野晴臣さんだけかもしれないのだが、テネシー・アーニー・フォードにはない「軽み」「さっぱり風味」「カテキン成分」というような要素が、さらにこの歌手独特の持ち味となっている。もう1人思い出されるのは、ずばりホーギー・カーマイケル(※5)の名前だ。細野晴臣さんもこれからたくさん映画に起用されて、ワンシーンだけ歌を披露する場面を数多く残してほしい。

とりとめなく長々と書いてしまった。音楽家の音楽、という言葉が頭に浮かんできました。

※1. 1976年リリースの細野の3rdアルバム。“トロピカル3部作”の2作目。
※2. 1975年リリースの細野の2ndアルバム。“トロピカル3部作”の1作目。
※3. 1974年公開。細野は同作の音楽を担当した。脚本は長谷川和彦。映画のテーマ曲「宵待草のテーマ」はティン・パン・アレーでシングルリリースした。
※4. ティン・パン・アレー1975年のアルバム「キャラメル・ママ」に収録された。
※5. 1920年代に活躍したアメリカの歌手・作曲家。代表曲に「Stardust」「Georgia on My Mind」など。

小西康陽(コニシヤスハル)
1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして活躍する。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2017年10月発売された八代亜紀のジャズアルバム第2弾「夜のつづき」では、前作に続きプロデュースを担当した。
清水ミチコ

清水ミチコ

この夏、私は細野晴臣さんのライブに出てきました。正式に呼ばれたワケではありません。私には、ときどき細野晴臣さんのモノマネをしている素人の弟、イチロウという者がいるのですが(恐縮)、なんと先日、彼が細野さんの前座に呼ばれたのです。狂喜する弟。しかし、姉の私としては心配でいてもたってもおられず、勝手に参加するという暴挙に踏み切ったのでした(※1)。ところで、そのときに驚いたのが、その前座のあと登場なさった細野さんのステップのうまさ。「あんなにうまいんだ。知らなかった。」とつい口にすると、弟は言いました。「細野さんって、めっちゃ踊りがうまいんだよ。『The House of Blue Lights(※2)』、知らないの?」とのことで、私もYouTube(※3)で観てみました。本当になんか、おっかしかった。笑いました。達者なだけじゃない。「あんた、1人で何をしてるんだ」というおかしみと、軽妙さにあふれているのです。ここ最近、どんどん音楽がシンプルな方向にいってる気がする天才・細野さんは、このCDでも気楽さ、きさくさがなけりゃね、とでも歌ってるようにも聴こえます。どこか冗談でも言ってるかのような軽みがあって、本当にしゃれてる。しゃれてるのに恥ずかしくない、だなんて、なんてカッコいいんでしょうか。ただしちょっと不安なのは、今回の細野さんのツアーにはナイツ、ゆりやんレトリィバァなどが出演するそうで、どんどんお笑い色が強まっており、軽妙の一途をたどっておられます。そのうちご本人が芸人になってしまうのではないでしょうか。ま、それも軽妙ですけど。

※1. 参照:細野晴臣、初夏ツアー浅草公演で大喝采「引退後初ライブです」
※2. 2013年発売「Heavenly Music」収録曲。近年のライブでもキラーチューンとしておなじみ。
※3.

清水ミチコ(シミズミチコ)
岐阜県出身のタレント。1983年にラジオ番組の構成作家として活動を始め、翌1984年にはテレビCMの声優を務める。1986年に初ライブを行い、1987年10月にフジテレビ系「笑っていいとも」のレギュラーに起用され全国デビューを果たす。1987年12月にアルバム「幸せの骨頂」でCDデビュー。洒脱なトークと、幅広いレパートリーのモノマネが世代を超えて愛されている。2012年にはデビュー25周年を記念してベストアルバム「清水ミチコ物語」を発表。2017年11月より全国ツアーを開催中で、12月30日に5回目の東京・日本武道館公演「国民の叔母 清水ミチコのひとりジャンボリー ~祝 武道館5回目スペシャル~」を開催する。
細野晴臣「Vu Jà Dé」
2017年11月8日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
細野晴臣「Vu Jà Dé」

[CD2枚組]
3564円
VICL-64872~3

Amazon.co.jp

DISC 1「Eight Beat Combo」
  1. Tutti Frutti
  2. Ain't Nobody Here But Us Chickens
  3. Susie-Q
  4. Angel On My Shoulder
  5. More Than I Can Say
  6. A Cheat
  7. 29 Ways
  8. El Negro Zumbon(Anna)
DISC 2「Essay」
  1. 洲崎パラダイス
  2. 寝ても覚めてもブギウギ ~Vu Jà Dé ver.~
  3. ユリイカ 1
  4. 天気雨にハミングを
  5. 2355氏、帰る
  6. Neko Boogie ~Vu Jà Dé ver.~
  7. 悲しみのラッキースター~Vu Jà Dé ver.~
  8. ユリイカ 2
  9. Mochican ~Vu Jà Dé ver.~
  10. Pecora
  11. Retort ~Vu Jà Dé ver.~
  12. Oblio
細野晴臣(ホソノハルオミ)
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下ろした。2017年11月に6年半ぶりとなるアルバム「Vu Jà Dé」をリリースし、同月よりレコ発ツアーを行う。
細野晴臣 アルバムリリース記念ツアー
  • 2017年11月11日(土)岩手県 岩手県公会堂 大ホール
  • 2017年11月15日(水)東京都 中野サンプラザホール
  • 2017年11月21日(火)高知県 高知県立美術館ホール
  • 2017年11月23日(木・祝)福岡県 都久志会館
  • 2017年11月30日(木)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2017年12月8日(金)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール

2017年11月20日更新