ニコ動のトレンドが読めるヤツはうさんくさい

──今のGeroさんの姿、いわゆる「歌ってみた」界隈の人気者になるためのブレイクスルーになった曲は？

次の年（2009年）の春頃に歌った「チルノのパーフェクトさんすう教室をメタルアレンジしてみた」っていう曲かなあ。当時兵庫に住んでいて、動画を投稿したその足で東京の友達の家に遊びに行ったんですよ。で、その友達がメシを食ったり、飲んだりしながらニコニコを観始めて「歌ってみた」のランキングをポンッとクリックしたら、その動画が3位にいて「えっ!?」ってなったのをすごく覚えてます。

──勝因はなんだったんだと思います？

もともとANCHANGさんに影響を受けたメタル歌唱を得意としてたから、それがハマったのか……。その曲って同人ゲームの「東方Project」関連の曲なんですけど、当時ニコニコで東方が盛り上がっていたので、そういうタイミングのよさもあったのか……。

──「のか……」ってことは、今のGeroさんのような立場になってもニコ動のトレンドは読みにくい？

逆にもし「読める」って言ってるヤツがいるなら、僕はソイツのことをうさんくさいって思うだろうな、ってくらい読めないですね。ものすごい自信作でも思いのほか再生されないこともあるし、30分くらいで歌録りをしてポーンって投稿した動画が伸びることもありますし。流行っているジャンルの曲を歌っても伸びなかったり、趣味丸出しで歌った曲が伸びたりすることもありますし。そういうところも含めてニコニコは面白いんですよ。

──リサーチできないことは面白い？

すっごい面白いですね！ 「大変だ」って感じてる人はすごく野心が強いんでしょうね。「ここで人気になって、何者かになろう！」みたいな目標があるから大変なんでしょうし。

「歌うのが好きだからチャンスがあればがんばりますよ」

──一度バンドで挫折しているから「歌ってみた」でリベンジ、みたいな感覚は……。

まったくなかったです（笑）。だって僕が投稿を始めた当時って「歌ってみた」の人は誰もCDなんて出してないし、ライブもやってなかったですもん。なので僕の歌を聴いてくれた人がどう思うのか？ それを見てみたいっていう思いで投稿してましたね。ただ、根底に「歌うことが大好きだ！」っていう気持ちがある以上、チャンスはつかみたいですよね。僕を含め、ライブに出させてもらったり、CDをリリースしたりする人が増えてくる、要は商業のニオイがし始めると「趣味でやってたくせに調子に乗って！」って思う方もいるとは思うんですけど「いや、歌うのが好きなんだから、そういうお話があればそれはうれしくなるし、がんばりもしますよ」って。

──事実、メジャーデビューの前にチャンスをつかんでますよね。ライブやイベントに客演したり、「歌ってみた」のコンピ盤に参加したりしている。そういうオファーはいつ頃から？

投稿を始めて1年ちょっとくらいの頃に神戸であった「にこれぼりゅーしょん21」（2010年1月）っていうライブに誘われたのが初めてですね。それまで3人のお客さん相手にしかライブしたことなかったのにその日は超満員、500人くらいのお客さんがいて、もう何をやったか覚えてないくらい緊張したんですけど（笑）。あとちょうどその頃「ホストクラブ Smiley*2」っていうCDにも参加させていただいて。そのあたりからいろんなお話をいただいたりすることが増えていった感じですね。

──で、2011年にはオリジナルフルアルバム「Gourmet」を、2012年には「Cross」というミニアルバムをインディーズでリリースするまでになった、と。だから今回のメジャーデビューについては少し不思議なんですよ。「Cross」の収録曲の中にはゲームやテレビドラマのタイアップ曲もあるし、あと「Gero 1stパーソナルブック『Gero』」（主婦と生活社）というアーティスト本も出版していますよね。正直、インディーズでも十分活動できたんじゃないかな？って。

やっぱりメジャーに対する憧れがすごく強くありましたから。もともとメタラーであると同時にアニソンシンガーにも憧れていて、尊敬するシンガーはANCHANGさんと影山ヒロノブさんなので。昔から影山さんの歌うアニソンに勇気をもらっていたのでそういう人になりたいな、という思いがあったんです。実はアニソンシンガーのオーディションを受けたりもしていましたし。

メジャーデビューするための責任と恐怖

──それはそれでまた不思議なんですけど、正直な話、これまでにも「メジャーで」っていう打診はありましたよね？

2～3年くらい前からありました。

──でもそのときにはメジャーデビューしていない。

責任があるじゃないですか、メジャーに行くには。ちゃんとプロとして恥ずかしくないアルバムを作って、ライブをしなければならないっていう。でもニコニコ系のアーティストって「音源を作るのはうまいけど、生に弱い」ってよく言われがちで、実際、自分も当時の自分に対してそう思ってたんですよね。音楽的な知識も少なかったから、具体的にどういう人になれるのか、なりたいのか、自分の中にまったくビジョンがなかったんです。

──どうやって克服しました？

経験ですね。メジャーに行くのは、ツアーにせよ、アルバム制作にせよ、もっといろんな経験を積んで、自分のやれることや、やりたいことを知った上でって思っていたので。だから「Gourmet」と「Cross」を作って、2年連続でツアーをやったんですけど、それでやっとある程度自信がついたし、視野も広がった。そうしたら今度はもっとクオリティを高いものを届けたいって欲が止まらなくなったんですよ。「もっとできるはずだ」って。

──その「もっと」を実現するためのメジャー進出？

そうですね。CDにせよライブにせよ、もっと上を目指すにはセルフプロデュースのインディーズでは限界があって。そう思ってたときにタイミングよく今のレーベルから声をかけてもらったので「ああ、まさに今やな」って感じで「よろしくお願いします」と。もしかしたらビジョンが見えなかったっていうよりも怖かったのかもしれないですね。プロになるなら、クリエイティブのことがきちんとわかっていて、クオリティの高いCDを作って、クオリティの高いパフォーマンスやステージングを見せられるシンガーでなければならないし、そういうシンガーになりたかった。そんな成長ができてないうちから勝負はできなかったっていうのが正解なんだと思います。