ナタリー PowerPush - BUMP OF CHICKEN
のび太とリルルの友情から生まれた やさしく力強い「友達の唄」
のび太はいつも友達のまま見守ってくれていた
──藤原さんはどのように「友達の唄」の作曲に向かっていきましたか?
藤原 いざ、曲を書くとなったときは、「鉄人兵団」で自分がいちばん思い入れのあるシーンを思い浮かべましたね。
──それはどのシーンですか?
藤原 終盤の、のび太とリルルというメインキャラクターの友情を巡るシーンなんですけど。半壊状態にある街の地下鉄の階段で思い悩むリルルがしゃがみ込んでいるんです。それをのび太が見つけるんです。で、リルルは振り返って笑うんです。子どものころからそのシーンが特に印象に残っていて。「鉄人兵団」はもちろん映画版も観たんですけど、どちらかというとマンガ原作の記憶のほうが強くて。子供のころ、家にコミック版があって何度も読み返していたから。
──読み返す度にそのシーンが心に刻まれていった。
藤原 うん。「このときのリルルってどんな気持ちなのかな?」って。のび太もまた、いろんな複雑な思いを抱えてリルルを探しにきてくれたんですよね。そのリルルとのび太の情景を思い浮かべながら、ギターを弾いて、歌詞を書いていたんですけど──最初はどちらかというと、リルルに寄った気持ちがあったんですけど、そうじゃなくてこれは俺自身の気持ちなんだなってどんどん自覚していったんです。思い返すと、読者である自分が何かに悩んでるときも、うだつが上がらないときも、のび太はいつも友達のままで見守ってくれていたような……。そうやって、のび太がいつも自分と一緒にいてくれたという感覚があるんですよね。のび太とリルルの印象的なシーンを入り口にして、自分から見たのび太、さらにのび太を通して、「ドラえもん」という作品を感じながら曲を書いていって。そのシーンはもしかしたら、自分だけじゃなくて、「ドラえもん」という作品と受け手の象徴的なひとコマなのかもしれないなって思うようにもなってきて。「鉄人兵団」という窓枠を通して、自分の思いがどんどん外にも広がっていったんですよね。「鉄人兵団」のコミック版を読んでいたころの僕も、今の僕も全部そこにいて。さらに、ここまで一緒にバンドをやってきたメンバーに対しても思いが向かっていったし。
──すごく個人的かつ普遍的な友情を描く歌になっていった。
藤原 うん。小学校のころの友達、スタッフ、リリースの度に取材してくれる人たち、その記事を読んでくれる読者、CDを聴いてくれるリスナー、ライブに来てくれるお客さんにもどんどん思いが向かっていって。それで、こういうスケールの曲になっていったんです。
やっぱりのび太はヒーロー
──そういう曲の書き方をしたのは初めてですか?
藤原 具体的な主題歌のお話をいただいて、その物語のモチーフを基軸に始まるというのは初めてですね。今まで主題歌のお話をいただいたときは物語と自分の共通項を探すことが多かったんですけど。今回はもう、のび太が自分のなかにいてくれたんだ、またはのび太が自分を俯瞰の位置から見てくれていたんだ、というどちらの感覚もあったので。
──「ドラえもん世代」ってないと思うんです。「ドラえもん」という作品が誕生してからは、どの世代も同じように親愛なる感情を覚えてきたから。
藤原 そうそう、僕の甥っ子も大好きですし。世代は関係ないし、時間も超えてるから、「ドラえもん」の話は誰とでもできるという。それはすごいことですよね。
──そのなかでものび太の存在は特別ですよね。自分自身がそこにいるかのように存在してくれるし、だからこそ藤原さんが言うようにいちばん近くで見守ってくれる友達のようにも感じる。
藤原 そうなんですよね。ずっと傍らにいてくれる安心感がのび太にはあって。すごくダメなやつでもあるんだけど、「なんでそんなに優しくできるの?」みたいな、驚くほど深い優しさをもっている一面もあるし。のび太が身をもって教えてくれる教訓もあるし、のび太が発揮するものすごい勇気に感動することもある。それはどうやったってマネできないなと思うんですよね。曲を書きながらやっぱりのび太は主人公だし、ヒーローなんだって思った。それは自分がずっと思っていたことではなくて、心のどこかでそういうふうに思っていたのかもしれないと曲を書きながら改めて気づいたことで。だから、ドラえもんはこういうやつ、のび太はああいうやつって、実はあんまりわかってなかったのかもしれないなって思いましたね。
──そもそも「ドラえもん」の現代を軸に過去や未来を訪ねるという世界観も、藤原さんのソングライティングの性質とすごく近いものがあると思うんですよね。
藤原 今回ほかにいくつかインタビューをしていただいたんですけど、何人かのインタビュアーの方からもそういうふうに言っていただいて。ああ、そうかもしれないなって僕も思いましたね。ただ、自分がどういう影響を受けているのかは簡単には言えなくて。それがわかるにはもう少し時間が必要かもしれないですね。
BUMP OF CHICKEN(ばんぷおぶちきん)
藤原基央(Vo, G)、増川弘明(G)、直井由文(B)、升秀夫(Dr)の幼なじみ4人によって、1994年に結成。高校入学後に本格的な活動をスタートする。地元・千葉や下北沢を中心にライブを続け、1999年にインディーズからアルバム「FLAME VEIN」を発表。これが大きな話題を呼び、2000年9月にはシングル「ダイヤモンド」で待望のメジャーデビューを果たす。
その後も「jupiter」「ユグドラシル」といったアルバムがロックファンを中心に熱狂的な支持を集め、2007年には映画「ALWAYS 続・三丁目の夕日」主題歌に起用されたシングル「花の名」を含むメジャー3rdフルアルバム「orbital period」をリリース。2008年には全国33カ所41公演、22万人動員の大規模なツアーを成功させた。
2009年11月に両A面シングル「R.I.P. / Merry Christmas」を発表したあとは、精力的なペースで楽曲をリリース。2010年4月にシングル「HAPPY」「魔法の料理 ~君から君へ~」を、10月にシングル「宇宙飛行士への手紙 / モーターサイクル」を発売。12月には宇宙飛行士を意味する単語をタイトルに冠したアルバム「COSMONAUT」をリリースした。繊細かつ大胆なバンドサウンドと情感豊かな歌詞が多くのリスナーを引きつけ、絶大な人気を集めている。