音楽ナタリー PowerPush - bohemianvoodoo
メロディを追求する、歌えるインストバンド
ジャズやラテンを音楽性の軸としながらも、何より「歌心」を感じさせるメロディが印象的な横浜発のインストバンドbohemianvoodoo。2年ぶりとなる3作目のアルバム「Aromatic」は、新ドラマーに山本拓矢を迎え、アナログレコーディングで生々しい演奏をそのまま封じ込めるとともに、初めてのボーカル曲やカバー曲も収録するなど、チャレンジ精神にあふれた1枚となった。「好き」を創作の原点に、確かな歩みを続けてきたこれまでと、充実の新作について、メンバー4人にじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 金子厚武 撮影 / 平沼久奈
きっかけを作るのはジャムセッション
──まずはbohemianvoodooがどのように結成されたのかを話していただけますか?
木村イオリ(Key) 僕らは横浜で結成したんですけど、横浜ってジャズバーがすごい多い地域で、ジャムセッションをよくやってて、それにbashiryと一緒に遊びに行ったのがきっかけです。そのとき、その店のママさんから「あんたたち、うちでライブやってくれない?」って言われて、最初は全然乗り気じゃなかったんですけど(笑)、そのとき僕もbashiryもそれぞれオリジナルを書いてて、お互いの曲をCDに入れて交換したら、やりたいことが近いなって思ったので、そこからどんどんオリジナルを作るようになりました。
──Nassyさんは正確にはオリジナルメンバーではないそうですね?
Nassy(B) 僕はbashiryと同じ大学の音楽サークルに所属してたんですけど、卒業してからは全然楽器を触ってなかったんです。最初のメンバー編成だったときのライブはお客さんとして観に行ってて……もうそのときはバンド名あったんだっけ?
木村 あった。俺そのときの録音持ってるけど、ときどき「イェーイ!」って盛り上がってるNassyの声が入ってる(笑)。
Nassy そのあとに「弾いてくれない?」って言われたんで、「あのバンドか、やるやる」っていう。
──そして、昨年に山本さんが加入して、現在のラインナップになったと。
山本拓矢(Dr) 僕は3~4年前ぐらいにメンバーとは知り合ってて、それはトランペッターの島裕介さんのジャムセッションだったんですけど、当時Souliveとかにハマってて、オルガントリオみたいなのが好きだったから、何かできたらいいねって話はしてて。それから少し間は空いたんですけど、前のアルバムが出る直前ぐらいに……。
木村 前のドラマーがバンドを続けられなくなってしまって、そのときに速攻電話して、呼び出して、口説きました(笑)。
山本 そのときもジャムセッションでしたね。「遊びに行こう」って言われて。
bashiry(G) ここぞってときは、ジャムセッションに誘うんですよ(笑)。
メロディが軸
──bohemianvoodooの音楽性は、もちろんジャズが1つの軸にはなってると思うんですけど、同時に「ジャズだけじゃない」っていうのも重要で、より多くの人に届く音楽だと思うんですね。そのあたり、ご自身たちとしてはどんなことを意識されていますか?
木村 最初は当時流行ってたThe Five Corners QuintetとかJazzanovaとか、ちょっとクラブ寄りのサウンドをやりたいっていうので始めてはいるんですけど、今はもうちょっとアコースティックになって、純粋にメロディを楽しんでほしいし、あとは曲の展開で風景とかをイメージしてほしいなって思ってます。なので、クラブ寄りというよりは、もっと幅広く、いろんな人に楽しんでもらえる音楽っていうイメージですね。
bashiry インストの音楽をやりたいっていうのがまずあって、ジャズの延長で楽器を主人公にしたいとは思ってたんだけど、ちゃんとメロディがある、歌があるっていうのは、ずっとイメージしてますね。それ以外の「ジャンルはこう」みたいなのは、ほとんど意識したことないかも。
Nassy どんどんなくなってきてるよね、きっと。結成してしばらくはいろいろ考えてたと思うけど。
bashiry もともとバックグラウンドが全然違くて、もちろんみんなジャズは好きだけど、そこにすごくこだわったりこだわらなかったりは人それぞれで、ラテンが好き、ヒップホップが好き、ファンクが好きって人が集まって、ジャンルはどんどん関係なくなっていったのかなって。
──それよりも、さっきおっしゃったように「メロディ」が軸だと。
Nassy 曲を合わせるときも、みんな無意識にメロディが歌えるように楽器を弾いてると思うんですよね。細かい音符とか、メロディに合わせて作ってるんで、そのあり方はきっと昔から変わってない部分かなって。
──新しく入った山本さんは、一番客観的にバンドを見れているかと思うのですが。
山本 前のドラムのときの音源を聴いても、テクニックのベーシックとしてジャズはあるんですけど、アプローチの仕方はジャズではないんですよね。例えば、ラテンをやる上でも、スペイン語圏とポルトガル語圏だとベーシックになるリズムって全然違うんですけど、そこはあえて考えないようにして、あくまでメロディに対してどうリズムを当てはめていくかっていうのを考えるようになりました。そこはすごい特殊だと思うんですよね。「レゲエバンドがブラジリアンっぽいのをやってる」とかだと、聴いててなんとなくわかるんですけど、このバンドはそこがわからない。
木村 だから逆に言うと、メロディを軸にしないとまとまらないんですよ。それぞれが1つのジャンルを突き詰めてるわけではないので、いろんなニュアンスのごった煮になってて、それをまとめてるのがメロディなのかなって。ただ、僕らが聴いてきたのって、管楽器とか歌が入ってるものが多かったから、そういう曲をギターとかピアノで弾くと、若干パワーが足りないんです。それを補う意味で、ユニゾンで一緒のメロディを弾くっていうのを始めたんですけど、今はそれが逆にbohemianvoodooの個性になってるかなって思いますね。
アナログレコーディングのよさ
──では、アルバムについて聞かせてください。4人のメンバーのみの演奏で、なおかつアナログレコーディングを行ったのは、やはり今のメンバーになってからの初めての作品ということで、このメンバーの演奏の魅力を閉じ込めようという意図があったのでしょうか?
木村 そこを追求しようという思いはありました。前作はホーンセクションをがっつり入れたんですけど、ツアーは4人で回ることが多いのもあって、まずは「4人のサウンドはこれだ」っていうアルバムを1枚作りたくて。ただ、アナログレコーディングに関しては、スタジオに行ったら「アナログでできるよ」って言われたんで、1テイク録ってデジタルと聴き比べたら、「アナログのほうがいいね」っていう感じで。
Nassy やっぱり、聴いたら違いは一発でわかりましたね。しっかり鳴ってるんですけど、耳が全然痛くならずに、優しくて、カーテンに包まれたみたいな音で。なので、アコースティックで録るならこっちだなって。
木村 いいスピーカーで聴くとよりわかるんですけど、すごい音に立体感があって、目の前で演奏してるんじゃないかってぐらい、各楽器が分離してよく聞こえるんです。
──ただ、パンチインがあまりできないぶん、メンバーそれぞれの技量や、バンドのグルーヴが問われる録り方でもありますよね。
木村 確かに、今回はけっこう直せないところも多かったので、「ドラムはいいけどピアノがよくない」とか、「勢いあるけど走りすぎかも」とか、ガーッと録った上で、「どれにする?」っていうのはけっこう悩みました。
Nassy 一番僕たちらしいテイクを、いい悪いではなくて、ボヘっぽいテイクを選んだ気がします。
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収録曲
- Seven Color Days
- El Ron Zacapa
- Cardamom
- Mothertree feat. Aki Sawazaki
- Families
- Ferris Wheel
- Cleopatra's Dream
- Skyroad
- Relation Ship feat. Hiro-a-key
- Father And Bookshelf
- A Peacock
- Jet Setter feat. Hiro-a-key & Aki Sawazaki
- Flyaway
bohemianvoodoo(ボヘミアンブードゥー)
bashiry(G)、木村イオリ(Key)、Nassy(B)、山本拓矢(Dr)によるインストバンド。2008年に結成され、東京や神奈川を中心にライブ活動を開始する。2011年にはMotion Blue yokohama初登場にして同所歴代観客動員記録に名を連ねる。2012年12月、新鋭レーベル・Playwrightより2ndアルバム「SCENES」を発表し、近年の若手ジャズバンドとしては異例のセールスを記録。2013年、ドラマーが井上孝利から山本拓矢に交代。2014年1月にはブルーノート東京に出演するなど急成長を遂げている。同年11月、3rdアルバム「Aromatic」をリリース。