ナタリー PowerPush - aiko

「君の隣」で歌うということ

別れたくない彼氏をつなぎ止めるような気持ち

──aikoさんご自身は、どうしてファンの人が自分のライブに来るんだと思っていますか?

それはわからない!(笑) どうしてだろうって思います。私も必死なんですよ、本当に。別れたくない彼氏をつなぎ止めるような気持ちでやっています(笑)。

──おお!(笑)

「あれ? こいつにこんなところあったんや」っていうふうに毎回気付いてもらうためにはどうしたらいいんだろうって。「もう、しょうもないから別れようかなあ」って思ってる彼女の最後の一品料理が意外においしかったみたいなことってあるじゃないですか(笑)。「あ、こういうのも作れるんだ。ちょっとまた食べたいな」とか「あれ? マッサージさせたらめっちゃうまいやん」って思ってほしいみたいな、そういう感覚ですよ、本当に。

──なるほど(笑)。お客さんを楽しませるためにどこかに工夫をし続けるというか、そのために努力をするというか。

それを演出とかスタッフの皆さんも含めてみんなでやってるんです。私のライブでは、その日のテーマを決めて即興で1人ひとり演奏してもらうバンドメンバー紹介だったりとか、私がお客さんから集めた言葉を使って即興で曲を作って弾き語りをするということとか、ライブでの化学反応から生まれる新しいことがいつもあって、そのときそのときでどんどん生まれてくる新しいものを1つひとつ大切にしながらやっていて。その感じが、なんていうんでしょうか……里芋の煮っころがしにゆずが乗っている、みたいな(笑)。そのひと手間を大事にするんです。

──確かにaikoさんのライブにはそのひと手間をいろんなところに感じます。

手を変え品を変え、次はどうしたらいいだろうって。あんまり人がやっていなかったり観ていなかったようなところに、何かいたずらをするのが好きだから、面白いことがそこに落ちてないかなと思っていつも考えています。楽しくやりたいんですよね、本当に。一生懸命楽しみたい。

カップリングは「舌打ち」と「朝寝ぼう」

aiko

──カップリング曲についても聞かせてください。2曲目が「舌打ち」で、3曲目が「朝寝ぼう」。曲名からすでにaikoさんっぽいですけど(笑)、特に「舌打ち」はaikoさんにとって新境地とも言えるような、かなり勢いのあるロックチューンでびっくりしました。どうしたんですか?(笑)

あはははは(笑)。「舌打ち」は最近一気に書きあげた曲ですね。もう本当にこの音が頭で鳴ってて(アレンジャーの)島田(昌典)さんが形にしてくれました。

──歌詞にはけっこう強い言葉が並んでいますよね。

私、家でこういうことを思うんですよね(笑)。1人になると「しょうもないなあ」って自分のことを思うんです。気持ちもちゃんと言えないし「もう、なんやねんおまえ」って。自分のことをそう思うような、ささくれてるときに書いた曲です。

──感情がかなりむき出しに表現されてますよね。

そうですね。実際に舌打ちもしてるし。あとわかりやすい関西弁が詞に入ったのも初めてなんです。

──聴いたときびっくりしました。「忘れたくないんやもん」って。

「ほんまにこうやねん! こうなんやもん!」って言いたかったんです。これまでも「ぬくい手」とか、自分で気付かないうちに歌詞に関西弁が入ったことはあったんですけど、「これ明らかに関西弁やん」って自分で認識しながら書いたのは初めてで。でも、伝えるにはこの言葉だったんです。

──歌詞の文字数もすごく多くて、言いたいことがたくさんあるんだなあと思いました。

歌詞カードを見たらびっしりでちょっと笑いました。すっごいがんばって1ページに入れてくれたんだなあって。でもそのぐらい言いたかったというか、夜、1人でいるときに洗濯しながらとかパソコンをいじりながらとか、掃除しながら思っていることを曲にしました。

──そして3曲目は「朝寝ぼう」。

これを書いたときは本当は朝寝坊をしたんじゃなくって、寝てなかったんですけど、朝が来て、外を見たときに日射しがすごく強くって、パキッとしてて。たぶん土日とか休日だったのかなあ……。平日とは空気が違うじゃないですか、土日って。そんな穏やかな日に、すごい自分もダラーッとして、ぼーっとしてたときに、向かいの建物を見て「きれいだなあ」って思って。そういう穏やかで当たり前のことを大事だと思う気持ちを曲にしました。悲しいことやうれしいこと、いろんなことを経験して感じたからこそできた曲ですね。

aiko(あいこ)

1975年大阪出身の女性シンガーソングライター。1998年にシングル「あした」でメジャーデビュー。その後「花火」「桜の時」「ボーイフレンド」などのシングルがヒットを記録し、2000年に「NHK紅白歌合戦」初出場を果たすなど、トップアーティストとしての人気を不動のものとする。2011年には初のベストアルバム「まとめI」「まとめII」を2枚同時発売し、2012年6月に10thオリジナルアルバム「時のシルエット」をリリース。2013年春にはライブ映像作品集「15」、同年7月にシングル「Loveletter / 4月の雨」を発表し、2014年1月に通算31枚目となるシングル「君の隣」をリリース。女性の恋心を綴った歌詞とユニークかつポップなメロディで幅広いファンを獲得し続けている。