伝説的なレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの生涯を描いた映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」が5月17日より全国公開される。
「ボブ・マーリー:ONE LOVE」は、1945年にジャマイカで生まれ、36歳の若さでこの世を去ったボブの軌跡を追った伝記映画。彼とゆかりの深い実際のロケーションでの撮影、再現度の高いライブシーンを通じ、その生涯の真実に迫っている。製作にはボブの妻であるリタ、息子のジギーといったマーリー・ファミリーや、彼のバンドであるThe Wailersのメンバーも加わり、ボブの素顔をリアリティたっぷりに浮き彫りにしている。
本作の公開を記念し、映画ナタリーと音楽ナタリーでは「ボブ・マーリー:ONE LOVE」の特集企画を連続で実施。音楽ナタリーには、ボブを敬愛するSUPER EIGHTのギタリストで俳優としても活躍する安田章大に、映画の感想やボブに対する思いを語ってもらった。ボブが残した音楽に強い影響を受け、「Everything's gonna be alright(すべてはうまくいく)」という言葉を大切にしているという安田は、ファンならではの視点から「笑顔からあふれ出るエネルギーを浴びてほしい」といった本作の魅力と見どころを、そしてステージに立つ同じアーティストとしての視点から「思いを伝えることの大切さ」を熱く語ってくれた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 森好弘スタイリング / 和田ユキヨヘアメイク / 山﨑陽子
「ボブ・マーリー:ONE LOVE」
日本オリジナル予告公開中
勝手に体がリズムを取ってしまう映画
──安田さんがボブ・マーリーを知ったきっかけは?
具体的にいつかはよく覚えていないんですが、気付いたら大好きになってました。とにかくボブ・マーリーさんの音楽は自分の感情をたぎらせるというか、すごくパッションが動く感覚があって。もしかしたら僕が奄美大島で育ったことも関係しているのかもしれないですね。奄美大島の周辺には小さな離島がたくさんあって、それぞれの土地に“シマ唄”が受け継がれているんです。その中ではアフリカのジャンベ(打楽器)を使うこともあるので、その感覚がレゲエ音楽と共鳴しているのかなと。なのでこの映画を観てる最中も、勝手に体がリズムを取ってしまって(笑)。
──体が反応してしまう。
細胞レベルで好きなんでしょうね。ボイトレの先生にも「あなたは本当にレゲエが好きだね。R&Bでもソウルでもなく、横ユレだから」と言われるし(笑)。「歌いたい」「演奏したい」ということでもなく、レゲエを体の内側に入れたい、摂取したいという感じなんです。気分を落ち着かせたいときにも聴くし、テンションを上げたいときもそう。あとは“言葉”ですね。「Everything's gonna be alright」は間違いなくボブ・マーリーさんの曲で覚えたフレーズだと思います。彼が生まれたのは1945年で、当時のジャマイカには社会的な、政治的な問題がいろいろあった。彼自身もいろいろな悩みが山ほどあったはずなんだけど、それでも「Three Little Birds」という曲の中で「Everything's gonna be alright」と歌い続けた。今、僕たちが生きてる世界も「そんなに変わらないな」と思うし、僕自身もこの言葉をずっと大事にしてきたんです。
──なるほど。
ボブ・マーリーさんのドキュメンタリーもよく観ていて、「いいな」と思う言葉が出てくる場面をiPhoneで撮って保存してるんですよ。例えば「命拾いをして、生きる喜びを感じる」ということをおっしゃっていて。この映画でも描かれてますけど、ボブ・マーリーさんはフリーライブ(1976年開催の「スマイル・ジャマイカ・コンサート」)の直前に銃撃されたんですよね。そのことをきっかけに死を意識するようになって、一瞬一瞬が大切で、1分1秒が貴重だと感じるようになった。過酷な経験をしながら言葉や音楽を生み出してきているんだなと思うし、彼の言葉にはいつもパワーをもらっていますね。
──ボブ・マーリーから受け取ったものは、安田さん自身の音楽活動にも影響していますか?
グループではポップス的な楽曲や歌詞を歌うことが多いですけどね。6、7年くらい前なんですけど、テレビのニュース番組を観て「これってどうなんやろう?」と疑問に思ったことを歌詞にしたこともあります。社会風刺というか、世界に対する自分の思い、思想みたいなものを歌にしたという。その曲は発表してなくて、自分のiPhoneやパソコンの中に残ってるだけなんですけど、いつか自分もそういう表現を伝えられる時代が来ると思ってるし、ボブ・マーリーさんはずっと前からそれをやってきた方だと思います。なんと言うか、彼の音楽や存在が自分の感情、メンタルの土台になっている気がするんですよ。誰しも大変なことはいろいろあるけど、カラッと明るく「なんとでもなるよね」というマインドを持てているのは、ボブ・マーリーさんの音楽性や人間性、言葉による影響が大きいと思います。
彼が発したメッセージをしっかり受け取らないと
──では、映画「ボブ・マーリー:ONE LOVE」について聞かせてください。先ほど映画をご覧いただきましたが、まずは率直な感想を教えてもらえますか?
本当に面白かったです。ボブ・マーリーさんのことをそんなに知らない方が観ても、きっと彼のことを深く知るきっかけになる映画だなと。ラスタファリアニズム(かつてのエチオピア皇帝ハイレ=セラシエを神として信仰し、アフリカ回帰を唱えるジャマイカの黒人による宗教・政治運動)のこともしっかり描かれていたし。あとはやっぱり音楽ですね。彼らがどんなふうに楽曲を生み出して、それを大切にしてきたかがすごく伝わるサウンドメイクがなされていたので。親族の方も制作に関わっているそうですし、何よりリタ・マーリーさん(ボブ・マーリーの妻であり、バックコーラスも担当した)がお元気なうちに映画が公開されたのが素晴らしいなと。
──ボブ・マーリーを演じたキングズリー・ベン=アディルの演技も話題を集めています。
僕も舞台でヴィンセント・ヴァン・ゴッホを演じたことがあって、歴史的に著名な方を演じることの大変さ、難しさは少しわかるんですよ。ボブ・マーリーさんを演じるって大変なことだと思いますけど、映画を観始めてすぐに没入できました。リタ役のラシャーナ・リンチさんもそうですけど、皆さんすごかったですね。あとは演技だけではなくて、ボブ・マーリーさんの自宅の周辺だったり、襲撃を受けたスタジオの様子、空港に降り立ったときの雰囲気もすごく忠実に再現されていて。僕は実際に行ったことないですけど、ドキュメンタリーにも何度も出てくる場所なので「懐かしい」と感じました(笑)。サッカーをしているときの息の白さとか、靴下を出しているジャージの着こなしもそうですけど、細かいところまでリアルなんですよね。
──ライブの場面についてはどうでしたか?
僕はステージに立ってるときのボブ・マーリーさんが大好きなんですよ。“ジャー”(神)と会話するようなパフォーマンスというか、体という物体を使って、魂とジャーが交わってる状態になるんですけど、映画の中でもそれがしっかり表現されていて。
──ちなみに映画の中のライブシーンでは「1曲目は決めてない。神が教えてくれる」みたいなセリフもありましたね。
何も決めずにステージに出て、「『War』だ!」っていきなり演奏し始めて。あれは興奮するやろうなと思います。僕もSUPER EIGHTのメンバーに同じようなことを言ったことがあるんですよ。アンコールの曲について話してたときに「決めんとこうよ。何曲か用意して、その場で『どれがいい?』って感じでええやん」って。そのときは「いやいや、ちゃんと決めたほうがええやろ」ということになったんですが(笑)、もし個人でアコースティックライブとかをやる機会があったら、セトリは決めないと思いますね。お客さんと会話しながら、反応を見て、その場で決めていくんじゃないかな。あとはスタジオのシーンも見どころだと思います。「アンプはマーシャルで、キャビはオレンジなんや」とか「ギブソンSGのギター使ってたんやな」とか、いろいろ気になって(笑)。一番テンションが上がったのは、バンドメンバーが映画(「栄光への脱出」)のサントラのレコードをかけて、ボブ・マーリーさんが曲のアイデアを思いつく場面ですね。
──ボブ・マーリーの名盤「Exodus」が生まれたきっかけですね。
すぐに音を出して、その場でメンバーが参加して、セッションが始まる。ああいう時間は一番の“ごちそう”なんですよ、僕にとっても。それこそ、うちのメンバーと一緒に音楽を奏でるときもそう。はつらつとしたビートを叩いてるときもあれば、「今日はちょっと調子悪いかな」という日もあって。「ベースの指、ちょっともつれてるかな」とか「唇乾いててトランペット吹きにくそうやな」ということもありますからね(笑)。
──(笑)。ライブで「今日はいいグルーヴだな」というときもありますよね?
もちろんです。そういうときはみんなのノリがどんどんよくなる。さっき「ジャーとつながってるときのボブ・マーリーさんが好き」という話をしましたけど、僕もあんなふうにやりたくなっちゃうんですよ。客席に飛び込みたくなることもあるので、がんばって制御してます(笑)。
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僕が芸能の仕事を続けている理由