ナタリー PowerPush - AI
デビュー11年目の進化 移籍後初アルバム「INDEPENDENT」
昨年EMI Music Japanへ移籍し、心機一転を図ったAI。通算9枚目となるオリジナルアルバム「INDEPENDENT」には、彼女がじっくりと時間をかけて磨き上げた渾身の10曲が収められている。特徴的なのは、これまで以上に素直で等身大な歌詞と、近年のR&Bシーンの流行を取り入れたエレクトロサウンド。デビュー11年目にして、AIの音楽は着実に進化を遂げている。
ナタリーでは、アルバムを完成させたAIにインタビューを実施。サウンド面の変化、作詞面での変化を中心にさまざまな話を訊いた。
取材・文 / 鳴田麻未
感動しない曲も最高
──「INDEPENDENT」は、AIさんの新しい一面が見える作品だなと思いました。特にサウンド面では機械的なビートやエッジイなアレンジが効いていて新鮮ですね。
うん、新しいことがしたかったんだよね。今回は移籍してから初めてのアルバムっていうことで、リフレッシュするいいチャンスだったし、いろんな曲を作りたいなと思ってた。
──R&Bといっても、これまでのAIさんの作品に多かったオールドな風合いのものやソウル色の強い曲ではなく、最近の欧米のR&Bシーンで主流となっているエレクトロを取り入れていて。簡単に言うと今っぽい音だなと思いました。
実はエレクトロのサウンドが流行ってるって聞いたとき、私はあんまり好きじゃないなって思ったんですよ。やっぱりバラードとか、感情を出して歌い上げるようなR&Bのほうが好きで。例えばアルバム1曲目の「DANCE TOGETHER」なんて、サビでは「♪DANCE TOGETHER」って連呼してるだけでしょ。今まではこういう曲を作ろうと思わなかったし、歌ってるって感じがしなかったんですよ。
──ええ。
でも今、世界中のプロデューサーがそういう音を作ってるっていうのもあるし、いろんなトラックを聴かせてもらった中でもこの曲はカッコいいなと思えて。ただのいい音楽っていうか、感動しないものも最高だなって今は思います。自分の歌に関しても新しい挑戦がありましたね。昔だったらもっとメロディアスにしたり、もっと歌詞を詰めたりして、こんなにシンプルなままでは出さなかったんだけど。
──どうしてシンプルに削ぎ落とした表現に挑戦したんですか?
「もうわかるでしょ?」っていう。言いたいことは1番の歌詞でも、2番の歌詞でも言ってるわけで、これ以上メッセージを入れたらすごく無理してる感じに聴こえるんじゃないかと思ったんだよね。2曲目の「INDEPENDENT WOMAN」もそう。「INDEPENDENT WOMAN」っていうのが何かをわざわざ説明しなくてもさ、ほかの歌詞を読めば伝わると思うの。だからサビで「♪I'M INDEPENDENT WOMAN」って歌ったあとに、私はこうでこうでって説明はいらない。今回はそういうのいらないかなって思ったんだよね。
素直に自分の言いたいことを言おうと思った
──それから、普遍的で雄大な愛のメッセージを投げかける「One Love」も新鮮でした。
これも今までにあんまりないタイプですね。
──AIさんのキャラクターを考えると、こういう博愛的なナンバーや人類愛を歌った曲がもっとありそうな気がしますが、実は今までにあまりないですよね。
そういうことを言いたくても、別の切り口とか、回りくどい言い方で言ってきた気がします。でも去年、震災があったことで、細かいことは一切抜きにして素直に自分の言いたいことを言おうと思ったんです。「愛してるよ」とか「好きだよ。いつもありがとうね」とか、恥ずかしがらずにちゃんと言いたいなって。だってもし私が明日死んじゃったらさ、あの世に逝ってから「言っとけばよかった」って思うかもしれない。地震のおかげってのも変だけど、自分が良いと思うことはやらないとな、逆に良いことをしてる人はサポートしてあげたいなって、すごく感じたんですよね。
──なるほど。
まあ前から思ってたけど、やっぱりそういうことをストレートに言うと、ワーみたいな、ちょっとあるじゃん。なんかそういうのないですか?(笑)
──恥ずかしい?
そう、恥ずかしいし、キレイごと言ってると思われるのも嫌だし。それを恐れて、皮肉な言い方にしてみたり、遠回しな表現で気付かせるように書いたりしてましたね。「人の愛で人は変われる」とか「勇気をくれた僕から君へ」とか、こんなわかりやすい超普通のことは書けなかった。
──ストレートでシンプルな表現ができるようになった理由は、震災のこと以外にも何かあるんでしょうか?
私自身が30歳になったっていうのも大きいかな。やっぱり10代の自分がこう言うのと、今の自分が言うのとでは全然意味が違うし、前より自信を持っていろんなことを言えるようになったと思う。
──これは私の憶測ですけど、自信を持って物が言えるようになったことや、「説明し過ぎなくてもわかるでしょ」という感覚を持てたのは、AIさんがこの11年でリスナーとの信頼関係を築いてきたことが関係しているのかなと。
うん、みんながわかってくれるだろうっていう安心感も大きいですね。やっぱり最初は、どういう人たちが自分の曲を聴いて、聴いたときに何を思ってくれてるのかが見えなくて、不安な部分もありました。でもいろんなタイプの曲を出していく中で、たくさんの人がライブに来てくれたり手紙をくれたりして、ファンのみんなとコミュニケーションできるようになった。私もそれでパワーをもらったんだよね。だから今こうなれたのは、ずっと活動してきたことと、ファンの皆さんがずっと聴いてくれてるおかげだと思う。
CD収録曲
- DANCE TOGETHER
- INDEPENDENT WOMAN
- ハピネス
- アンバランス
- FUTURISTIC LOVER
- w / u
- ユメノムコウ
- One Love
- ウツクシキモノ
- Letter In The Sky feat. The Jacksons
AI(あい)
1981年アメリカ・ロサンゼルス生まれ、鹿児島育ちのR&Bシンガー。歌とダンスを本格的にレッスンするために10代でLAに渡ったのち、1999年にジャネット・ジャクソン「ゴー・ディープ」のPVにダンサーの1人として出演。帰国後、2000年にシングル「Cry, just Cry」でメジャーデビューを果たす。圧倒的な歌唱力やリアルな言葉で綴られたリリック、普遍的なメロディで多くのリスナーを獲得。数々のヒット曲を発表し、2009年に発表したベストアルバム「BEST A.I.」はオリコンウィークリーチャート1位を記録する。2011年に入ってからEMI Music Japanに移籍し、同年12月に移籍第1弾シングルとして「ハピネス / Letter In The Sky feat.The Jacksons」をリリース。2012年2月に移籍後初のアルバム「INDEPENDENT」を発表する。